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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十五章「凍結回廊 ― Frozen Corridor」

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出撃

 画面の中で、施設の門が開いた。ユキナガはカップを机の端へ寄せ、入ってくる二台の車を拡大した。


 先頭の乗用車に続いて、窓の暗いバンが敷地へ入った。二台とも荷捌き場を通り過ぎ、倉庫の裏へ回っていく。


「アルノ、車二台。昼には来てないやつ。裏口の方へ回ってる」


 隣で聞き取りの記録を見ていたルカが、監視映像へ画面を切り替えた。ユキナガが追っているバンを保存し、もう一台の停車位置を確認する。


 アルノは惣一の部屋で通信を受けた。机には二人分の照会結果と、施設の図面が広げられていた。


 届いた映像を惣一へ向けると、煙草を持っていた手が止まった。バンが倉庫の裏口へ後部を寄せ、運転手が降りてくる。


「移送の準備かもしれません。出動の準備はできています」


 惣一は画面を見たまま、灰皿へ煙草を伸ばした。


「出せ。管理してる奴と、取引の記録も取れ。現場はお前が回せ」


「収容者は、施設を確保してから人数と状態を確認します」


「分かったら上げろ。欧州には渡すな」


 アルノは頷き、机の資料をまとめた。立ち上がりながら通信を開く。


「ユキナガ、車両が出たらすぐに知らせてください」


『分かった。今、後ろ開けてる。まだ人は出てきてないみたい』


 アルノはイヤーピースに触れた。


「総員、出ます」




『僕は残るよ』通信からオラヴルの声が入った。


「出撃はリヴァ、カイ、フィン、アオイ、カズマ、カラム、オラヴル、私です」


『僕は残…』


『観念しろ』オラヴルの後ろからヴィクトルの声が入った。『先生』




 共用スペースで、カズマがソファから立ち上がった。


 カラムは壁際で端末を見ていた。フィンがその肩へ触れると、画面を消してポケットへ入れ、足元のケースを持ち上げた。


「先に乗ってて」


 カラムが玄関へ向かうのを見届けてから、フィンは廊下へ戻った。医務室から出てきたオラヴルが、用意してあった救急バッグを渡す。


 フィンは肩へ掛け、その先にある花村の部屋を叩いた。


「入るよ」


 花村はベッドの端に座り、借りた服を着ていた。扉が開くと顔を上げ、フィンの上着と肩のバッグを見た。


「俺たち、これから出るから」


 花村が立ち上がった。足元のスリッパへ足を入れ、ベッドに置いていた毛布を持ちかける。


「俺も?エリアスは?あの人、まだ歩けないんじゃ……」


「君たちはここにいて。アオイもオラヴルも出るからね」


「……」


「何かあったら、双子と事務員さんいるから」


「ヴィクトル…?」


「うん。ヴィクトル」


 花村は毛布をベッドへ戻したが、そのままフィンの肩越しに廊下を見ていた。


 カイがリヴァと玄関へ向かっている。二人ともコートを着て、荷物を持っていた。花村は扉の外へ身を乗り出した。


「救出にいく?」


「まあそんなところかな」フィンが言った。


「ライフル持って行くんでしょ」


 花村がそう言うと、フィンが止まった。


「……誰から聞いた?」


「カラム」


 フィンの口角が少し上がった。


「そう」


 花村は大きな荷物を肩に下げたリヴァを見た。


「え、あの女神様も行くの」


「まあね」


「俺も一緒に行ったら駄目?荷物持つとかなら……」


 カイが足を止めた。花村の足元へ目を落とし、顔へ視線を戻す。


「持たなくていい。ここにいろ」


「りんごの人、俺…」


 花村が言いかけたところで奥の扉が開いた。


 着流しの上に羽織を掛けた惣一が出てきた。花村は背筋を伸ばし、廊下へ出しかけていた足を引いた。


「そいつは俺が見てる。行け」惣一がフィンへ言った。


「え」フィンが言った。


 フィンは花村へ顔を戻し、惣一を手で示した。


「えっと……一番偉い人。失礼あったら存在ごと消されるかも」


「……ひっ…」


「もう消えてたっけ。じゃあいいか」


 花村は両手を身体の前で揃え、頭を下げた。上げてからカイを見たが、カイはリヴァのケースを荷室へ収めるため、外へ出ていくところだった。


 玄関からアルノがフィンを呼んだ。


「フィン、出ますよ」


「今行く」


 フィンが廊下を離れると、花村はその背中へ口を開きかけた。肩に掛かったバッグが玄関の向こうへ消え、入れ替わりに冷たい風が廊下へ入ってくる。


 アルノが端末を見ながら外へ出て、玄関の扉を閉めた。


 花村はしばらくそちらを見ていた。外では荷室を閉める音がして、続いて車のドアが閉まった。




 共用スペースから、ユキナガの声がした。


「映像、そっちにも送ってる。裏口開いたから、そのまま見てて」


 ルカが隣へ椅子を寄せ、二人で画面を覗き込んでいる。花村がそちらを見ても、どちらも顔を上げなかった。


 車が走り出す音がした。


 花村は惣一へ向き直った。


「……あの人たち、何の仕事してるの…でしょうか、社長…」


 惣一は煙草を咥え、胸元からライターを出した。


 煙草一本を花村に渡した。


「あ…ありがとうございます…」


 ライターで火をつけて、二人で吸った。


 妙な間が流れた。


 人がさった拠点は、急に静かになっていた。


「……丁度いい休暇になったな」惣一が言った。


「え……」


「連勤終わったろ」


「あ……はい……」


 無言で時間が過ぎた。煙草が終わった。


「部屋戻れ。用があったら呼べ」


 惣一がスマートフォンを花村に手渡した。


「暇つぶしにはなるだろ」


「いいんですか…お借りします」


「ああ」


 扉を閉める前にもう一度廊下を見た。惣一と目が合い、花村は小さく頭を下げて、静かに扉を閉めた。

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