↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十二章「閉鎖系の外乱 ― Disturbance in a Closed System」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/247

応答なし



 下から、続けて二発の銃声が鳴った。



 石壁の中で潰れた音が、床を伝って上がってきた。


「地下で何か起きてる」リヴァが言った。


「ルカが一階です」言いながらアルノは部屋の扉を開けた。


 扉が壁へ当たった。アルノは振り返らなかった。


 アルノは耳に手を当てた。


「カイ、地下に居ますね。状況を」


 返答はなかった。


「ユキナガ、地下映像を確認できますか」


 返答はなかった。


「クソ」


 アルノは階段を下りながら悪態を吐く。


「ユキナガ、受信できているなら、音声を切って位置情報を維持してください」


 アルノは全員宛の通信を開いた。


「地下で接敵。全員、現在地、移動可否、接敵の有無。カイ、ユキナガは応答なし」


 雑音が重なった。


『アオイ。東側通り、徒歩。移動可能、接敵なし』


 アオイの声だった。


『俺はテヴェレ側、車だ。動ける。接敵なし』


 ジュリオの声は、後半が途切れた。


 ほかからは返答がなかった。


「アオイ、正面を回避。東側通用口から接近してください」


『了解。正面回避、東側通用口へ向かいます』


「ジュリオ、フィンは館の北西九百メートルで、数分前から位置情報が途絶えています。先に最終位置を確認してください」


『フィンは』


「応答がありません」


 短い間があった。


『了解。向かう』


 アルノはフィンの回線を開いた。


「フィン、応答を」


 短い音が鳴って、切れた。


「ヴィクトル」返事はなかった。


 地下で、一発鳴った。


 その後ろで、金属が大きく軋んだ。


 アルノは端末の表示を見た。


 カイの位置は、地下駐車場から動いていなかった。


 リヴァは腰のGlock 19を抜いた。


 グリップは冷たかった。階段を下りるうちに速くなった呼吸が、喉の奥で浅く引っかかっていた。


 アルノは端末をポケットへ滑らせ、Walther PPKを抜いた。




 共用スペースには、灯りが半分だけ点いていた。


 ルカがテーブルの横にしゃがんで、階段の方を見上げていた。


「ユキは」


 ルカが言った。


「通信室です」


「助けに行かなくちゃ」


 リヴァがルカの腰に手をやり、立たせた。


「立って」リヴァが言った。


 アルノは共用スペースを横切り、正面玄関側へ向かった。


「ユキが」ルカが言った。「二階にいるはず」


 ルカを奥のキッチンに移動させた。一緒にしゃがんだ。


「大丈夫。ユキナガすんごく強いから」リヴァが笑って、言った。


 石床の冷たさが膝に伝わった。首筋には薄く汗が浮いていた。


「そこにいて」


 ルカは一度リヴァの手の中にある銃を見た。


「……マジでこういう仕事の人なんだ」


 リヴァは手の中の銃を見た。


「あ」


 リヴァは立ち上がり、キッチンの戸棚を開いた。手を奥に差し込み、天板を探った。


「ヴィクトルがなんか言ってた気がする」


 予備のBeretta 92FSを取り出した。ルカに渡した。


「いける?」


 ルカの表情が固まった。重みが両手に乗っていた。


「……韓国旅行行ったときに撃っただけだけど大丈夫?」


「んー。わかんない。でも持ってて」


「これ、セーフティ?どこ」


 リヴァはルカの手元を覗いた。


「ここ。撃つ時だけ上げて。赤いの見えたら撃てる」


「お、オッケー」


「まだ指かけないで」


 リヴァはルカの銃を握る手を両手で包んで、人差し指を外側に添えさせた。


 ルカの手は氷のように冷たかった。




 正面の方で、重い機構が動いた。


 館の両開き門が閉まった音が響いた。


 続いて、正面玄関側の照明が落ちた。


 共用スペースの石柱沿いと、奥の廊下にだけ非常灯が残った。


 大階段の上部が暗くなった。


 アルノがキッチンに入ってきた。息が上がっていた。アルノは右手で端末を取り出した。


「ここまでは入られていません。二人とも怪我はありませんね」


 アルノがルカの持っている拳銃を見た。


「アルノが言うまで撃たないで」リヴァが言った。


「分かった」


 アルノは一度リヴァを見た。


「……今はそのままで。銃口は床に。必要になれば私が指示します」


 ルカが手元の銃を見て、頷いた。


 アルノを見た。


「さっきの音はなに、なんでこんな暗いの」


「ユキナガが動かしています」


「え」


「これがユキナガのお仕事だよ」リヴァが言った。「通信なくてもわかる」


 ルカは一瞬、目を丸くした。


 それから床を見て、すぐにアルノを見た。


「俺は何をすればいい」


「ガラス戸の脇から階段を見てください。身体は出さないで、上へ抜けた人数を教えてください」


「分かった」


 リヴァはキッチンを出ようとした。


「リヴァ、あなたはここでルカを守ってください」


「アルノがここで指揮に専念して」


 アルノは左手に銃、右手に端末を持っていた。


 端末には位置情報が出ていた。


「みんなと繋がらないなら、なおさらアルノの判断が必要」


「リヴァ」


「指示、止めないで」リヴァが言った。


 アルノのイヤホンからはとぎれとぎれのジュリオの声がしていた。


 アルノは右手の端末をカウンターへ置いた。


 リヴァが拳銃を取り出した戸棚の下段を開け、折り畳まれた薄型の防弾ベストを引き出した。


「一着しかありません。着てください」


「アルノは」


「私はここに残ります。前へ出るあなたが着てください」


 リヴァは防弾ベストを受け取った。腕を通し、脇の留め具を締めた。


「……ルカ、階段とリヴァを見て、変化があれば伝えてください」


「……わかった」


 リヴァはキッチンを出た。


 ルカまでの距離と、奥の扉までの歩数を測った。


 硝子戸。ソファ。石の柱。


 弾を止めるのは、柱だけだった。


 石柱の端へ左肩を寄せた。


 リヴァから見て、正面玄関はホールの向こうにあった。中央のソファが入口の下半分を隠し、その右奥に二階へ続く大階段がある。左手には、中庭へ続く硝子戸があった。


 斜め後ろに、アルノとルカのいるキッチンがある。硝子戸の端にルカの肩が見え、その奥でアルノの端末の光が動いていた。


 玄関から大階段へ進むには、ソファの左右どちらかを通る。どちらを選んでも、リヴァの射線を横切った。


 正面玄関へ続く暗がりで、靴底が石を擦った。


 扉の真鍮金具が小さく鳴った。


 黒い銃口が先に入った。


 男は壁際へ身体を寄せたまま、音もなく共用スペースへ入った。


 男の後ろに、まだ三人いた。


 非常灯の縁に、靴が三組見えた。一人は扉の陰に残り、二人は左右の壁へ分かれていた。


 見えているだけで四人。


 先頭だけが、ソファの方へ進んだ。


 リヴァは石柱の後ろで身をかがめて男を見ていた。


 リヴァが一発撃った。


 一発目が男の胸の装備で止まった。男はソファの裏へ滑り込んだ。


 発砲音が天井へ跳ね返った。火薬の匂いが、乾いた空気の中へ広がった。


 男は喉元の送信機へ短く言葉を発した。


「対象確認。交戦中」英語だった。


 男がもう一人入ってきた。


 リヴァは二人目に一発撃った。


 男の腰が落ちた。


 二人目は玄関の内側で膝をつき、そのまま片手を床についた。


 先頭はソファの裏。残る二人は入口の左右にいた。


「アルノ、正面に四人。一人は床。三人動いてる」


「リヴァ、後退してください。私が右側を取ります」


 ソファの裏から銃声が返った。


 石柱の角が欠けた。


 リヴァは柱の内側へ戻った。


「ルカ、伏せてください。硝子戸から離れて。端末の位置表示が消えたら、名前を読み上げてください」


「アルノが前に出たら、指示が止まる」リヴァが言った。


「あなたを取られれば、指示を続ける意味がなくなります」


 アルノがキッチンを出た。


 姿勢を低くしたまま、リヴァの斜め後ろにある石柱へ移った。左手のPPKを大階段側へ向け、右手で耳の通信機を押さえた。


「全員へ。館内正面で四名と接敵。敵はリヴァを識別しています。生存者は応答不要、位置情報だけ維持してください」


 正面側の照明が、もう一列落ちた。


 男たちの背後で、防火扉が下り始めた。


 金属の音が、エントランスホールを横切った。


 後ろにいた一人が振り返った。


 入口の右に残っていた三人目だった。四人目は壁沿いに、大階段へ寄っていた。


 その間に、リヴァは一発撃った。


 男が暗がりへ引いた。


「夕ご飯パニーノ半分しか食べてない」


「は?なんです?」


 先頭はソファの裏。二人目は床。撃たれた三人目は玄関柱の陰へ戻り、四人目だけが大階段へ近づいていた。


「一人階段へ向かってる」


「私が止めます」


 アルノが二発撃った。


 四人目の身体が階段下の石壁へぶつかった。男は片膝をついたが、倒れなかった。銃を左手へ持ち替え、欄干の陰へ入った。


 ソファの裏から、英語が聞こえた。


「殺すな。左から回れ」


 リヴァは視線を硝子戸側へ移した。


 三人目が玄関柱から離れ、壁沿いに左へ移動していた。ソファの男が撃つたびに、数歩ずつ距離を詰めている。


「リヴァ、キッチン側へ二歩下がって」


 リヴァは柱へ銃口を残したまま、一歩下がった。


「二歩です」


「一歩で見えるから」


「距離の相談はしていません」


 リヴァはもう一歩下がった。


 防火扉は床へ着く直前で止まった。


 十センチほどの隙間が残った。


「リヴァ、防火扉が停止。閉鎖できていません」


「なんで」


「わかりません。制御応答なし」


 床に膝をついていた二人目が動いた。


 片手で腰から拳銃を抜き、床すれすれに銃口を上げた。


 低い位置から二発撃たれた。


 一発が石柱の根元で砕けた。もう一発がキッチンの硝子戸を抜いた。


 硝子が割れた。


 ルカが床へ伏せる音がした。


 リヴァは床の男へ一発返した。


 男の拳銃が石床を滑った。


 その瞬間、ソファの裏から先頭の男が出た。


 身体を低くし、ソファの端から石柱までの距離を一気に詰めてきた。


 リヴァが銃口を戻した。


 男が撃った。


 石柱の側面が欠け、リヴァの頬へ石片が当たった。


「痛っ」


「リヴァ、」


「石が当たった」


 アルノが一発撃った。


 男は肩を引いたが止まらなかった。石柱の反対側へ回り込もうとした。


「紛らわしい通信を入れないでください」


 大階段側でも、欄干の陰から銃口が上がった。


 アルノは階段へ一発、ソファ側へ一発撃った。


 小さな発砲音が、連続して石壁へ跳ね返った。


「アオイ、現在地と進入状況を」


 返答はなかった。


 三人目が硝子戸側の壁を抜けた。


 リヴァの左に一人。正面に一人。階段側に一人。床の男も、滑った拳銃へ手を伸ばしていた。


「アルノ、左が来る」


 左側から三発撃たれた。


 硝子戸に残っていた破片が弾け、キッチンの棚から皿が落ちた。


 リヴァは二発返した。


 男は壁へ身体を戻したが、距離はもう十メートルもなかった。


 正面の男が石柱へ取りついた。


 柱の反対側で、服が石を擦る音がした。


 アルノがリヴァの右腕を掴んだ。


「リヴァ、下がれ」


「でも」


 アルノがリヴァをキッチン側へ引いた。


 リヴァは銃口を正面へ残したまま二歩下がった。


 石柱を離れた瞬間、銃弾が柱の端を削った。


 二人はキッチン入口の石壁まで後退した。


「もう少し耐えてください」


 ルカが割れた硝子の向こうで伏せていた。片手に拳銃を持ち、もう片方の手で頭を覆っていた。


 アルノはリヴァの前へ半歩出た。


 右手で新しい弾倉を抜き、PPKへ押し込んだ。銃口を正面へ戻したまま言った。


「ルカ、奥の戸棚まで這ってください。立たないで」


 ソファ側の男が石柱を越えた。


 左側の男も、割れた硝子戸の前まで来ていた。


「アオイ、応答を」


 返答はなかった。


 正面の男が銃口を下げた。右手に銃を残したまま、距離を詰めてきた。


 取り押さえるつもりだった。リヴァとの距離はあと三メートルほどだった。


 リヴァが正面の男へ銃口を向けた。


 その瞬間、左側の男が発砲した。


 アルノがリヴァの肩口を掴み、横へ引き倒した。


 リヴァの膝と片手が石床についた。


 弾は二人の頭上を抜け、キッチンの石壁へ入った。


 アルノは左側の男に発砲した。同時に、リヴァが伏せたまま正面の男を撃った。


 二人はそれぞれ硝子戸と石柱の陰へ退いた。正面の男は右腕をかばっていたのが見えた。


 リヴァは反射的に首筋へ手をやった。指に血はつかなかった。


 アルノは左側へ銃口を残したまま、右手でリヴァの肩から背中を一度確かめた。


「当たっていませんね」


「汗かいてるから触らないで」


 二人の荒い息が響いた。


 正面の男が踏み込んだ。


 アルノはリヴァを背後へ押し、男の手首を掴んだ。銃口を逸らし、肘を喉へ入れる。


 同時に、リヴァが左側の男へ撃った。


 男は硝子戸の陰へ退きながら発砲した。


 アルノの脇腹を弾が掠めた。


 アルノは止まらなかった。正面の男の腕を捻り上げ、膝裏を払って石床へ落とした。


 リヴァが左へ二発返した。


「アルノ、血」


「いい。そちらを見ていてください」




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。