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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十一章「情熱の死角 ― Blind Spot of Desire」

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SIG P226



 倉庫の奥で、発砲音がした。


 グレイの顔の脇を、弾が抜けた。


 背後の柱が弾けた。


 コンクリートの粉が、白い光へ散った。


 部下たちが振り向いた。銃口が奥へ回る。床に伏せたカラムの視界の端で、革靴の並びが崩れた。


 積まれた荷の陰から、カズマが出てきた。


 銃は片手に提げたままだった。


「やっとだー」


 グレイがM29を撃った。カズマの肩口すれすれを、弾が抜けた。


 カズマは銃を上げた。撃ち返す。棚の枠が弾けた。金属の荷が甲高く鳴り、部下たちが遮蔽へ散る。グレイもカラムから離れ、遮蔽へと身を隠した。


 カズマは走らない。伏せない。壁にも入らない。弾が来る前に半歩ずれ、立ち止まり、首を傾ける。その場所だけを、弾が縫って通っていく。


 空になった弾倉を落とし、次を叩き込む。


「くしゃみ出そうだったマジ」


 カラムは床からそれを見ていた。銃声が倉庫の壁で幾重にも反り返る。硝煙が作業灯の光に薄く溜まっていく。


 カズマが、床にあったカラムの拳銃に気づいた。爪先で蹴った。


 SIG P226がコンクリートを滑り、カラムの指先で止まった。


「楽しいの、今からじゃん?」


 銃声が続いている。


「撃てる?貧血?脳震盪?ねえ、聞こえてる?」


 カズマが一度カラムの服を引いて、位置をずらした。


 その後、弾がそこを通り抜ける。


 カラムの指が床を滑った。


 二度目で、グリップにかかった。


 左肘をつく。身体を起こす。右脚は動かない。


 息も戻らない。


 血が顎から床へ垂れ、開いた目に、作業灯の白だけが残っていた。


 右手が銃を持ち上げた。


 震えが止まった。


 銃口だけが、揺れなかった。


 遮蔽から部下が出た。カズマへ銃口を向ける。


 カラムが喉を撃った。血が壁へ飛ぶ。


 撃った直後、着弾先を見ずに銃口が滑る。別の男が、カラムへ銃口を向けた。


 眉間を撃った。


 二人が落ちた。薬莢が二つ、床で跳ねて止まった。


 撃ち終えても、右手は上がったままだった。そこだけ時が止まったように、動かなかった。目の焦点も戻らない身体の中で、その手だけが別のものだった。


 カズマは普通に歩いていた。


 グレイの目が、カズマを追った。


 撃たれてから避けているのではない。撃たれる場所に、最初から居ない。


「……あの時の少年ですか」


 グレイが片手を上げた。


 銃声が止まった。硝煙だけが、光の中をゆっくり広がった。


 カズマが眉を寄せた。


「は?誰?オッサン」


 グレイは答えなかった。


 グレイはカズマを見た。次に、カラムを見た。


 片手を振った。部下たちが銃口を下げた。


「帰んの?」カズマが首を傾げた。「もっとやろうよ」


「今は、あなたと遊ぶ準備をしていませんので」


 グレイの視線がカラムへ移った。


 カラムは拳銃を握ったまま見た。


 グレイはしばらくカラムを見ていた。なにも言わず、部下を連れて倉庫から退いた。足音が搬入口の方へ遠ざかり、鉄扉が閉まった。




 倉庫が静かになった。硝煙が天井へ抜けていく。


 カズマは銃を下げ、カラムへ近づいた。しゃがみ込み、血の出ている顔と服を見る。指先で頬の血を拭い、自分の指についた血を見た。


「どこが一番痛かった?」


 カラムは答えなかった。


「頭?腹?手?ねえ」


 カラムが動こうとして、肩だけが動いた。


「吐きそう?」


「黙って」


「聞こえてるなら大丈夫そう」


 カズマは立ち上がった。


「おっせーんだもん。お前マジ何なん」


 カラムは息を整えた。


「……回収班は」


「は?なにそれ」


 カラムはコンクリートに視線を落とした。


「……あんたは、いつからいた」


「最初から」


 カズマは少し考えてから笑って言った。


「待て、してた」


 カラムは黙った。血が一滴、床の薬莢の横へ落ちた。


「殴られても、殺されても、帰りたいって言うまで待ってろって」


 カラムが顔を上げた。


「……殺されても?」


「うん」


 カズマは即答した。


「言わなかったらね」


「……」


 カズマは机の上の黒いケースを指した。


「それ、持って帰るんでしょ」


 カラムがケースを見た。


 床へ手をついた。立とうとして、一度崩れた。手のひらが薬莢を弾いた。乾いた音が散った。


 カズマはカラムがもう一度動こうとしたところで、腕を掴んだ。


「立てる?」


「……たぶん」


「たぶんじゃ困るんだけど。お前デカいから持ってけない」


「黙って」


「じゃあ立てよな」


 カズマはポケットから端末を出した。カラムを片手で支えたまま、耳へ当てる。相手が出た。


「終わったよ、ボス」


 少し聞いて、カズマは顔をしかめた。


「えー。分かった」


 端末を耳から離し、カラムへ差し出した。


「ボス」


 カラムは端末を見た。


 躊躇ってから受け取り、カラムは端末を耳へ当てた。


 一拍あった。


「……何」


『決めたか』


 カラムは目を伏せた。喉に、血の味が残っていた。


 手元の銃に視線を落とした。


 親指で、グリップの背を一度撫でた。


 息を吸った。


 半分吐いて、止めた。


 目を閉じた。



「アルカに、入れて」



 

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