Valerian Resource Group
午後。
ブリーフィングルームに、アルノとユキナガがいた。
ユキナガは目の下に隈を作ったまま、端末を三台並べていた。徹夜明けの解析の続きだった。
カイは壁際に立っていた。座らなかった。
リヴァが入ると、ユキナガが顔を上げた。
「お、生きてる」
「何その言い方」
ユキナガはMarlboroを吸っていた。煙がまっすぐ上がっていた。
「ユキナガの方が死にそうな顔してる」
「そろそろ煙草吸いたがってないかなって」
箱から一本取り出して、リヴァに渡した。
リヴァの火をライターでつけて、ユキナガは端末に視線を戻した。
「では」アルノが言った。「テキサスの任務について」
リヴァはアルノを見た。
「訓練に行くんじゃないの」
「並行します」アルノは言った。「ちょうど動かしている任務がある。あなたの訓練と、地理的にも、時期的にも重なります」
「そう」
「順を追って説明します」
リヴァは灰を落とした。指でメンソールのボールを一つ潰した。
煙草に、リヴァの薄いピンクのリップが移っていた。
端末の画面が切り替わった。地図が出た。
テキサス州、ダラス郊外。赤いピンが二箇所。
「武器密輸ルートの中継拠点の特定と、証拠の回収です」アルノは言った。「半年で三回、同じ経路の形跡がある。中東からメキシコ経由でテキサス入り。規模は大きくありません。ただ」
一拍あった。
「三週間以内に、次の輸送の準備が始まる。逃したら証拠が消えます」
「タイミングが最悪」ユキナガが言った。
「ええ」
ユキナガが端末を叩いた。地図に経路が赤く引かれた。
「中継拠点はここ。ダラスの北、倉庫地帯。証拠は輸送記録とサンプル」
「誰が行くの」リヴァが言った。
「リヴァとカイとアルノ。アメリカ支部の元軍人の二人」ユキナガは言った。「俺は残る」
「はい」アルノは言った。
「どんな人?」
アルノは眼鏡を上げた。
「まず、レッドは軽口を叩きます。ただ、状況の読み方は正確です」
「うるさいくらい喋る」カイが付け足した。
「はい」アルノは否定しなかった。「イーサンは元狙撃手です。あなたの射撃データを見て、会いたいと言っていました」
「そう」
カイが腕を組んだ。
「リヴァしごかれるかも」ユキナガが笑った。
「移動について」アルノは言った。「商用便は避けます。ヴィクトルに連絡を取りました」
リヴァはアルノを見た。
「チャーター機を出すと言っていました」アルノは言った。「快く、とは言いがたい言い方でしたが」
「どんな」
アルノが一拍置いた。
「……可哀想だから出す、と」
リヴァは少しの間、それを聞いていた。
「ヴィクトルらしい」
「同意します」
ユキナガが鼻で笑った。
カイは一歩も動かなかった
「最後に」アルノは言った。
端末の画面が、もう一度切り替わった。
会社名が出た。
”Valerian Resource Group”
「この密輸ルートの資金源です」アルノは言った。「軍需と資源開発の複合企業。表向きはスイスに本社を置く合法的な会社。ただ、密輸との資金の繋がりが、複数の経路から出ている」
「スイス」
リヴァはその単語を口の中で繰り返した。
アルノがリヴァを見ていた。
「レオンハルト・ヴェルナー」アルノは言った。「今は、名前と会社の繋がりが出ているだけです。直接の証拠はありません」
リヴァの指先が一瞬だけ止まった。
リヴァはその名前を見た。
知らない名前だった。聞いたこともない。読み方も、初めてだった。なのに、胸の奥が冷えた。
「リヴァ」
カイだった。
「……平気」リヴァは言った。
指先が冷えていた。
カイは何も言わなかった。腕を組んだまま、視線だけを外さなかった。
「詳細は追って共有します」アルノは言った。「今は、名前として覚えておいてください」
窓の外は、まだ昼だった。




