↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十三章「偏光の聖堂 ― Polarized Cathedral」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/245

184万6千500円!



 同時刻。FORUM会場、西側外周。


 第二退避の開始と同時に、アオイは記録官の退避口へ向かっていた。


 会場西側の通用門から細い路地へ入り、石壁に沿って北へ進む。前方にはフィンがいた。路肩に停まっていた車両を避け、第二退避路へ接続する交差点を見ている。


 ユキナガの声が来た。


『ヴィクトル応答なし。最後に取れた位置は一階の奥。位置情報も止まった』


『ヴィクトル、応答して』リヴァが言った。


 ノイズも返らなかった。


「人を回しますか」アオイが聞いた。


『撤収開始後です。全員、逆行禁止を維持してください』


 先ほど西側へ入った黒いセダンが、路地の奥から出てきた。北アフリカ代表の車両だった。前後を警護車両に挟まれ、停止せず交差点を抜けていく。


 フィンは車列を見送った。


「北アフリカ代表、退避完了」


『了解』アルノが言った。


 代表の車両が角を曲がっても、路地には人間が残っていた。


 仕立ての揃った黒いスーツ。ジャケットの前を開けた男が二人、建物の入口に立っている。向かいの窓にも人影があり、交差点の奥では別の男が駐車車両の陰へ入った。


『待って』ユキナガが言った。『西側の車両管理に経路変更申請が入ってる。申請元は――ハクスリー』


 アオイがフィンを見た。


 フィンの表情は見えなかった。


『何だそれ』ジュリオの声が割り込んだ。館内の銃声が、その後ろに重なっていた。『どういうことだ』


 アオイは第二退避口までの距離を見た。目の前の路地を抜けなければ、記録官側へ寄れない。


 フィンはジャケットのボタンを外した。


 左腕を胸の前へ横切らせ、右腕で抱えて肩を伸ばした。


『フィン、西側の処理を』


「了解」


 低い声で言った。


 向かいの窓で、男が銃を構えた。


 銃口はフィンではなく、東側から走ってきた東欧側の警護担当へ向いていた。


 発砲音が路地へ響いた。


 警護担当の肩から血が散り、石壁へ倒れた。


 入口にいた二人もジャケットの内側へ手を入れた。駐車車両の陰から、短機関銃の銃身が出る。


 フィンはHK45を抜いた。


 窓の男を見上げた。


 人差し指で、そこにあるはずの右のフレームを下から押し上げる仕草をした。


「ハクスリーをそう使う。それが君たちの答えでいいんだね?」


 窓から二発目が撃たれた。


 フィンは斜め上へ二発返した。


「よく覚えておくように」


 銃は右手で持っていた。


 窓枠から男の腕が落ち、拳銃が路地へ落下した。


 入口の一人がフィンへ銃口を向ける。


 フィンは相手の右肩と胸へ続けて撃った。男が扉へ背中を打ちつけ、もう一人の射線を塞いだ。


 アオイは路肩の車両へ身を寄せた。


 眼鏡越しに、向かいの窓と入口、奥の車両を順に確認する。


「代表逃がして、こっちは残るんですね……」


 車両の陰にいた男が短機関銃を撃った。


 弾が石柱と車体を横に走った。フィンは身を低くして路地を横切り、停車車両の後部へ入る。短機関銃の発砲が止まった瞬間に車体の反対側から出て、男の脚を撃った。


 男の膝が落ちた。


 フィンは間を置かず、胸へもう一発入れた。


 フィンが車体の陰から出た。


『見えた』リヴァの声がした。


 入口の奥で、もう一人がフィンへ銃口を向けた。


 男の身体が横へ飛び、壁際へ崩れた。


 乾いた音が一つした。


 フィンが笑った。


 持っている銃を左手に持ち替えた。


 右手でイヤーピースに触れた。


「いいね」


『そこだけね、見える』


「じゃあ、通るようにするよ」


 入口で倒れた男の下から、もう一人が拳銃を出した。


 アオイがボンネットへ左手をつき、身体を滑らせるように前へ出た。拳銃を持つ手首を車体へ打ちつけ、そのまま肘を逆へ返す。銃が落ちた。


 アオイは男の襟を掴み、車両の陰へ引き倒した。


 男が起き上がる前に拳銃を拾い、弾倉を抜いた。薬室の弾も落とし、銃本体を車体の下へ蹴り込む。


 フィンが路地の奥を見た。


「アオイ、そのまま道開けてて」


「分かりました……」


『西から追加』ユキナガが言った。『二台。会場登録なし。東欧側の搬入経路を使ってる』


 交差点の向こうで、白いバンが急停止した。


 後ろに続いた古いセダンが歩道へ乗り上げる。バンの側面扉が開き、男たちが降りてきた。


 服装は揃っていなかった。革のジャケット、軍用の上着、フード付きのスウェット。防弾装備の上から安いコートを着た者もいる。拳銃、短機関銃、鉄棒。武器の規格も携行方法もばらばらだった。


『西、何人?』リヴァが聞いた。


『今降りたので十人くらい』ユキナガが答えた。『東欧側?寄せ集めっぽいな』


「もう東欧の代表は退避完了してますよね?」アオイが言った。


「だから心置きなくドンパチできるんじゃない」フィンが言った。


『……あと、二十メートル動けば見える』リヴァが言った。


『だめだよ』ユキナガの声。


『……』


『だめです』アルノの声が来た。


 先頭の男が端末とフィンの顔を見比べた。


「金髪だ。あれが一万」


 周囲の男たちがフィンを見た。


「殺していい方か?」


「そう。奥のも…いや、眼鏡だから違うか?」


 男たちが路地へ入ってきた。


 フィンは残弾を確認し、第二退避路の北西側を見た。北アフリカ側の警護車両が一台、交差点の途中に残されている。記録官の退避車両が来れば、そこで動線が塞がる。


『記録官、地上階へ到達』カイが言った。


『西側車両、まだ入れない』ユキナガが続けた。『北西の交差点を空けないと第二退避が止まる』


 フィンは東欧側の男たちを見た。次に、アオイが立っている接続路を見た。


「俺は北西を開ける」


「この人たちは…どうするんですか……?」


 東欧側の一人が走り出した。アオイの横を抜け、フィンを追うつもりだった。


 アオイは一歩だけ左へ出た。


 路地はそこで狭くなっていた。片側は石壁、反対側には配送車両が停まり、人間が二人並んで通れる幅はない。


 フィンが北西へ走り始めた。


「アオイ、左頼んだ」


「……人数見ました?」


 フィンはもういなかった。


「……あのイギリス人」


 フィンが車体に近づいた。男が銃口を上げていた。


「リヴァ、そこ」


 男が地面に叩きつけられた。遅れて音がした。


 フィンが倒れた男を見た。


「愛してる」


 左手に持った銃をリロードしながら言った。


『愛……え、』リヴァが固まった。


 先頭の男が拳銃を上げた。


 アオイは配送車両の後部扉を引いた。開いた扉が男の腕へ当たり、銃口が石壁へ逸れる。発砲音と同時に石片が散った。


 扉を押し戻し、男の腕を車体との間に挟む。拳銃が落ちる前に手首を取り、身体を回して男の肩を石壁へ打ちつけた。


「ああ邪魔!」


 アオイは黒縁の眼鏡を外し、放り投げた。


 後ろから来た二人目が鉄棒を振った。


 アオイは最初の男の身体を引き寄せ、鉄棒を背中で受けさせた。そのまま前へ押し返す。二人が衝突し、狭い路地で後続の足が止まった。


「前詰まってんぞ!」


「押せ!」


 後ろから押された男が、倒れた二人を跨いで進んできた。


 アオイは拳銃を蹴り飛ばし、相手の右手を見た。ナイフだった。


 刃が腹へ来る前に手首を外から押さえ、肘の内側へ肩を入れる。男の身体が前へ崩れた。アオイは腕を背中側へ送り、顔から石壁へ当てた。


 刃が落ちた。


 男の襟を掴んで足元へ引き倒し、後続の進路に置く。


「一人ずつ来いよおおお」アオイが日本語で叫んだ。


「おい、あいつ眼鏡のやつじゃねえの?」


「眼鏡してねえだろ」


「今外したんだよ!」


「じゃあ一万じゃん!」


「横から行け!」


「横ねえだろ!」


「行け行け行け!」


 倒れた人間を踏んで、次の男が入ってきた。短機関銃を持っていたが、銃身を上げるだけの幅がない。


 アオイは銃身を下へ押し、相手の膝を蹴った。


「俺殺したら…一万…」


 膝が曲がったところで銃床を奪い、顎へ押し上げる。男の頭が後ろへ反り、身体が配送車両へ当たった。


「ユーロ、今いくらですか!」


『…184.65円だねー』ユキナガの声がした。『そんな上がってんだ』


「184万6千500円!」


 安全装置を確認する余裕はなかった。短機関銃を男ごと地面へ押し込み、足で手首を踏んだ。


 後ろから伸びた腕がアオイの髪を掴んだ。


「っ、触んな馬鹿!」


 身体を沈め、掴んだ腕の下を抜ける。肘を胸へ入れ、相手が息を詰めたところで足首を払った。


「184万6千500円……」


 男が倒れた。


「拠点にいるでっかい人は?!」


『5億弱じゃない?300万ドルでしょ』


 後頭部が石床へ当たった。


 アオイは男の頭を一度蹴った。


「俺、安うーーーーーーーー!」


 残った男たちは、前に倒れた人間を避けて進めなくなっていた。後ろから押す力だけが前へ伝わり、先頭の一人が無理に身体をねじ込んでくる。


 アオイはその手首を取った。


「…いや、180万ならそんな安くもないか……?」


 刃物を持った腕を石壁へ打ちつけ、一度で落ちなかったため、もう一度打った。手首の向きが変わり、ナイフが落ちる。


『258倍くらいだよ』


『はあああああ』


 男の腰へ腕を回し、持ち上げた。


「あああどいつもこいつも、馬鹿!」


 身体ごと横へ振り、後ろの男へ投げた。


 二人が重なって石床へ落ちた。


 上に載っている男のわき腹を蹴った。


「死にてえーーーーーー」



執筆時点のユーロ円:1ユーロ=184.65円(2026年8月)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。