③ 『避難訓練の告知を不思議に思う』
昇り始めた太陽の光がカーテンを越え、目にあたった。
眠りについた後に小雨が降ったのか、はたまた自分の汗のせいなのか、ベッドの布団やらに少し湿り気があった。
蝉というのはこうも朝っぱらから騒ぐのかと思いつつ体を起こし、全身に力を込めそのままリビングへと向かった。
大きく口を開けておはよと、母親と弟に向かって朝の挨拶を終わらせ、卓についた。
朝ごはんはいつも通り、味噌汁や焼き魚などの和食とその雰囲気に割って入るかのように食パンが皿に置いてある。毎度奇妙な組み合わせだと思っていても、慣れっていうのは恐ろしいものだ。
外食さきで、味噌汁を見たら食パンが頭に浮かぶようになった。
【ごちそっさん】
ミント風味のハミガキを終わらせ、量が少なくなったヘアミルクを使い髪のお手入れも済ませた。
大体の身支度も終わらせたところで忘れ物がないかチェックして、制服を着た。
【いってきやあす】
朝の校門は、早朝だと言うのに活気で溢れ、そこいらで挨拶が飛び交っていた。少々騒がしくも感じたが、自分もその一員なのでちょっとした文句を言うのはやめた。
三メートルぐらい先のところに“I LOVE 友”な親友を見つけ、そのすぐ後ろにまで近づき真後ろにスタンバイ。
【よっすよっす。 昨晩は...良い夜だったな】と
前日の夜に、女を連れ込んだかのようなエセプレイボーイで、冗談交じりで後ろから抱きついた。
びっくりはしつつも、似たようなノリでダメ男に引っかかったうぶな乙女を演じお互いのヘタな芝居を笑いあった。
校門の前の教師に挨拶をし、また笑い合い青春を強く感じた。
二年二組の教室に入り、自分の名札が張り付いた中村鈴音の席にカバンを雑に乗せ、そのまま椅子に腰をおろした。ちなみに、バッグハグをした親友は一組である。他の“I LOVE 友”達も一組だ。
着席したまま、SHRが始まるのを待つことにした。
女の担任が教室に入り、徐々にクラスの男も席に座り喧騒が薄れていった。
女の担任は二時間目と三時間目の間に不審者が校内に侵入してくるという避難訓練の告知をして、SHRが終わりまた喧騒が教室を包んだ。正直、訓練なのに告知をするのはどうなのだろうかとも思いつつ少し楽しみだった。
そして、そのまま一時間目の数学が始まった。
∑という新キャラも登場し、可愛い数字たちが記号やらで武装していくのが黒板に書かれていくのは腹立たしかった。黒板を写したノートをふと見たらエックスと「かける」を似たような書き方をしてしまったせいでとんでもない数式がいくつか出来ていた。朝の一時間目から数学させる学校に殺意が湧いた。
二時間目は情報の授業だった。
すると、学校のスピーカーから教師が大きな荷物が学校に運ばれたと不審者が校内の敷地に不法侵入した事を示す合言葉を言った。すると情報担当教師が避難するぞと意気込み、ぞろぞろと生徒たちを誘導した。
自分もその列の最後尾に加わった。こんなにもクラスメイトは、多かったのかと一瞬驚いた。
ふと「多いな」と口にした。だがよくよく見てみると一組のクラスとくっついただけだった。
何だ勘違いかと思いつつ、それを聞いた人がいないかと周りをなるべく自然に見渡した。
その後移動が始まり、前の集団のLOVE友たちと目があったのでお互いに手を振り合った。
全校生徒が五分もしないうちにグラウンドに集まった。そして、そのまま校長は集まるのが遅かっただの規律をどうの、娘は今どうなのみたいなどうでもいい話までし始めた。校長が絶好調なのか、それとも暑くて自分の時間感覚が壊れ始めたのか、わからなくなった。
そして、やっと校長の話が終わり生徒たちは教室へと帰った。帰ってからも教室は校長の愚痴で騒がしかった。
そこから四時間目の古典が終わり、昼飯の時間となった。
弁当を持ち、隣の一組の教室におじゃまして三人の友人たちと机を動かし弁当の蓋を開けた。
今日の弁当は、なかなか豪華でお米、唐揚げ、スープそして一組の教室に行く前に購買で買っておいた牛乳。合掌した。
【いただきます】
友人たちは、相変わらず美味しそうな弁当だと褒めてくれたが、彼女らも中々だ。
右隣の子は、みんなのより一回りデカい二段の弁当で、一段目には米だけ、二段目には、だし巻き卵に鶏むね肉とアスパラ、トマトを丸ごと使った炒め物でボリュームもすごかった。さすが運動部だと思った。
左隣の子は実にシンプルだった。弁当箱いっぱいに詰められたお米の上に梅干しが三個乗っていた。日の丸弁当にしてはちょっぴり豪華だ。弁当を入れていた保冷バッグからきゅうり二本とおにぎりを出した。
ふと、田舎に住んでいるまだ幼く夏の虫取り少年のいとこを思い出した。
目の前に座っている子もなかなかで、タコさんウィンナーの軍隊を弁当一つに詰めてきた。彼女も自分の保冷バッグから、卵サンドを出した。合うのか合わないのかいまいち分からない弁当だとは思ったが、タコさんウィンナーは見事で一つ一つ丁寧に顔まで作られていた。
可愛くやめて〜と言う友人たちから、少しずつ料理を頂戴してそのまま自分の弁当の一部にした。
右の子の炒め物を最初に頬張った、塩味がしっかり染み込んだアスパラと甘みが出たトマトは、冷めた後でも素晴らしい調和を生み出すものであった。次に左の子のお米、上手に炊かれており、自分好みの柔らかさでそのお米のポテンシャルが最大限に引き出されていた。最後に目の前の子のタコさんウィンナー、見た目だけでなく味のバランスも良く、ウィンナーの味を引き立たせていた。
友人たちに自分のスープを飲ませたら、満足し許してくれた。
友人たちと、校長のおまけで某学校日常のクズ男の悪口を言い合ったり、記憶には残らないようなくっだらないショートコントやおしゃべりをした。
そして、食事の時間も終盤に近づき自分も持ってきた保冷バッグから牛乳を取り出した。
この牛乳がたまらなく好きだ。家や他の場所で飲むのとは何かが違って授業に疲れた身に染みる。
手を合わせた。
【ごちそっさん】
友人たちから離れ、自分の教室に戻って自分の机に腕を置きそこに自分の顔を潜らせた。
他もろもろの授業が終わり。
そのまま、終わりのSHRも終わった。今日の課題や教科書を乱雑にカバンに詰め込み、下駄箱へ向かい下校した。
友人たちはみんな部活で忙しかったので、テスト期間の部活停止期間以外はこうして一人で帰宅する。
帰る直前、雨の匂いが鼻をかすめたので早歩きで帰ることにした。
今日も、砂浜に寄ろうと思ったがさすがにびしょ濡れで家に帰るのは気が引けた。
また、五時間目の体育でついた体の痛みもその判断の材料となった。
体育でのマラソンを思い出しグリグリと潰されているような痛みが右脇腹にこもった。
左手をその脇腹へ添えて、痛みを痛みで和らげるように右手の親指を使い脇腹の贅肉を押し込んだ。
鈍い痛みでの冷汗や太陽からの熱い眼差しによる汗、雨が降る前兆の湿気。
そんな色んなものが混ざった湿っぽい水気が制服シャツに染み込んだ。
ろくでもない不純物ばかりだったが、痛みは体の他の感覚を麻痺させてくれた。




