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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十三章「偏光の聖堂 ― Polarized Cathedral」

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頬杖




 リヴァが身廊へ入ると、カイが顔を上げた。口元から落ちた血が顎を伝い、シャツの襟へ吸い込まれていた。


 リヴァは長椅子の間を進もうとした。


 低い男の声が、聖堂の奥から届いた。


「Isa」


 リヴァの脚から力が抜け、そのまま腰が落ちる。


「……っ」


 息を吸っても胸が十分に広がらず、涙が頬を伝った。


 カイが声の主に目線を動かした。


 身廊の右手、中央通路から外れた長椅子に、男が座っていた。


 薄いグレーのスーツを着て、長い脚を組んで、頬杖をついている。鈍い金色の髪と、淡い青色の目が見えた。


 カイの視線が、その顔を捉えた。


「……レオンハルト・ヴェルナー」


 男は反応しなかった。


 上に組んだ足を揺らして、つまらなさそうにしていた。


「セオドール」


 レオンハルトに名前を呼ばれた男がリヴァの前に屈み、首筋へ指を置いた。脈を測りながら瞳の動きを確認する。


「…また会ったね」セオドールがリヴァに言った。「おかえり」


 リヴァは焦点の合わない目で見ていた。


 指を離し、セオドールがレオンハルトへ顔を向けた。


 レオンハルトの目がリヴァへ移った。


 淡い青色の目が、自分の前の石床へ落ちた。


「あ……」


 リヴァの手が長椅子の座面を押した。力の抜けていた脚が身体を持ち上げ、レオンハルトへ向かって歩き出す。


「待て、リヴァ」カイが声を荒げた。


 カイの声は届いていた。リヴァは彼を見て一瞬足へ力を込めたが、歩幅も速度も変わらなかった。右手の指が掌へ食い込み、身体はレオンハルトの前まで進んだ。


 揺れていた革靴の先が止まった。


 レオンハルトは頬杖をついたまま、リヴァの頬に残る涙の跡から、掌へ食い込んだ指へ目線を動かした。


「狙撃手にしたのは正解だったな」


 リヴァの焦点がレオンハルトの顔へ合った。


 上に組んだ足の先が、またゆっくり動き始めた。


 セオドールはリヴァの横顔を見ながら言った。


「情動は前より深く定着してる。同じ条件付けじゃ落ちない」


 レオンハルトは目を閉じ、頬杖をついたまま息を吐いた。


「ずいぶん感情が豊かになったな。アンカー」


 リヴァの呼吸が一拍、止まった。


 カイが拘束具を引いた。椅子の脚が石床を擦り、右手首の血が新しく滲んだ。


 レオンハルトが目を開いた。


「置け」


 レオンハルトの目線が、長椅子に落ちた。


 リヴァは右腰からGlock 19を抜いた。銃口を石床へ向けたまま、レオンハルトが座る長椅子の座面へ置いた。何も言わず、イヤーピースも外す。Glock 19の横へ置いた。


 レオンハルトの視線が、正面扉の近くにいたダリへ移った。


 ダリが顎を動かすと、壁際にいた男たちが動き、一人が扉を開けた。他の人員は正面扉側へ移り、通路を空けた。ダリがGlock 19とイヤーピースを回収した。イヤーピースを左耳へ入れ、Glock 19を右手に残した。


 カイは椅子に固定されたまま、正面扉を見ていた。


「どこへ連れていく」


 カイの声だけが、聖堂に響いていた。


 レオンハルトが立つと、薄いグレーの胸元がリヴァの視界を塞いだ。


 上から降りてきた手が顎へかかり、首が反るまで顔を持ち上げられる。


 レオンハルトは姿勢を変えず、伏せた目で涙の跡を見ていた。


「休暇は楽しめたか」


「………」


 リヴァは目線を外せなかった。


「帰るぞ」


 レオンハルトは顎から指を離し、内ポケットからDavidoff Classicを一本抜いた。


 セオドールが近づき、腕を上げてライターの火を差し出した。レオンハルトが煙を吸うと、先端が赤く灯った。


 セオドールは火を消した。ライターを握った手を胸元へ戻し、その場で片膝をつく。白い会服の裾が石床へ広がり、伏せた目が静かに閉じた。


 レオンハルトはDavidoffを指へ移し、セオドールの前で煙を吐いた。


 煙が白い髪の上を流れる。レオンハルトはそのまま中央通路を歩き出した。


 リヴァはその半歩後ろを目を伏せて歩いた。


 少しして、セオドールがダリを一度見た。


 ダリはカイのそばまで歩き、右手に残していたリヴァのGlock 19を持ち上げた。


 左手をイヤーピースに近づけた。


 屈んで、カイの耳の近くに顔を寄せる。


「指揮官、生きてたってよ」


 顔を上げて、フレームに沿わせていた人差し指をトリガーへ移した。


「良かったな」


 カイの首筋へ銃口を押し当てた。


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