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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十三章「偏光の聖堂 ― Polarized Cathedral」

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強情な組織




 聖堂の中は冷えていた。


 祭壇の蝋燭は消え、高い窓から入る光だけが石床へ落ちている。左右に並んだ長椅子の間を、一本の身廊が正面扉まで続いていた。


 カイは祭壇から数メートル手前に置かれた木製の椅子へ座らされていた。両手は背中側で拘束され、足首も椅子の脚へ固定されている。


 ネクタイはなくなっていた。ジャケットは脱がされ、切れた口元から血が顎へ残っていた。


 正面に男が一人。右の長椅子に二人。祭壇脇に一人。


 そのうち一人は手の甲に包帯を巻いていた。もう一人は歩くたびに左足を僅かに引いている。


「四人がかりでこの有様かよ」


 正面の男が笑った。


 カイから外したイヤピースとダイブコンピュータが、長椅子の上に置かれていた。


「そろそろ吐けって。狙撃手はどこだ」


 カイは正面の男を見た。


 なにも言わなかった。


 拳が頬へ入った。


「……」


 顔が横を向き、椅子の脚が石床を擦った。カイは口の中に溜まった血を床へ吐いてから、正面へ戻った。


「最後に狙撃手と通信したのはいつだ」


「言わない」


 今度は腹だった。


 呼吸が一度止まり、カイの身体が前へ折れる。拘束具が鳴った。


 男は待った。


 カイは数回に分けて息を戻し、自分で身体を起こした。


「こいつ丈夫だな」


 右の長椅子で、こめかみに傷のある男が笑った。


 カイの視線がそちらへ移る。


 黒い服、三十前後、大柄。腰にHK VP9が入っている。


 カイは銃を見た。


「ダリ」


 端末を見ていた正面の男が呼んだ。


「代わるか?」


 ダリは長椅子へ深く座ったまま、カイを見た。


「こっちは好みじゃないんだよな。ゴツい」


 カイの目が動いた。


「こっちとはなんだ」


 ダリが口元を上げた。


「気になる?」


 カイがダリの顔を見た。


「お前は会場で顔を見なかった。ユキナガのところか」


「そんな名前なんだな、あの子」


「生きてるのか」


「さあ」


「答えろ」


「悪くなかった」


 カイの目が開いた。


「…何をした」


 正面の男がカイの髪を掴み、顔を上げさせる。


「ずいぶん余裕だな」


 祭壇脇の壁に、小さな金属板があった。


 バチカンの紋章が刻まれている。


 カイの視線がそこへ移った。


 男が髪を離した。


「よそ見してる場合か?」


 拳が肋骨の下へ入った。


「っ……」


 短く息が漏れた。


 男が同じ場所へもう一度拳を入れる。


 カイの身体が横へ傾き、椅子が軋んだ。


 呼吸を戻すまで、少しかかった。


 男が覗き込む。


「そこは効くか」


 カイは答えず、身体を起こした。


「好きにしろ」


「そうか」


 もう一発入れた。


「女はお前の指示で動くのか?」


「……動かない」カイが一度だけ咳をして言った。「自分で決める」


「姫の護衛も大変そうだな」


 端末の男が画面を切り替える。


 カイの視線がダリから端末へ移った。


 正面の男がそれに気づき、もう一度腹を殴った。


 カイの頭が下がる。


 血が一滴、石床へ落ちた。


 そのまま数秒、動かなかった。


「何処にいるか言えよ、こっちも苛立ってんだ」


 男が怪我をした仲間の方に目をやった。


「恨みあるやつ、一発ずつ入れてもいいぞ」


 カイの目が床の一点で止まった。


「……そうか」カイが言った。


 正面の男が拳を下ろした。


「何だ?」


「五八金か」


「……はあ?」


 ダリがカイを見た。


「…随分舐めてんな」


 正面の男がカイを見下ろす。


 ダリが立ち上がり、カイの前まで来た。


 頬を二回、軽く叩いた。


「ほら、殺される前に吐け」


「言わない」


「本当に強情だな、この組織は」


 カイが口角を上げた。


 ダリはしばらくカイを見て、拳を一発顔に振るった。


「……」


 カイの頭が下がった。


「まだ時間はある。ゆっくりやろうか」


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