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第39話 きょうだい


 事前に計画したルートをもとに、海乃たちは京都の町を巡って行く。


 清水寺から三年坂、二年坂へ。


 風情ある町並みとは裏腹に、お店に並んでいる商品は現代風にアレンジされているものも多く、とても華やかだった。


 食べ歩きをしようと辺りを見渡しながら歩けば、どれも美味しそうで目移りしてしまう。


 ああでもないこうでもないと言い合って、何にするのか選ぶだけでも大盛り上がりだ。

 これが修学旅行マジックというやつなのだろうかと、海乃はクラスメイトの誰かが言っていたことをふと思い出した。

 

 「ありがとうございました、お気を付けて!」


 店員から商品を受け取り、海乃は会釈をして既に買い物を済ませている紡たちに合流する。


 迷いに迷いぬいて買ったものを片手に、3人は道を歩いていった。





 海乃はたっぷりと抹茶パウダーがかけられたソフトクリームをぺろりとなめる。

 一気に口の中に広がった抹茶の香りと深い苦み。

 その味わったことのない濃厚さに思わず目を瞠った。


 隣で紡がみたらし団子を頬張って顔を輝かせる。


 「おいしい~!こんなにおいしいお団子初めて!」


 カップの中にたまっているタレをつけて、紡は小さな口をいっぱいに開けていた。


 日鞠は串に刺さっているかわいらしい和菓子の一つをじっと見つめた後、ぱくりとそれを口に入れる。


 「……ん、ほら」


 咀嚼し、飲み込んだ日鞠がずいっと串を差し出す。

 海乃は日鞠の意図が読めず、口元に抹茶パウダーをつけたままぽかんと固まった。


 「……間違えた」

 

 顔を手で覆った日鞠が呻くようにつぶやく。

 手で隠しきれずにのぞいている耳元は真っ赤だ。


 「いつも伊織がくれくれ言うから、先に一口上げてて」


 「そうなんだ、優しいね」

 

 夏休み中、日鞠の家にお邪魔した際に会った弟の伊織くん。

 あの明るい笑顔で日鞠にねだっている姿を想像して、海乃は優しく微笑んだ。


 「本当にいる?」


 「ううん、数少ないんだから日鞠が食べて」


 尋ねてきた日鞠に海乃が断ると日鞠はありがとうと言って和菓子をまた一つ食べ進めた。


 「そういえばさ、2人はきょうだいとかっているの?」


 口の端を指先で拭った海乃は、日鞠の質問に静かに首を振る。


 「いないよ」


 「私も……でも、お父さんが双子なの!」


 団子をカップに戻した紡が、海乃を挟んで日鞠に応える。

 双子?と聞き返す日鞠に紡はうなづき返した。


 「小さい頃なんかは、私どっちが本当のお父さんか分かんなくて……お母さんもいまだに見分けつかないって」


 「ははっ!それはだめでしょ」


 「ふふっ、すごい。そんなにそっくりなんだ」


 吹き出した日鞠と海乃に、紡も声を上げて笑う。


 楽しい会話を広げながら、海乃たちはゆっくりと次の目的地へと歩みを進めていった。

 移り変わる風景を楽しみ、写真を撮り、また次の目的地へ。

  

 穏やかな時間が流れる京都の町を、心の底から楽しむ海乃たち。



 だが、海乃の頭の片隅にはずっとさっきの話がこびりついていた。


 _____きょうだいとかっているの?


 _____お父さんが双子なの!




 きょうだい、親のきょうだい関係。

 その言葉に海乃は母のことを思い出していた。



 青司ではない、海乃の実母である_____澪のことだ。





 バスに揺られながら、海乃は静かに澪との記憶に思いを馳せる。


 澪にはきょうだいがいた。

 だからこそ、弟である青司が海乃の叔父にあたるわけだがそれだけではない。


 おぼろげな記憶の中で何となく覚えていること。

 澪は昔、自分は長女だと言っていたのだ。

 

 小舟澪になる前、宮杜澪だったころ。

 自分は4人きょうだいの一番上の姉だったのだと。


 末弟である青司の他に、弟が1人と妹が1人いるのだと酒に酔った澪が海乃にこぼしたことがある。

 それ以来、澪がきょうだいの話をすることはなかった。


 海乃は実家である宮杜家のことは全く知らない。

 澪も縁を切ったと言っていたし、結婚をしているわけでもなく寺山姓を名乗る青司にも家のことを聞く気にはなれなかった。


 でも、確か一度だけ_____


 乗車していたバスがスピードを落とし停車する。


 目的地を告げるアナウンスに海乃がはっと顔を上げれば、いつの間にか停留所に到着していたらしい。


 「海乃ちゃん、降りよう?」


 吊革につかまっていたままの海乃に声をかけた紡に続いて海乃もバスを降りていく。

 澄んだ空気が肺に入り、幾分かすっきりした気分になった。

 

 秋になったとはいえ、夏の名残を感じる日差しの強さ。


 並んで前を歩く紡と日鞠の背を見つめながら、海乃は額にじんわりと浮いた汗を拭う。


 そうだ、あの日だ。

 なんで忘れていたんだろう。

 いつも飄々と笑っていた澪が憔悴した顔で電話を片手に立っていた。


 _____海乃、行くよ


 手を引かれ連れて行かれた場所。

 派手な服しか着てこなかった澪が、身に纏っていた真っ黒なワンピース。


 「ここが入口みたい」


 スマホから顔を上げた日鞠が、門にかけられた標識を確認してうなづく。


 門を潜った3人は、路地に沿って石畳の上を歩いていった。


 とても静かな空間だ。

 耳をすませば葉が重なり合う音も、鮮明に聞こえてきそうだ。


 スニーカーから伝わる硬い感触。

 海乃から響く鈍い靴音が、だんだんと鋭いものへと変わっていく。


 ワンピースと同じ黒いパンプスを鳴らして足早に歩く澪。


 海乃がするりと手を解けば、澪はやがて立ち止まった。


 _____ここはどこ?


 そう尋ねる海乃に澪は淡々と、宮杜の家だよと応えたのだ。


 そして_____


 小さな潜り戸をくぐり、その先に待っていたのは美しい庭園と立派な母屋だった。


 「すてき……ねっ、海乃ちゃん」


 紡と日鞠が海乃を振り返る。

 逆光の中で笑う2人の真ん中に、海乃は澪の影を見た。


 ゆっくりとこちらに顔を向けた澪の表情は暗くて見えない。

 大きな屋敷を背景に口を開けた澪は、静かな声で海乃に告げのだ。



 _____今日はお父様のお葬式なの




 

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