表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第四章「乾いた地平線 ― The Dry Horizon」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/179

木目



 目が覚めた。


 天井だった。モーテルの天井だった。汚れが三つあった。


 体が重かった。


 寝たはずだった。どのくらい寝たのかわからなかった。


 窓から光が入っていた。昼か朝かわからない。カーテンが厚かった。光の量で判断できなかった。


 起き上がった。


 腕が痛かった。ここ数日の訓練で使い続けた腕だった。


 頭も重かった。


 窓に近づいた。カーテンを少し開けた。


 光が刺さった。


 目を細めた。


 外を見た。


 駐車場に車が停まっていた。


 無意識に数えた。


 七台。


 左側に偏っている。


 そこまで考えて、止まった。


 時計を探した。


 なかった。


 廊下で足音がした。


 一人。


 男。大柄。急いでいない。


 気づいたら分析していた。


 やめようとした。


 足音が遠ざかった。


 歩数を数えていた。


 リヴァはベッドに戻った。


 座った。


 壁を見た。


 壁に染みがあった。


 二つだった。


 天井には三つ。


 窓の外で車が一台動いた。


 出ていく方向を無意識に追った。


 左に曲がった。


 どこに行くのか考えかけて、やめた。


 関係なかった。


 リヴァはベッドに横になった。


 天井を見た。


 汚れを数えないようにした。


 三つあった。


 足音が聞こえた。


 今度はわかった。


 カイだった。


 リヴァは起き上がって、ドアを開けた。


 カイが廊下の壁に背中を預けていた。腕を組んでいた。


「……水飲みたい」


 カイが顎でキッチンの方向を示した。


 キッチンに入った。


 水を飲んだ。冷たかった。


 椅子に座った。


 窓の外を見た。フィールドが見えた。


 人影を探した。


 気づいて、目を逸らした。


 テーブルの木目が目に入った。本数を数えた。


 カイがキッチンの入口に立っていた。もたれていた。


「……カイも、こういうのやった?」


「ああ」


「どんな感じだった」


 カイは少し間を置いた。


 テーブルに手を置いて、すこし表面を撫でた。


「自分の手が誰の手かわからなくなった」


 それ以上話してくれなさそうだった。


 リヴァは窓の外をもう一度見た。


 また人影を探していた。


 気づいて、目を逸らした。


 逸らした先の壁を確認した。


「……頭が止まらない」


「ああ」


「やめ方は」


「…慣れていくだけだ」


 リヴァはテーブルを見た。


 木目を数えた。


 そこにイーサンが来た。


 リヴァを見た。


 リヴァは立ち上がりかけた。理由はなかった。


「座ってろ」


 イーサンが向かいに座った。


 カイはそのまま入口にいた。


「抵抗するな」イーサンが言った。「数えたければ数えろ。確認したければしろ。やめようとすると長引く」


 リヴァは木目を数えた。


 イーサンは何も言わなかった。


 向かいにいた。


 カイも何も言わなかった。


 窓の外にフィールドが見えた。


 しばらくして、イーサンが立った。


「外へ出ろ。走る」


「……訓練開始?」


「走るだけだ」


 それだけ言って、キッチンを出た。


 カイがイーサンの背中を一秒見た。


 それからリヴァを見た。何も言わなかった。


 リヴァはテーブルの木目を見ていた。


 数えるのをやめていた。


 いつやめたのか、わからなかった。




 イーサンが外にいた。


 グレーのミリタリーシャツにタクティカルパンツだった。走る格好というより、ただいつもの格好のままそこにいた。


「行くぞ」


 距離を言わなかった。コースも言わなかった。


 走り始めた。


 イーサンがリヴァの少し前を走った。


 速すぎなかった。


 遅くもなかった。


 ただ、ついてこられる速さだった。


 最初は体が重かった。


 足が地面に馴染むまで時間がかかった。


 それでも動いているうちに、少しずつ体がほぐれてきた。


 二つの足音が赤い土の上に落ちていた。


 数えるものがなかった。


 それが少し、楽だった。


 イーサンは何も言わなかった。


 ただ走っていた。


 背中が大きかった。


 しばらく走ったところで、足音がもう一つ増えた。


 カイだった。


 迷彩パンツに白シャツだった。


 何も言わなかった。


 イーサンも振り返らなかった。


 三人になった。


 拠点が見えてきた頃、イーサンが少し速度を落とした。


 拠点の外にレッドがいた。


 フランネルシャツにジーンズだった。フェンスの柱に背中を預けて、煙草を吸っていた。


 イーサンが手を上げた。


 こっちに来いという動作だった。


 レッドが煙草を一度見た。もったいなさそうな顔をした。


 それでも地面に落として踏んだ。


 駆け足で合流してきた。


 リヴァの横に並んだ。


 速度をリヴァに合わせた。


 自然に合わせた。何でもないみたいに合わせた。


「よお」


「……うん」


「順調に顔色が悪くなってるな」


 リヴァの少し横を、ただ走った。


 イーサンが前にいた。


 カイが後ろにいた。


 レッドが横にいた。


 誰も何も言わなかった。


 足音だけが赤い土の上に落ちていた。


 四人分だった。


 拠点に着いた。


 レッドが大きく息を吐いた。伸びをした。


 カイがリヴァのためにドアを開けた。


 リヴァは入ろうとして、止まった。


 駐車場を見た。


 朝、七台だった。


 八台あった。


 端に一台。


 見覚えのない黒いセダンだった。


 リヴァは少しだけ目を細めた。


 カイも同じ方向を見た。


 何も言わなかった。


 リヴァも言わなかった。


 イーサンは外に残った。


 空を見ていた。


 雲がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ