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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第四章「乾いた地平線 ― The Dry Horizon」

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BBQ

 夕方になった。


 レッドが庭で火を起こしていた。煙が低く流れていた。


 イーサンが肉を持って出てきた。


「多すぎないか」レッドが言った。


「全員分だ」イーサンは網の上に並べ始めた。「余ったら明日の朝食にする」


「朝から肉?」


「単純に買いすぎた」


 レッドが笑った。



 全員が外に出た。


 テキサスの夜が始まっていた。


 空が広かった。星が多かった。日本では見ない数だった。


 リヴァは空を見上げた。


 ミントが足元で草の匂いを嗅いでいた。


「ミント、踏むぞ」レッドが言った。


 ミントはレッドを見た。動かなかった。


「肝が据わってる」


 朝より風が静かだった。


「ミントのことだが、やっぱ近所のとこで産まれた子供らしい。いっぱい産まれて困ってたらしい。もらってくれ、だとよ」


 リヴァがミントを見た。少し笑った。


 カイがリヴァの横顔を見ていた。




 肉が焼けた。網の上で脂が落ちるたび、火が上がった。


 レッドがバーボンを出した。グラスではなく、瓶のまま回した。アルノは断って、水を飲んでいた。


「明日午前十時、ここを出ます。空港まではレッドに」


「任せろ」


「東京に戻ったら、すぐ動きます。案件が溜まっています」


「割り振りは」カイが言った。


「飛行機で決めます。優先度順に動きます」


 アルノは水を飲んだ。


 イーサンが火を見たまま言った。


「リヴァは」


「もちろん同行です」アルノはリヴァを見た。「問題ありませんか」


「ない」


 アルノが少し間を置いた。


「……カイに似てきましたね」


「かも」




 レッドが肉を追加した。


 網の上でじゅうじゅうと音がした。


「テキサス、どうだった」


 リヴァは少し考えた。


「暑かった」


「それだけか」


「砂埃がすごかった」


「…それだけか」


 レッドが笑った。


 リヴァは少し考えた。


「……自分が、思ったより、できたりできなかったり」


 レッドの笑いが消えた。


「できた」


 トングで肉を一枚返した。


「思ったよりじゃない。十分できた。俺が教えた中で、一番筋がいい」


 炭のついた手ではなく、反対の手でリヴァの頭を撫でた。


「次は一人で来い」


「なんで」


「口説くのに護衛はいらんだろ」


 カイがレッドを向いた。何か言おうとして、息を吐いた。


「レッド」イーサンが言った。「順番がある」


「順番?」


「まず俺が言う」


 レッドが止まった。肩をすくめた。


「……先に言いたいならそう言えって」


 イーサンは手帳を出した。


「最初の訓練と、昨日の実戦を比較した」


 ページを一枚めくった。


「反応速度の短縮。着弾誤差も改善」


 リヴァは黙って聞いた。


「能力に頼らず撃った。外した後も、自分で修正できた」


 次の行を見た。


「カイのスポットも機能した」


 カイが火を見ていた。


「よくやった」イーサンが言った。


 リヴァは少し間を置いた。


「……うん」


「次来る時は、一日予定をあけておけ」


「宇宙センターいきたい、ヒューストンの」


「……わかった」


 イーサンはそのまま横目でカイを見た。


 カイが気づいた。


 二人の目が合った。


 カイが先に逸らした。


 レッドがバーボンを一口飲んだ。


「じゃあ俺の番な」


 リヴァがレッドを見た。


「昨日、外を止めてくれたから俺たちは中で動けた。あれは本当だ」


 右腕のテープが、シャツの袖口から少し見えていた。


「助かったよ」


「……うん」


 カイがバーボンの瓶を取った。


 しばらくして、ヴィクトルが口を開いた。


「俺の女を口説いてる所悪い」ヴィクトルが言った。「猫の件だが」


 リヴァが一言言おうとして、やめた。


「狂犬病の抗体検査から数えると、本来は百八十日待つ書類だ」


 バーボンを一口飲んだ。


「それを明日の出発までに、本物として通る形にする必要がある」


「…できるのか」カイが言った。


「誰に言ってる」


「……助かります」アルノが言った。


 ヴィクトルがアルノを見た。


「助かる、で済むと思うなよ。昨日も寝てない。これで二晩だ」


「無理ならイーサンにしばらく預かってもらいますが」


「やる。やるに決まってるだろ」


 ヴィクトルはリヴァを見た。


「猫のためにな」


「ヴィクトル、ありがとう。猫のために」


 ヴィクトルが黙った。


 バーボンを飲んだ。


 ミントがヴィクトルに向かって威嚇した。


「……」


 そのまま、イーサンの足元へ来た。


 イーサンは手帳を見たまま、片手で背を撫でた。


 レッドがそれを見て笑った。


 夜が深くなった。


 火が小さくなった。


 レッドが薪を足した。


 火が戻った。


「……静かになるな、明日から」


 誰もすぐには返さなかった。


「また来い」レッドはリヴァに言った。「ステーキ奢る。イーサンも奢る」


「俺は奢らない」


「金溜め込んでるくせに」


 リヴァはミントを膝に乗せた。


 カイが隣に座っていた。


 一度だけ、空を見上げた。


 リヴァも星を見た。


 数えようとした。


 多すぎて、途中でやめた。


 炭の匂いがした。


 バーボンと、火の匂いがした。


 ミントが膝の上で丸くなった。


 薪が一度、崩れた。

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