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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第四章「乾いた地平線 ― The Dry Horizon」

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木目

 目を覚ますと、モーテルの天井が見えた。


 汚れが三つあった。


 寝たはずなのに体は重く、どれほど眠っていたのかもわからなかった。


 厚いカーテン越しに光が入っていたが、朝なのか昼なのか、明るさでは判断がつかなかった。


 起き上がると、ここ数日の訓練で使い続けた腕が痛んだ。頭も重く、リヴァは窓へ近づいてカーテンを少し開けた。


 差し込んだ光に目を細め、駐車場を見た。車は七台、左側に偏って停まっている。無意識にそこまで確かめてから、リヴァは数えるのをやめた。時計を探したが、見当たらなかった。


 ベッドへ戻って腰を下ろし、壁を見た。染みが二つあり、天井の汚れは三つだった。窓の外で車が一台動き出すと、無意識にその行方を追った。


 リヴァはベッドに横になり、天井へ目を向けた。汚れを数えないようにしても、三つあると確かめてしまう。


 再び足音が聞こえ、今度はカイだとわかった。


 起き上がってドアを開けると、カイは廊下の壁に背中を預け、腕を組んでいた。


「……水飲みたい」


 カイが顎でキッチンの方向を示した。リヴァはそちらへ向かい、冷たい水を飲んでから椅子に座った。


 窓の外にはフィールドが見えた。人影を探していることに気づいて目を逸らすと、今度はテーブルの木目を数えていた。カイはキッチンの入口にもたれて立っていた。


「……カイも、こういうのやった?」


「ああ」


「どんな感じだった」


 カイは少し間を置き、テーブルに手を置いて表面を撫でた。


「自分の手が誰の手かわからなくなった」


 それ以上は話してくれそうになかった。リヴァはもう一度窓の外を見たが、また人影を探していた。気づいて目を逸らすと、今度はその先の壁を確認していた。


「……頭が止まらない」


「ああ」


「やめ方は」


「…慣れていくだけだ」


 リヴァはテーブルへ目を戻し、木目を数えた。そこへイーサンが入ってきて、リヴァを見た。リヴァは理由もなく立ち上がりかけた。


「座ってろ」


 イーサンが向かいに座り、カイはそのまま入口にいた。


「抵抗するな」イーサンが言った。「数えたければ数えろ。確認したければしろ。やめようとすると長引く」


 リヴァは木目を数えた。イーサンは何も言わずに向かいに座り、カイも入口で黙っていた。窓の外にはフィールドが見えていた。


 しばらくして、イーサンが立ち上がった。


「外へ出ろ。走る」


「……訓練開始?」


「走るだけだ」


 イーサンはキッチンを出ていった。カイはその背中を一秒見てから、黙ったままリヴァへ視線を向けた。


 リヴァはテーブルの木目を見ていた。もう数えてはいなかったが、いつやめたのかはわからなかった。

 

 

 

 外にいたイーサンは、グレーのミリタリーシャツにタクティカルパンツを穿いていた。走るための服装というより、いつもの格好のままそこにいた。


「行くぞ」


 距離もコースも告げずに走り始め、リヴァの少し前を進んだ。速すぎも遅すぎもせず、リヴァがついていける速さを保っていた。


 最初は体が重く、足が地面に馴染むまで時間がかかった。それでも動いているうちに、少しずつ体がほぐれてきた。二人分の足音が赤い土の上に落ちていた。数えるものがないのが、少し楽だった。


 イーサンは何も言わずに走り続けていた。前を行く背中は大きかった。


 しばらく走ったところで、足音が一つ増えた。迷彩パンツに白いシャツを着たカイが加わっていた。カイは何も言わず、イーサンも振り返らないまま、三人で走り続けた。


 拠点が見えてきた頃、イーサンが少し速度を落とした。外にはフランネルシャツにジーンズ姿のレッドがいて、フェンスの柱に背中を預けて煙草を吸っていた。


 イーサンが手を上げ、こちらへ来るように示した。レッドは煙草へ目を落とし、もったいなさそうな顔をしたが、地面に落として踏み消した。駆け足で合流してリヴァの横に並ぶと、何でもないことのように速度を合わせた。


「よお」


「……うん」


「順調に顔色が悪くなってるな」


 レッドはそのまま横を走った。イーサンが前に、カイが後ろにいて、誰も何も言わなかった。赤い土の上に四人分の足音が落ちていた。


 拠点に着くと、レッドが大きく息を吐いて伸びをした。


 カイがリヴァのためにドアを開けたが、リヴァは中へ入ろうとして足を止め、駐車場を見た。


 朝には七台だった車が、八台になっていた。端に一台、見覚えのない黒いセダンが停まっている。リヴァが少し目を細めると、カイも同じ方向へ目を向けた。二人とも何も言わなかった。


 イーサンは外に残り、雲のない空を見ていた。

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