↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十二章「閉鎖系の外乱 ― Disturbance in a Closed System」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/247

忘れ物




 共用スペースへ戻ると、ユキナガはモニター前の椅子へ座った。


 モニターの電源をつけ、机へ突っ伏した。


「……きっつ」


 ヴィクトルは返事をしなかった。


 ボルドーのシャツは、まだ背中へ張りついていた。襟元を引き、煙草の灰を落とした。


 アルノはソファへ戻り、脇腹を押さえた。中断していた報告書を開いた。


 リヴァは肩に残った濡れた跡を見た。


 ヴィクトルがテーブルを指した。


「それ、忘れ物か」


 ルカのノートパソコンが置かれていた。


 ユキナガが顔を上げた。


「は?あいつ忘れ物したの?マジ?」


 椅子を寄せ、画面を開いた。


 ログインしたままだった。


 解析済みの範囲。未処理のログ。次に照合する人物。大学側のサーバへ接続する手順。


 ユキナガが画面を送った。


「……全部見れるようになってる」


「何が」


「大学経由で解析に接続できるようになってるし、なんかチャットもできるようになってんだけど」


「……残していったのか」


 ユキナガが更新時間を確認した。


「は?しかもあいつ教授きてから保存してる」


 アルノが一度ユキナガを見た。


 ユキナガがページを送る。


「……あいつ、マジで猿芝居うまい」


 ヴィクトルが画面を覗いた。


「さっきの、どこまでが演技だ」


「……いや、怖いのも泣いてたのも多分マジなんだけど……あいつ、それと計算を同時にやるんだよ昔から」


 ユキナガは接続設定を開いた。


 フィンが、キッチンのカウンターからユキナガを見た。


「名演技じゃん」


「演技じゃないから怖い」


 フィンが笑った。


「メソッドアクターだね」


「なにそれ」


「ごめんこっちの話」


 ヴィクトルが煙草を口から外した。


「…すごいな弟」


「本気で泣きながら、相手に言わせたいこと言わせるんだよ。昔から」ユキナガが言った。


「抱きついてきた時、呼吸ほど心臓は速くなかった」リヴァが言った。


「……うわ」


「一瞬スマホ触ってたのもそのタイミングか」ヴィクトルが言った。


 リヴァが頷いた。


「…うわうわ」


 ユキナガがもう一度机に突っ伏した。


 アルノが目頭を押さえた。


「……その件は、一旦任せていいですか。一晩明けてからで」


「ごめんアルノ、俺が巻き取る。いまそれどころじゃない」


「…契約書には、あなた達の連絡には干渉しないことを明記するつもりです」


「……うん。それでいい。ありがとうアルノ」


 ユキナガがリヴァを見た。


「リヴァも、ありがとう」


「私は思ったこと言っただけ」


 ユキナガはルカのノートパソコンを閉じ、自分のバッグへ入れた。


「俺には?」ヴィクトルが言った。


「あんたが煽らなきゃもっと早く収まってただろ」


 ヴィクトルは肩をすくめて、煙草を一本出した。



 アオイが廊下から戻ってきた。


 片手に端末、もう片方に透明な袋を持っていた。


「押収品、終わりました。武器、端末、身分証、所持品。捕虜ごとに番号振ってます」


 アルノが端末を受け取った。


「全員、拘束し直したよ。隠し武器もない。今すぐ危ない人はいないけど、三人は搬送前に処置がいるね」フィンが言った。


「捕虜同士の分離は」


「終わってます」アオイが言った。「正面、中庭、二階、地下で分けました」


「搬送先も取れた」ジュリオが端末を持ち上げた。「十一人まとめては無理だ。三台に分ける」


「同じ場所ですか」


「建物は同じ。入口と階が違う。警察筋の奴を一人通してる」


 アオイが捕虜一覧を開いたまま、カイを見た。


「四五歩」


 カイが床に置かれた結束具を拾った。


「同歩」


「四四角」


「二二銀」


 ジュリオが振り返った。


「急に日本語で話し出すな。何の話だ?」


「一昨日の続きです」アオイが言った。


「何が?」


「将棋」


「なにそれ」


 ユキナガがバッグの口を閉じた。


「頭の中でチェスしてるようなもん」


「五十二手目です」アオイが言った。


 ジュリオが目を細めた。


「襲撃の間も盤面残してたのか?」


 カイは答えなかった。


「ヴィクトル、詳細聴取へ回す者を選んでください」


「喋りそうな奴か」


「情報を持ち、崩せる者です」


「いいだろう」


 ヴィクトルは一覧を受け取った。


 捕獲場所、装備、負傷箇所、所持品を順に見た。


 テーブルにあったペンを取り、丸を三つつけた。


「この三人」


「理由は」


「地下のは靴が違う。運転か搬送担当だ。二階のは館内図を持ってる。正面のは一人だけ端末に年季が入ってる」


 アルノが端末へ記録した。


「残り八名は共通質問のみ。供述の比較へ回します」


 アルノがジュリオを見た。


「俺?」ジュリオが言った。


「正面班をお願いします」


「こいつ?」


「はい」


「美人がよかったな」


 そう言って立ち上がった。


 アルノがフィンを見た。


「フィン。一名、聴取をお願いします」


 フィンは少し黙った。


「俺は外周を見るよ」


「あなたが最も早い」


「俺はやめとく。専門じゃ無いし」


 部屋が静かになった。


 ユキナガが一度、フィンを見た。


 アルノは眼鏡を押し上げた。


「時間がありません」


「新しい拠点が安全か分からないまま、捕虜を入れる方がまずいよ」


 フィンは続けた。


「入口、屋上、隣の建物。車の動線も見てない。先にそっち見てくる」


「……わかりました。私が行います」


 フィンはキッチンのカウンターから離れた。


「アオイは二階班を」


「どうやったらいいですか…?」


 アルノが止まった。


 アオイを見た。


「履歴書が虚偽でないのなら自分で判断してください」


 手にした端末を二度叩いた。


「なんかあったら始末書とかって……」


「無いです。行ってください」


「無いんですか!?」


 端末をもう一度叩いた。


 二人の目が合った。


 アオイはしばらくアルノの金色の目を見ていた。


 アルノが目を細めた。


 アオイの右手が先に上がった。


 そのまま敬礼した。


 踵を返しかけて、去り際にカイを見た。


「七七角っ」


 カイが顔も上げずに言った。


「三三銀」


 アオイが一拍置いた。


「……四六歩、打ちです」


 アオイはそのまま逃げるように去っていった。


 カイは一度自分の額を触って、少し目を閉じた。


「……」小さく唸っていた。


 アルノは息を吐いた。


「カイ。リヴァ」


 カイが顔を上げた。リヴァもアルノを見た。


「新拠点へ着いたら休んでください。戦力維持です」


「了解」


「うん」


 アルノは端末を閉じた。


「移動を開始します」


 全員が動いた。


 三名は、ジュリオの協力者が用意した灰色のバンへ乗せた。アオイが同乗する。


 残る八名は、ジュリオの協力者と警察筋の人間が二台へ分けた。ジュリオが最後の車へ同乗した。


 最初にフィンの車が出た。


 次に、アルノたちの車両。


 ヴィクトルが運転席へ座った。


「契約書、俺がやるか?」


 助手席にアルノが座った。


「結構です」


 ヴィクトルが笑った。


「じゃあ、オラヴルに最後チェックさせとけ」


 後部座席にユキナガ、リヴァ、カイ。


 ルカのノートパソコンは、ユキナガの膝の上にあった。


 車が地下駐車場を出た。


 旧拠点の門は閉じたままだった。


 誰も振り返らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。