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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十四章「帰還偏差 ― Return Deviation」

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花束




東京拠点 午前九時二十分。


「……何、これ」


 リヴァがパンケーキを食べた後、シャワーを浴びようと自室へ戻った時だった。


 廊下の先が花で埋まっていた。白と赤の薔薇、百合、淡い紫の蘭。いくつもの大きな花束が床から重なり、リヴァの部屋の扉は取っ手までほとんど隠れていた。


「ん??」


「は?………え?」


 後ろを歩いていたユキナガも足を止めた。端末へ視線を落とし、すぐに拠点内の記録を開く。


「……侵入ログなし、誰がやってんだこれ」ユキナガが小走りでモニタールームに向かった。


「フィン、ちょっと来て異常事態。廊下見て」ユキナガが走りながらフィンに通信を入れた。


「カイ、リヴァの側来て。すぐ」


 共用スペースにいたカイが洗い物を切り上げて上がってきた。同じ頃、フィンの自室のドアも開いた。


「わあ。これ何??誰?」


「全員へ、リヴァの部屋の前に大量の花置いたひといるー?」


 声を聞いたカラムとアオイもそれぞれの部屋から出てきた。廊下へ出たアオイは、花で塞がれたリヴァの部屋を見て足を止めた。


「……さっきまでなかったですけど…」


 リヴァが花へ近づこうとすると、カイが一歩前へ出て進路を塞いだ。


「触るな」


 アオイが花に近づき、奥の方を確認した。


「……爆発物はなさそう、ですね」


 フィンは少し離れた場所から花を眺めていた。


「綺麗だねー」


「うん、綺麗」リヴァが言った。


「誰かこんなことやるやついるかなあ」フィンが言った。


「ヴィクトルでは……」アオイが言った。


 リヴァが笑った。


「ヴィクトルかも」


「あいつは何かに、かこつけてやるだろ」カイが言った。「意味なくはやらない」


「帰還祝いとか、ですか?」アオイが言った。


「あと、やるなら夜だ」


「だよねえ。リヴァの反応一番に見たがりそうだし」フィンが言った。


 カラムは花の正面には寄らず、廊下の奥と階段側へ順番に目を向けた。


「中の誰かなら、これだけ運べば気づくよね」フィンが言った。


 朝から共用スペースには何人もいた。花束は一人で抱えられる量ではなく、床にも包装紙や茎が重なるほど置かれている。


 通信からユキナガの声がした。


『……カメラがおかしい』


 フィンが顔を上げた。


「何?」


『九時十四分。まだ何もない。花もない』


 少し間が空いた。


『……その後。一瞬映像が飛んでる』


「切られた?」アオイが言った。


『いや。ログも回線も正常。カメラ自体は落ちてない』


 ユキナガが黙った。


『……戻った』


 さらに数秒、返事がなかった。


『花ある』


 廊下にいた全員の視線が、リヴァの扉の前へ向いた。


『……全部』


 しばらくして、ユキナガがモニタールームから戻ってきた。花の山と天井のカメラを見比べてから、両手で頭を抱える。


「……ローマの0.7秒のやつと同じでは」アオイが言った。


「あ……」


 リヴァがユキナガを見た。


「……映らないやつ、一人だけ知ってる」


 フィンの表情から笑みが消えた。


 アオイが花束の上を指した。


「カードがあります」


 一番上の白い花束に、小さなカードが一枚挟まっていた。


 そこには一言だけ書かれていた。


『Njeri i dashur.』


「アルノに聞きます?」アオイが言った。


「一旦様子見しよ。今日は寝かせといてあげろって惣一にさっき言われたし」フィンが言った。


 ユキナガが端末を向け、文字を読み取らせた。


「……『大切な人』だって」ユキナガが言った。


 画面の下に、検出された言語が表示された。


 リヴァがカードを抜き取って、顔を上げた。


 ユキナガが額を押さえた。


「アルバニア語だ」


 ユキナガが息を吐いた。


「……やっぱりあいつ」


 リヴァが白いバラを一本抜いて、匂いを嗅いだ。

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