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車内


 _____ぴくり


 大破した車の中で、女の指先が小さくはねる。


 体の芯から震えるほどの寒気、ぼやけて安定しない視界。

 とめどなく溢れ出ていく血と一緒に、自分の命も流れ出ていっているのが分かる。


 せっかくの服が台無しだ。

 乾いた笑いを漏らしながら、女は一枚の名刺に手を伸ばした。


 生暖かく濡れた生地は重く、腕を動かすのも一苦労だ。


 そういえばと、女は家に残してきた娘を思い出す。


 誰に似たのだか、聞き分けのいい静かな子。

 でも、大きくなるにつれて自分に似て美人に成長してきた。


 もう少し笑顔を見せれば彼氏だってすぐできるだろうにと、からかったこともあった。


 思い出は、ちゃんとあるはずだ。


 なのに、娘の顔を上手く思い出せないのは、遠のいていく意識のせいだけじゃないだろう。


 女は、その事実に困ったように笑って短く息を吐く。


 後悔しないように生きた、最後は笑って死にたかったから。


 「その結果が、これかぁ……ははっ、まいったまいったぁ…………」


 ようやっと掴んだ名刺を、女はぎゅっと握り込んだ。


 何があってもこの手から離れないように、強く強く。



 _____マリー


 小さな呟きは本当に発せられたものだったのか。



 通りがかる人影すら見えない寂れた道路。

 誰にも気づかれないまま、女はゆっくりと目を閉じた。

 



 

 

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