↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十三章「偏光の聖堂 ― Polarized Cathedral」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/246

同じ寝相



 レナート宅。


 ルカが玄関を開けた。床に書類の束があった。その周囲には、大量の論文とメモが散らばっていた。


「うわ」ユキナガが言った。


「踏まないようにね」


 毛布に包まれたユキナガは、ルカに身体を支えられて書類の間を進んだ。


「教授どこ行ったの」


「買い物だって」


 ルカは廊下の扉を開けた。


「お風呂こっち」


 ユキナガの腕は多少は動くようになっていたが、肩へ力を入れると痛んだ。襟に乾いた血が残るシャツのボタンを指で挟み、外そうとしたところで手が震えた。


 ルカが手を伸ばした。


「触んな」


「えー、だって無理でしょ?」


 ユキナガはルカの手を避け、シャツを押さえた。右手でボタンを引いたが、途中で指が外れた。


 ルカはその指先を見ていた。


 ユキナガがため息をついた。


「……無理。やって」


「うん」


 ルカは襟元からボタンを外した。肩を動かさないように袖を抜くと、手首の周囲に赤黒い擦過傷が残っていた。


「ユキ」


 ルカがユキナガの手を取って、手首を見た。ユキナガの顔を見た。


「アルカの仕事って……いつもこんなふうに、ボロボロになるの」


 ユキナガは床を見ていた。


「…初めてだよ。殴られたのだって、中学以来とか」


「猿島先輩?」


「え。懐かし。一個上の部長だっけ」


「あれはユキが猿島先輩の彼女取ったからでしょ」


「そうだっけ」


 ルカは外したシャツを棚へ置いた。


「あ…そういえばカイにも任務中、殴られた気もしてきたわ……」ユキナガが少し笑った。


「ホストのときもよく殴られてたでしょ」


 ユキナガが顔を上げた。


「……なんで知ってんだよ」


「見てたよ」


「なんでその時、声――」


「あの時行っても、俺はユキの力にはなれなかったし」


 ルカはシャワーを出し、手で温度を確かめた。


 ユキナガをバスタブの淵に座らせた。


 ルカはシャワーヘッドを持ち、後ろから湯をかけた。髪や頬に残っていた乾いた血が流れ、排水口へ入っていった。


「俺にはユキが必要だし、ユキも俺が必要になって欲しい」


「……」


 ルカがユキナガの頭にシャンプーをかけて、頭を洗った。


 ユキナガは黙って洗われていた。


 軽く流したあと、リビングからレナートの声がした。


「ルカ」


 ルカはシャワーヘッドをユキナガへ渡し、浴室を出た。


 ユキナガは湯を浴びながら、手を顔の前へ上げた。指を開いて握る。握る力は弱かったが、指は動いた。腕を持ち上げようとすると肩が痛み、すぐに下ろした。


 台所から、研究室の外部接続と管理者権限という言葉が聞こえた。しばらくして、ルカがパンツとバスタオルを持って戻ってきた。


「はいこれ!」


「あ、ああ……」


 ユキナガはパンツとタオルを受け取った。


 風呂から上がると、レナートが台所のテーブルで頬杖をついていた。眼鏡は首から下がっていて、パソコンに何かを打ち込んでいる途中だった。


 テーブルには書類が散乱していたが、ユキナガの前は空けられていた。ホットミルクの入ったマグカップと、白いシャツ、スラックス、靴下、未開封の肌着が並べられている。開封済みのパンツの包みもあった。どれも新品で、サイズの表記はルカの服と同じだった。


 その横に新品の白いパジャマと、歯ブラシもあった。


 ユキナガは未開封の肌着を見てから、レナートを見た。


「……いいの」ユキナガが言った。


「ルカのものを、勝手に使わないように」レナートが言った。


「……助かる」


 ユキナガはすぐにパジャマを取った。袖を通したところで腕が止まり、ルカが前へ回ってボタンを留めた。


 レナートは頬杖をついたまま、ルカの手元を見て目を細めた。


「弱っていれば、お兄ちゃんも少しは可愛いのにね」レナートは言った。


 ユキナガはマグカップを両手で持った。右手の震えが伝わり、マグカップが小さく揺れた。飲むと、切れた口の端が少し痛んだ。


 レナートはユキナガがカップを置くまで見ていた。ルカが空いたカップを受け取ると、レナートは客室の方へ顔を向けた。


「客室を使いなさい」


 歯磨きをした後、ルカはユキナガを支え、廊下の奥へ連れていった。



 レナートが仕事を一段落させてから客室へ行くと、二人は客室の狭いベッドで向かい合って横になっていた。


「ルカ、君への話はまだ終わって――」


 レナートは言葉を止めた。


 ベッドの上で、ユキナガは腕を胸の前へ置き、ルカは向かい側で同じ姿勢を取っていた。二人とも寝息をたてていた。


 レナートはそれを見て、客室の照明を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。