木目
目を覚ますと、モーテルの天井が見えた。
汚れが三つあった。
寝たはずなのに体は重く、どれほど眠っていたのかもわからなかった。
厚いカーテン越しに光が入っていたが、朝なのか昼なのか、明るさでは判断がつかなかった。
起き上がると、ここ数日の訓練で使い続けた腕が痛んだ。頭も重く、リヴァは窓へ近づいてカーテンを少し開けた。
差し込んだ光に目を細め、駐車場を見た。車は七台、左側に偏って停まっている。無意識にそこまで確かめてから、リヴァは数えるのをやめた。時計を探したが、見当たらなかった。
ベッドへ戻って腰を下ろし、壁を見た。染みが二つあり、天井の汚れは三つだった。窓の外で車が一台動き出すと、無意識にその行方を追った。
リヴァはベッドに横になり、天井へ目を向けた。汚れを数えないようにしても、三つあると確かめてしまう。
再び足音が聞こえ、今度はカイだとわかった。
起き上がってドアを開けると、カイは廊下の壁に背中を預け、腕を組んでいた。
「……水飲みたい」
カイが顎でキッチンの方向を示した。リヴァはそちらへ向かい、冷たい水を飲んでから椅子に座った。
窓の外にはフィールドが見えた。人影を探していることに気づいて目を逸らすと、今度はテーブルの木目を数えていた。カイはキッチンの入口にもたれて立っていた。
「……カイも、こういうのやった?」
「ああ」
「どんな感じだった」
カイは少し間を置き、テーブルに手を置いて表面を撫でた。
「自分の手が誰の手かわからなくなった」
それ以上は話してくれそうになかった。リヴァはもう一度窓の外を見たが、また人影を探していた。気づいて目を逸らすと、今度はその先の壁を確認していた。
「……頭が止まらない」
「ああ」
「やめ方は」
「…慣れていくだけだ」
リヴァはテーブルへ目を戻し、木目を数えた。そこへイーサンが入ってきて、リヴァを見た。リヴァは理由もなく立ち上がりかけた。
「座ってろ」
イーサンが向かいに座り、カイはそのまま入口にいた。
「抵抗するな」イーサンが言った。「数えたければ数えろ。確認したければしろ。やめようとすると長引く」
リヴァは木目を数えた。イーサンは何も言わずに向かいに座り、カイも入口で黙っていた。窓の外にはフィールドが見えていた。
しばらくして、イーサンが立ち上がった。
「外へ出ろ。走る」
「……訓練開始?」
「走るだけだ」
イーサンはキッチンを出ていった。カイはその背中を一秒見てから、黙ったままリヴァへ視線を向けた。
リヴァはテーブルの木目を見ていた。もう数えてはいなかったが、いつやめたのかはわからなかった。
外にいたイーサンは、グレーのミリタリーシャツにタクティカルパンツを穿いていた。走るための服装というより、いつもの格好のままそこにいた。
「行くぞ」
距離もコースも告げずに走り始め、リヴァの少し前を進んだ。速すぎも遅すぎもせず、リヴァがついていける速さを保っていた。
最初は体が重く、足が地面に馴染むまで時間がかかった。それでも動いているうちに、少しずつ体がほぐれてきた。二人分の足音が赤い土の上に落ちていた。数えるものがないのが、少し楽だった。
イーサンは何も言わずに走り続けていた。前を行く背中は大きかった。
しばらく走ったところで、足音が一つ増えた。迷彩パンツに白いシャツを着たカイが加わっていた。カイは何も言わず、イーサンも振り返らないまま、三人で走り続けた。
拠点が見えてきた頃、イーサンが少し速度を落とした。外にはフランネルシャツにジーンズ姿のレッドがいて、フェンスの柱に背中を預けて煙草を吸っていた。
イーサンが手を上げ、こちらへ来るように示した。レッドは煙草へ目を落とし、もったいなさそうな顔をしたが、地面に落として踏み消した。駆け足で合流してリヴァの横に並ぶと、何でもないことのように速度を合わせた。
「よお」
「……うん」
「順調に顔色が悪くなってるな」
レッドはそのまま横を走った。イーサンが前に、カイが後ろにいて、誰も何も言わなかった。赤い土の上に四人分の足音が落ちていた。
拠点に着くと、レッドが大きく息を吐いて伸びをした。
カイがリヴァのためにドアを開けたが、リヴァは中へ入ろうとして足を止め、駐車場を見た。
朝には七台だった車が、八台になっていた。端に一台、見覚えのない黒いセダンが停まっている。リヴァが少し目を細めると、カイも同じ方向へ目を向けた。二人とも何も言わなかった。
イーサンは外に残り、雲のない空を見ていた。




