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一人目① 『なぜ扇風機が熱風を出す』

【ただいまあ】


お帰りなさあいという母親の声、弟達の走っているドンドンと響く足音と騒ぐ声。

それが聞こえると、家に帰ったって感じがして一気に外にいるときの自分が融解される。

帰ってそうそう、扉越しに伝わる大きく通る声で母親が、友人の家に行っていたのかと聞いてきた。


【いや、学校近くの砂浜に行ってたー】


母親は自分がどこに行ってたかが気になっているようだ、どこの母もそうなのだろうか。


母親がノリノリで、今日の夕飯が親子丼だよと言った。その声があまりにも大きくて玄関煮る私にまで届いた。松田聖子ちゃんの曲を口ずさみながら、ダンシングでもしてるのだろう。



【え、やった〜ぜい!】私もノリノリで母に返事した。✌



階段を登った、自分の部屋は2階の角部屋だ。風通しがすこぶる良いから結構気に入ってる。

全面アニメのポスターで彩られた壁、フィギュアにぬいぐるみで埋め尽くされたベッド。そう、自分の部屋はアニメLOVEな部屋なのである。


扉の生ぬるいドアノブに指先をかけて戸を開いた、そこには猛暑の壁が部屋からモワッてはみ出してきた。


私の部屋“だけ”クーラーがない。少し爪の伸びた手で首をさすり摩擦を起こした。

世界をここまで不平等に思ったのは久々だった。

窓をフルで開け、カチッと扇風機の動きを拘束する所を伸ばし、髪をかきあげ手指を巧みに操りヘアゴムで髪をポニーテール状態にして、おでこを扇風機にピタっとくっつけて、扇風機の強のボタンをおした。



【アアァァッッツツウウゥゥ!】



涼むためにつけたはずの扇風機が驚くほどの熱風を出してきよった。

とっさに某巨人漫画の某金髪女子がごとく扇風機に蔑視の眼差しを送った。地球温暖化をここまで身近に思える地球を憎んだ。人類はきっと、なにか神に反するようなことをしたのだろう。 人類に失望しながら足元をふらつかせ、未だに綺麗な自分の勉強机に向かった


名前の知らない青色のスクールバッグから必要のない大量の教科書や今日の課題を、ドスドスと重ねていった。下の階からは弟達のどっかの民族のような雄叫びが聞こえてくる、きっとゲーム機でも取り合ってるのだろう。


【はぁい、いま行くう】


母親の声が自分の部屋まで届いた。母親が見事に親子丼を持っている姿が容易に想像された。

自分の部屋の戸を開け、階段を駆け下りて寒いぐらい冷えた居間に飛び込み、しっかり扉を締めた。


【キンキンに冷えてやがるぜ】


母親が親指を立て自慢げにやってやったぜという顔をした。まあ確かに母親が一番最初に帰ってくるから部屋が冷房で冷えているのは彼女の手柄だろう。


私の鼻が親子丼のかすかに香ばしい匂いを捉えた、一瞬で席について背筋をピンと張らせた。



――そして親子丼が卓についた――



家が静まり返った、それが食事の合図だ。家族全員がゆっくりと手を合わせる。


【いただきます】


箸を持ち、丼を持ち、右手に持った箸でふわふわに仕上がった卵白を持ち上げて下に敷かれている親子丼で言うところの“親”を口元に運び、口に入れるとともに香りを楽しみ、頬張った。


【うんんまい】


声にならない声で言った。

両頬が本当におちてしまったのだろうか、あまりにも美味しい、あまりにも美味しい。


卵はふわふわと仕上がってスルッと口の中に入ったかと思えば卵のとろとろが口いっぱいに広がる。

鶏肉は、ちょうどいい噛み応えになり旨味がグラフで言うところの右肩上がりのように噛むたび美味しさが増している。また卵の甘み、鶏の旨味どちらもがお互いが好敵手であるかのように互いを高め合っている。

母親がこちらを微笑みながらみている。だが、それに反応することもせず私は七味をかけもう一口いった。

ゆっくりと口の中を満たしながら味わいそして両頬を落とす。これを何度も繰り返し、丁度、親子を食べ米が半分に減ったところでご飯のおかわりをする。汁がお米とお米の間を通り味がつく、そして多すぎる汁はおかわりで米が増えることにより、ちょうどいい濃さとなるがその濃厚さは落ちず、完璧な比率となる。

我ながら、おかわりをした量が黄金比だったことに自画自賛をする。


そして、家族全員がまた手をもう一度合わせればデザートの時間だ。

弟達はウキウキとそわそわしている、それを横目に私は幸福の親子丼に浸っている。


母がまたまた得意げにドヤ顔をして、冷蔵庫からブツを取り出した。

ジャジャーンと言いながら、両手を広げ、輝かしいブツを持っている。

家族全員の視線がそこに集まる、でてきたのは『高級アイス』だ。

その瞬間、全員の目つきが変わる。戦争だ。


【私はバニラァァアア!】家中にフレーバーの名が飛び交う。


弟たちは椅子から床へ降り立ち母親の方角へと向かった、自分も負けじと母親の元へ走り出した、

母親はドラクロワの描いた名画の「民衆を導く自由の女神」かのごとく家族をおびき出している。

よかろうならば じゃんけんだ。


出したグーで敗北を知り、バニラを逃がしてしまった。

だが、残り物には福があるとはこのことだろう今まで食べた中で

最も美味しいストロベリーを食えた気がした。

全員が手を合わせた。


【ごちそっさん】


その掛け声とともに夕飯が終わった。飯がうまけりゃあ、何でも許せるような気がした。



次の話は、ちょいダークですぜ

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