↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十一章「情熱の死角 ― Blind Spot of Desire」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/247

半地下



 男の手が伸びた。


 アオイは半歩ずれて外し、手首を取って肘を返した。男の身体が前へ泳ぎ、肩が配管の壁へぶつかった。


 アオイが首筋へ手を添えて床へ落とすと、男は膝から沈み、そのまま動かなくなった。


 男が隠し持っていた短い警棒が袖口から滑り、床で鳴った。


 リヴァは靴の先でそれを蹴ったが、加減を誤って警棒は配管の壁に当たり、思ったほど遠くへ行かなかった。もう一度蹴った。


「それでいいです。触らないで」アオイが言った。


 二人目が横から入り、袖の下で刃が光った。アオイはその手首を掴んで配管の壁へ叩きつけた。


 刃が鳴って床へ落ちると、肘を極めたまま男を肩から床へ落とした。男は腕を抱えて丸くなった。


 アオイが短く、息を吐く音がした。


 三人目が正面から来た。


 アオイは重心を下げた。


 膝の裏を蹴り、沈んだところへ肘を入れて、肘で首の付け根を押さえた。男の額が床すれすれで止まった。


 その男が腕を突いて起き上がろうとした。


 アオイは首の付け根へ体重をかけた。男の腕から力が抜け、身体が床へ戻った。


「アオイ」


「後ろみててください」


 リヴァは前から目を外し、アオイの背中の側へ視線を移した。残りの二人が距離を詰め、一人が壁沿いに身体を滑らせて、アオイの背後へ回ろうとしていた。


「右。後ろから」リヴァが言った。


 アオイは踵で倒れている一人目の身体を蹴り出した。回り込もうとした男が脛を取られ、姿勢を崩した。


「ああ、もう。順番に来い」


 もう一人が正面から掴みかかり、倒れかけた男も壁へ手をついて踏みとどまった。二人の手が同時にアオイへ伸び、アオイは左の男の腕を引いてその勢いのまま配管の壁へ送り、右は身体ごと突き当たりの鉄扉へ叩きつけた。扉が大きく鳴った。


「右の扉、閉めて」


 アオイが言った。


 リヴァは振り返り、側面の扉の内側を一度見てから押した。重く、肩を入れて閉め、閂を探した。


「これ?」


「落として」


 金具を下ろした。


 鉄扉へ叩きつけられた男が上着の内側へ手を入れた。


「撃つなよ」


 アオイは言った。


 銃口が上がるより先に腕を下から払うと、発砲音が通路を叩き、弾が配管の壁を削って火花が散った。


 拳銃は男の手を離れ、床を回りながらリヴァの足元まで滑ってきた。


 リヴァは靴の内側へ引き寄せた。


 男が床を蹴り、拳銃へ手を伸ばした。


「撃つなっつってんだろ、馬鹿が」


 アオイはここで初めて銃を腰から抜いた。男の肩へ一発撃った。男は鉄扉にぶつかり、肩を押さえたまま床へ落ちた。


 その背後で、配管の壁へ投げられた男が呻きながら起き上がり、鉄扉へ走った。


 男は扉を押し開け、外へ出た。


 アオイは銃口を向けなかった。


 アルノの命令が耳に残っていた。


 開いた鉄扉から、西日が通路へ差し込んだ。リヴァは路地の向き、男が曲がった方角を見ていた。


 上から速い足音がした。ジュリオが階段口に現れ、通路へ一歩出た。壁際に沈んだ三人と、鉄扉の前で肩を押さえている一人、開いたままの出口を見て、足を止めた。


 アオイは呼吸を整えながら、自分の拳銃を低く保持した。撃たれた男が動かないことだけを確認した。


「一人、逃がしました」


 ジュリオは床の四人を見て、それからアオイを見た。


「随分片づけたな」ジュリオが言った。「怪我は?」


 アオイは配管の壁に残った弾痕を見た。


 それから拳銃を持っていない方の指を、自分の首筋へ当てた。


「……ありません」


「運がいいな」


 わずかに間があった。


「…はい」


 首筋の手を下げた。


 ジュリオは床の四人へ視線を戻した。


 リヴァだけが、その間を見ていた。




 リヴァが顔を上げた。


 向かいの建物の高い窓で、光が瞬いた。


「上」リヴァがジュリオのシャツの裾を掴んだ。


 ジュリオが反射で身体を沈めた直後、弾が石壁を削った。さっきまでジュリオの頭があった高さで、砕けた石が髪と肩へ降った。


 リヴァの息が一度止まった。でも、窓の位置は見えていた。


「クソ」


「入って」


 言いながらリヴァは足元の拳銃を拾い、両手で構えた。


 一発撃った。


 窓枠が弾け、向こうの影が窓の下へ沈んだ。


 ジュリオとアオイが配管の陰へ入った。リヴァは鉄扉の脇へ身体を寄せた。


 さっきより低い位置から一瞬だけ外を見て、窓の位置と建物の側面を追った。人影は戻らなかった。


「このまま西側へ抜けましょう」アオイが言った。


 ジュリオが窓の外を見た。


「追撃は禁止だそうです」


 アオイが言った。


 ジュリオが振り返った。


「……リヴァ、助かった」


「うん」


 リヴァは窓からしばらく目を離さなかった。


 半地下の鉄扉から、西側の路地へ出た。三人は向かいの建物とは反対の壁沿いに、路地を奥へ進んだ。


 ジュリオが先に立ち、リヴァを内側に置いて、アオイが後ろについた。


 リヴァは銃口を下へ向けたまま、上階の窓と、向かいの建物の影を交互に追っている。


 ジュリオは耳へ指を当てた。


「回収、西側路地。2分で入れてくれ」ジュリオは言った。


 手を下ろし、リヴァを見た。


「歩けるね」


「うん」


 アオイが最後に鉄扉を抜け、路地へ出たところで振り返った。上階の窓は、どれも暗いままだった。


「現地点から離脱します」アオイは無線に言った。




 作業車を装った白いバンが、路地の入口に停まった。


 つなぎを着た男が二人、荷台の扉を開ける。ジュリオが片手を上げると、男たちは短くうなずいた。


 手早く止血し、灰色の作業用シートで男たちを覆い、荷台へ収めていった。


 リヴァは持っていた拳銃を、アオイへ渡した。アオイは弾倉を抜き、番号を書いた袋のひとつへ落とした。


 ジュリオはその一台を袋から取り出し、画面を指で送った。


「同じところを押さえに来てたな。向こうも」ジュリオは言った。


「どの陣営ですか」


「わからない」


 ジュリオは窓を一度見て、端末を閉じた。


「もう場外で殴り合いが起きてる」


 白いバンが荷台の扉を閉め、路地を出ていった。


 通りに出ると、日はまだ高かった。


 ジュリオが、通りの左右を一度見た。


「このまま車で戻る方が、目立つ」ジュリオは言った。


「次の二本は警察筋が見てる。観光客のまま抜けよう」


 笑顔になった。


「デートの続きだ」


 リヴァに手を出した。リヴァは笑った。手は取らなかった。


「二回目の失恋ですか」アオイが言った。


 角に、小さなジェラテリアがあった。店主の老人が新聞を読んでいた。


 ジュリオが店を指した。


「好きな味、選んでおいで」ジュリオは言った。「その間、ちょっと電話する」


「うん。アオイは?」


「自分はいいです。疲れました」


「わかった」


 リヴァが一人で店へ入っていった。


 アオイは一度周囲を見てから、手の甲についた血をハンカチで拭った。


 しばらく見ていた。血はもうついていなかった。


 電話を終えたジュリオが、店の方へ歩きだした。


 リヴァが出てきた。


 カラフルに盛られたジェラートを、両手で持っていた。顔くらいの大きさがあった。


「見たことないサイズだな」ジュリオが言った。「おごりたかったのに」


 リヴァは首を振った。


「お店のおじさんがくれた」


 ジュリオが掌で顔を押さえた。


「ローマ、やばいですね」


 アオイが言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。