木目
目が覚めた。
天井だった。モーテルの天井だった。汚れが三つあった。
体が重かった。
寝たはずだった。どのくらい寝たのかわからなかった。
窓から光が入っていた。昼か朝かわからない。カーテンが厚かった。光の量で判断できなかった。
起き上がった。
腕が痛かった。ここ数日の訓練で使い続けた腕だった。
頭も重かった。
窓に近づいた。カーテンを少し開けた。
光が刺さった。
目を細めた。
外を見た。
駐車場に車が停まっていた。
無意識に数えた。
七台。
左側に偏っている。
そこまで考えて、止まった。
時計を探した。
なかった。
廊下で足音がした。
一人。
男。大柄。急いでいない。
気づいたら分析していた。
やめようとした。
足音が遠ざかった。
歩数を数えていた。
リヴァはベッドに戻った。
座った。
壁を見た。
壁に染みがあった。
二つだった。
天井には三つ。
窓の外で車が一台動いた。
出ていく方向を無意識に追った。
左に曲がった。
どこに行くのか考えかけて、やめた。
関係なかった。
リヴァはベッドに横になった。
天井を見た。
汚れを数えないようにした。
三つあった。
足音が聞こえた。
今度はわかった。
カイだった。
リヴァは起き上がって、ドアを開けた。
カイが廊下の壁に背中を預けていた。腕を組んでいた。
「……水飲みたい」
カイが顎でキッチンの方向を示した。
キッチンに入った。
水を飲んだ。冷たかった。
椅子に座った。
窓の外を見た。フィールドが見えた。
人影を探した。
気づいて、目を逸らした。
テーブルの木目が目に入った。本数を数えた。
カイがキッチンの入口に立っていた。もたれていた。
「……カイも、こういうのやった?」
「ああ」
「どんな感じだった」
カイは少し間を置いた。
テーブルに手を置いて、すこし表面を撫でた。
「自分の手が誰の手かわからなくなった」
それ以上話してくれなさそうだった。
リヴァは窓の外をもう一度見た。
また人影を探していた。
気づいて、目を逸らした。
逸らした先の壁を確認した。
「……頭が止まらない」
「ああ」
「やめ方は」
「…慣れていくだけだ」
リヴァはテーブルを見た。
木目を数えた。
そこにイーサンが来た。
リヴァを見た。
リヴァは立ち上がりかけた。理由はなかった。
「座ってろ」
イーサンが向かいに座った。
カイはそのまま入口にいた。
「抵抗するな」イーサンが言った。「数えたければ数えろ。確認したければしろ。やめようとすると長引く」
リヴァは木目を数えた。
イーサンは何も言わなかった。
向かいにいた。
カイも何も言わなかった。
窓の外にフィールドが見えた。
しばらくして、イーサンが立った。
「外へ出ろ。走る」
「……訓練開始?」
「走るだけだ」
それだけ言って、キッチンを出た。
カイがイーサンの背中を一秒見た。
それからリヴァを見た。何も言わなかった。
リヴァはテーブルの木目を見ていた。
数えるのをやめていた。
いつやめたのか、わからなかった。
イーサンが外にいた。
グレーのミリタリーシャツにタクティカルパンツだった。走る格好というより、ただいつもの格好のままそこにいた。
「行くぞ」
距離を言わなかった。コースも言わなかった。
走り始めた。
イーサンがリヴァの少し前を走った。
速すぎなかった。
遅くもなかった。
ただ、ついてこられる速さだった。
最初は体が重かった。
足が地面に馴染むまで時間がかかった。
それでも動いているうちに、少しずつ体がほぐれてきた。
二つの足音が赤い土の上に落ちていた。
数えるものがなかった。
それが少し、楽だった。
イーサンは何も言わなかった。
ただ走っていた。
背中が大きかった。
しばらく走ったところで、足音がもう一つ増えた。
カイだった。
迷彩パンツに白シャツだった。
何も言わなかった。
イーサンも振り返らなかった。
三人になった。
拠点が見えてきた頃、イーサンが少し速度を落とした。
拠点の外にレッドがいた。
フランネルシャツにジーンズだった。フェンスの柱に背中を預けて、煙草を吸っていた。
イーサンが手を上げた。
こっちに来いという動作だった。
レッドが煙草を一度見た。もったいなさそうな顔をした。
それでも地面に落として踏んだ。
駆け足で合流してきた。
リヴァの横に並んだ。
速度をリヴァに合わせた。
自然に合わせた。何でもないみたいに合わせた。
「よお」
「……うん」
「順調に顔色が悪くなってるな」
リヴァの少し横を、ただ走った。
イーサンが前にいた。
カイが後ろにいた。
レッドが横にいた。
誰も何も言わなかった。
足音だけが赤い土の上に落ちていた。
四人分だった。
拠点に着いた。
レッドが大きく息を吐いた。伸びをした。
カイがリヴァのためにドアを開けた。
リヴァは入ろうとして、止まった。
駐車場を見た。
朝、七台だった。
八台あった。
端に一台。
見覚えのない黒いセダンだった。
リヴァは少しだけ目を細めた。
カイも同じ方向を見た。
何も言わなかった。
リヴァも言わなかった。
イーサンは外に残った。
空を見ていた。
雲がなかった。




