↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十三章「偏光の聖堂 ― Polarized Cathedral」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

200/245

Operation FORUM




 新ローマ拠点 午前六時三十分。


 鎧戸の隙間から朝の光が入っていた。


 全員、支度を終えていた。


 リヴァは黒のパンツに薄手の長袖。髪を低い位置でまとめていた。


 カイは黒のスーツに白いシャツ、細い黒のタイ。右耳にイヤピースを入れていた。黒いサングラスは胸ポケットに差してある。


 ヴィクトルは明るいグレーのダブルスーツだった。二列のボタンに白いシャツ、淡い黄色のタイをしていた。


 フィンはネイビーのジャケットに白いYシャツ。アオイは黒のジャケットに黒のTシャツを着ていた。


 フィンがテーブルから細い黒縁の眼鏡を取って、アオイに渡した。


「これ掛けて」


「なんでですか……」


「それっぽいから」


「……日本人のステレオタイプやらせてます?」


 アオイは眼鏡を掛けた。


 ジュリオは深いネイビーのスーツの袖口を整えていた。


「地味な色だなあ」


「目立ってどうするんですか」アオイが眼鏡を上げながら言った。


 アルノは白いシャツにいつもより暗めなグレーのスーツ。ジャケットの下、脇腹には包帯の厚みが残っていた。


 アルノが端末を閉じた。


「ユキナガ、大学側は」


「ルカとチャットだけ繋いでる。観測データも来てる。問題なし」


「東京側は」


「惣一まで同期してる。なんかあったら音声も入る」


 アオイが姿勢を正した。


「確認しました」アルノが言った。


 腕時計を見た。


「出ます」


 ジュリオがドアを開けた。


 石畳を走るスクーターの音が入ってきた。


 ヴィクトルが廊下へ出た。フィンが続いた。


 アオイもドアへ向かった。


「アオイ、死なないようにね」リヴァが言った。


 アオイが振り返った。少し笑った。


 カイがその横を通った。


「四七歩成」アオイが言った。


「三三角成」


 カイが返した。


 アオイがドアを押さえた。


「四八と」


 アルノが二人を見て、ため息をついた。


「カイ、記録官を頼みました」


「ああ」


 カイは胸ポケットからサングラスを出して、掛けた。


 午前七時四十分。


 リヴァは修復中の石造建物の三階にいた。


 窓の外には赤茶の屋根が重なり、その向こうに会場の石壁と鐘楼が見えた。


 AXMCを窓際の低い位置に据えた。


 イヤピースにアルノの声が来た。


『全員、接続確認。Sniper』


「完了」


『Protection』


『完了』


 カイの声だった。


『Outer』


『完了』フィンが言った。


『Response』


『聞こえてます』


 アオイの声。


『Inside』


『問題ないよ』ジュリオが言った。


『Liaison』


 少し間があった。


 向こうで男たちの話し声が混じった。


『…聞こえてる』


 ヴィクトルの声だった。


『Comms』


『全員取れてる』ユキナガが言った。


 短い沈黙があった。


『では』アルノが言った。『各自、配置を維持してください』





 会場 午前十一時十八分。


 会場の壁には古い紋章が残っている。


 地下の会議室では、四勢力の代表が席についていた。予定通りだった。


 記録官が一階の控室から出た。


 カイが先に廊下を見た。通過するスタッフが二人、壁際に警備が一人。奥の扉は閉じている。


 記録官が歩き始めた。カイも半歩後ろにいた。人が来る側へ寄っている。


 記録官が右へ曲がる前に、カイの視線は先にあった。


 階段から男が上がってきた。東欧勢力の随員だった。記録官を見つけて、片手を上げた。


「Signore――」


 近づいてきた。


 カイが一歩入った。


「後にしろ」


 声は低かった。


「なんだよ、俺が誰かわかってるのか?」


「東欧の通訳だ」カイは言った。「代表から離れる必要は無い、戻れ」


 男は眉を寄せて、一度記録官を見た。カイが動かなかった。


 男が退いた。


 記録官はそのまま歩いていた。カイは振り返らず、元の距離へ戻った。


 回廊の先で扉が開いた。黒いケースを持った会場スタッフが出てきた。


 カイの右手が記録官の背中に触れた。記録官を壁側へ通し、自分が外側へ入った。


 スタッフは立ち止まり、道を空けた。


 カイはケースを見た。封印、搬入票、スタッフの首から下がった会場証。そのまま通した。


「ありがとう」


 記録官が小さく言った。


「前を」


 カイは答えた。


 記録官が前を向いた。二人は階段を下りた。


 

 


 玄関ホール。ジュリオが受付の前を通った。


 黒いスーツを着たコンシェルジュが、招待客からカードを受け取っていた。


 男が顔を上げた。片方の眉を上げた。


 ジュリオと目が合った。


 ジュリオは少し顔を傾け、そのまま歩いた。


「……静かで気持ち悪いな」


 リヴァは窓から一歩下がった位置にいた。


 ライフルは据えたまま、肉眼で通りを見る。


 人間が四人。窓際に一人。路地から出てきた男が一人。停車していた白い車が動いた。


 歩行者の流れに変化はない。


 スコープへ目を移した。


 リヴァはイヤピースに触れた。


「外、異常なし」


『異常なしを信用しすぎないでください。観測継続』


 アルノだった。


 リヴァは肩を落とした。


「はあい」


 リヴァはまたスコープを覗いた。


「アオイ、眼鏡似合ってるね」


『あ、ありがとうございます……狙わないでくださいね……』


「見てるだけ」


『そう信じますけど…』


 下の路地を風が抜けた。開いた窓から匂いが入ってきた。


「レストランの匂いして、お腹空いてきた」


『そこのカルボナーラ、マジで美味いぞ』ジュリオの声が入った。


『食いたい』ユキナガの声がした。


『惜しい、招待制なんだよな。俺とリヴァの』


『嘘つけ』


 リヴァはポケットから小さなチョコレートを出した。アルノにもらったやつだった。


 包みを開けた。一つ口に入れた。


 口の中で溶かしながら、通りを見た。


 

 

 


 会場内。


 アルノは地下へ続く階段の手前にいた。


「失礼」


 アルノは海運の警護担当に声をかけた。二人いた。


「地下へ入れるのは一名までです」


「…こちらは二名で登録している」


「登録人数と会議室への入室人数は別です」


 片方が何か言いかけた。


「一名です」アルノは言った。


 警護担当が一人残った。もう一人が階段を上がった。


 アルノは次の参加者へ目を向けた。


 


 ユキナガの前に六枚のモニターが並んでいた。


 会場、外周、各員の位置。通信状態。大学から届く観測データ。


 画面の隅にチャットが一件増えた。


 LUCA:継続してるよ。問題ナシ^ - ^


 ユキナガは読んだ。返さなかった。


 別のログを開いた。


 一件だけ、時刻がずれていた。


「定期的になんかズレるんだよな…」


 ユキナガがカーソルを止めた。前後を開いた。


 正常。次も正常。該当ログに印をつけた。


 画面を戻した。


 

 


 地下会議室の扉が閉まった。


 記録官が席についた。


 カイは壁際へ下がった。


 記録官がペンを落とした。


 カイは動かなかった。


 記録官がカイを一度見て、自分で拾った。


 カイは扉を見ていた。


 イヤピースにアルノの声が入った。


『各員、現状維持』


 誰も返事をしなかった。


 会議は予定通り進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。