アルヴェナ聖堂
アルヴェナ聖堂。
色硝子から落ちた赤と青の光の中で、ジュリオは膝をついていた。
正面扉から祭壇まで、左脚を引きずった血の跡が続いていた。途中で何度か壁へ手をつき、白い石柱にも赤い掌の跡が残っている。
深いネイビーのスーツは左の太腿まで血に濡れている。片手で祭壇前に残された木製の椅子を掴み、額を座面へ押し当てていた。
「……っ、う……」
聖堂には誰も居なかった。
ジュリオの嗚咽が反響した。
背板には亀裂が入り、後脚との接合部が裂けていた。木片が石床へ散り、開いた拘束具が椅子の横へ垂れている。手首側の金具と床には、乾いていない血がついていた。
ジュリオの肩が震えた。
頬を伝った涙が顎から落ち、椅子の座面へ染み込んだ。
左右の側廊へ続く扉は開いていた。長椅子の陰も、祭壇の裏も、奥の部屋も空だった。
石床には空薬莢が散り、正面扉の周囲には弾痕が残っている。椅子から離れた場所にも血が落ち、身廊の途中で途切れていた。
ジュリオの膝の横に、Glock 19と端末が置かれていた。
画面には、今回の作戦装備一覧が開かれている。
Glock 19のフレームに刻まれた番号と、一覧にある番号が一致していた。
その横に、リヴァと表示されていた。
ジュリオは顔を上げた。涙に濡れた目がGlock 19から壊れかけた椅子へ移った。
「……カイ、……リヴァ」
返事はなかった。
呼吸を整えようとして、また喉が鳴った。ジュリオは椅子の背を抱えるように腕を回し、額を押しつけた。
「……また、間に合わなかったのか。俺は……っ」
イヤーピースでは、人員回収の指示が続いていた。
『ジュリオ、回収車がそちらへ向かっています。動かないでください』アオイの声がした。
「……もう、」
ジュリオは耳から外した。
掌に載せてしばらく見た。
「疲れたな……」
血のついた椅子の座面へ置いた。
ジュリオは履歴から、さっきヴィクトルが掛けてきた番号を押し、端末を耳へ当てた。
呼び出し音が聖堂に流れた。
椅子の前に膝をついたまま、伏せていた顔を上げなかった。
ジュリオは通話を切らず、端末を耳から離した。イヤーピースの横へ伏せて置いた。
石床のGlock 19を拾い、両手に乗せて眺めた。
「リヴァ」
一度スライドにキスをし、上着の内側へ収めた。
血のついた椅子の上で、呼び出し音が途切れなかった。




