↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十四章「帰還偏差 ― Return Deviation」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

235/246

記憶の食い違い



 都内某所。


 マンションの一室だった。


 窓からは都会が見下ろせるが、薄いカーテンがかけられて部屋からはほとんど見えていない。


 光臣が紙束をテーブルへ音を立てて置いた。そのまま、テーブルへ半分腰を乗せた。


 惣一は煙草を吸ったまま、一番上を取った。


「外部への情報提供、金銭の受領、誰かからの継続的な指示。その辺りは一通り聞きました。隠し事は大小ありましたが、あなたが探しているものとは違います」


 紙面は余白まで細かな字で埋まっていた。回答の横には時刻が振られ、聞き直した箇所から線が伸び、欄外にも追記が重なっている。


「随分働いたな」


「久々にあなたに頼られたら嬉しくて」


「嫌がる演技も大概だな」


 光臣は肩を少し上げた。


「まず、アルノは問題ありません。経歴も家族も既存資料と一致しました。普段より素直でしたよ」


「弱らせたからだろ」


「自白剤のようなものと、短期記憶に干渉するちょっとしたものですよ」


「こいつは一番手間取るかと思ったが」


「ええ。だから最初にしました。彼には、私が仲間だと認識してもらいました」


「沖縄で吐いた内容は出てきたか」


「ほぼ吐いてなさそうでしたよ。52時間の尋問を経ても」


「結構」


 惣一は次をめくった。ヴィクトルを指した。


「こいつは」


「嘘は多いですが。仕事上のものと私生活を隠すものがほとんどです。外へ何かを渡している形跡はありません」


 惣一の指が一箇所で止まった。


「へえ」


「嘘と本当の話がごちゃ混ぜすぎて、繋ぎ合わせて報告書を書くのが面倒でした。経歴なんて五回聞いても本当の話をしてくれない」


 惣一は小さく笑って、その頁を裏返した。


「アオイは白です。ただ、別件で少し引っかかりました」


「何だ」


「自分の生死を軽く扱います。泣きながら死にたいって言ってましたよ。かわいかった」


「変態め」


「人聞きの悪い」


「任務に響くか」


「今すぐは平気でしょうね」


「なら置いとけ。死にてえ奴まで一人ずつ抱えてたら、組織なんざ回らねえ」


 惣一はフィンの束を取った。他より書き込みが多く、途中から質問に番号まで振られている。


「これは」


「ああ、彼ですね。彼、すごいです。途中で私が何をしてるか気づかれました」


「薬入ってんだろ」


「入ってます。それでも、同じ質問への答え方を途中から変え始めた」


「で」


「その分を差し引いてもスパイではないです。外へ売っている人間ではない」


「ならいい」


 次へ移る。


 カラムの頁は、他より空白が目立った。


「こいつは喋らなかったか」


「喋らないというより、知らない。誰にいくらで雇われたか等、本人が持っていない情報が多すぎます」


「使う側には便利だな」


「ただ、子供の頃の話を話させようとすると、止まっちゃうんですよね」


「…そうか」


「フィンに、組織のことは話すなと日頃から怒られているようで、本人が必死に従おうとしていたので面倒でしたね」


 惣一は煙を吐いた。光臣が続けた。


「耐性があるようで薬を多めに入れても効きが悪かったです。かなり入れたので今ごろまだ影響が出てるかと思います。順番も最後でしたし」


「グレイの話は」


「ほぼ無し。断片のみ、まとめてあります」


 惣一は最後の頁まで見て、紙を置いた。


「カイは他の三倍は薬を入れています。それでなんとか話し始めました」


「わかった。いい」


 光臣が笑った。それからオラヴルのページを横から開くと、笑顔が止まった。


「彼のことは、ご存知なんですよね」


「うちに来る数年前まではな」


 光臣が一枚抜いた。


「あなたが危惧していた、意図的に外へ情報を流した形はありません」


「結構」


 惣一は紙を束へ戻した。


「ユキナガはしなくて良かったんですよね」


「ああ。俺が見てから入れた」


「ではあなたが懸念していた、スパイの話なら終わりです。このメンバーで任務も組んでいいでしょう」


 光臣は残っていた紙に手を置いた。


「ただ……」


 惣一が目だけを上げた。


 光臣は三枚を抜いた。


「リヴァ、オラヴル、カズマ。この三人だけ、妙なものが混ざりました」


「何だ」


「経歴に当てはまらない生活の話です」


 惣一はオラヴルの紙を取った。


「薬で飛んだんじゃねえのか」


「そう思って聞き直しました。ところが、言葉を変えても同じところへ戻る」


 次をめくった。


「カズマも?」


「ええ。本人が普段話している過去とは繋がりません」


「リヴァからは何か出たか」


「少しだけ妙なものが」


 最後にリヴァの紙を開いた。


 途中の数行だけが囲われていた。


 惣一の指が下へ動いた。


「学生寮。四畳半…なんだこれは」


「三回聞きました」


 惣一が煙草を咥えた。


「…あと、夜十時以降は禁止。…何が禁止かはわかりませんでした」


 惣一は煙草の灰を落とした。


「……レオンハルトの場所に四畳半はねえだろ」


「使用人の部屋に居たとか」


「…畳で数えるか?」


「日本の可能性が高そうですよね…」


「……十時以降禁止…」


「レオンハルトの所に居たよりも前、とか」


「……」


「レオンハルトのところの記憶については、意図的に話さないようにされてますね。突破できませんでした」


 惣一は三枚を重ねた。


「作り話の線は」


「捨てきれませんが。八人いて、この三人だけ同じ種類の食い違いが出た」


 光臣が小さく笑った。


 惣一は三枚を紙束の上へ置いた。


「結構。報酬はあの時と同じか」


「はい。あなたの所の財団から研究助成にさせてもらいます」


「研究熱心だな」


「育てがいのある子が入りましたので」


 光臣がテーブルに体重を預け、足を浮かせた。


「で?ご褒美は?」


「……なんだ」


「徹夜ですよ、私」


「勝手に楽しんだんだろ」


 光臣は少し黙ってから、惣一を見た。


「どんな因果でしょうね。教え子があなたの組織の手伝いをしたいと言い出すだなんて」


「因果じゃ無えと言ったら?」


 光臣が目を開いた。口を開きかけたが、なかなか言葉が出てこなかった。


 惣一は煙草を咥えた。


「後ろ向け」


 光臣が少し止まってから、息を吐いて笑った。


 テーブルから立ち上がった。


 惣一は煙草を灰皿へ押しつけると、テーブル脇の引き出しを開けた。中で革が擦れる音がした。


「……ちゃんと泣かせてくださいね」


「昨日散々泣かせてただろ」


「今度は私です」


 しばらくして鋭い音が鳴った。光臣の背が強張り、喉の奥から押し殺した声が漏れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。