SIG P226
倉庫の奥で、発砲音がした。
グレイの顔の脇を、弾が抜けた。
背後の柱が弾けた。
コンクリートの粉が、白い光へ散った。
部下たちが振り向いた。銃口が奥へ回る。床に伏せたカラムの視界の端で、革靴の並びが崩れた。
積まれた荷の陰から、カズマが出てきた。
銃は片手に提げたままだった。
「やっとだー」
グレイがM29を撃った。カズマの肩口すれすれを、弾が抜けた。
カズマは銃を上げた。撃ち返す。棚の枠が弾けた。金属の荷が甲高く鳴り、部下たちが遮蔽へ散る。グレイもカラムから離れ、遮蔽へと身を隠した。
カズマは走らない。伏せない。壁にも入らない。弾が来る前に半歩ずれ、立ち止まり、首を傾ける。その場所だけを、弾が縫って通っていく。
空になった弾倉を落とし、次を叩き込む。
「くしゃみ出そうだったマジ」
カラムは床からそれを見ていた。銃声が倉庫の壁で幾重にも反り返る。硝煙が作業灯の光に薄く溜まっていく。
カズマが、床にあったカラムの拳銃に気づいた。爪先で蹴った。
SIG P226がコンクリートを滑り、カラムの指先で止まった。
「楽しいの、今からじゃん?」
銃声が続いている。
「撃てる?貧血?脳震盪?ねえ、聞こえてる?」
カズマが一度カラムの服を引いて、位置をずらした。
その後、弾がそこを通り抜ける。
カラムの指が床を滑った。
二度目で、グリップにかかった。
左肘をつく。身体を起こす。右脚は動かない。
息も戻らない。
血が顎から床へ垂れ、開いた目に、作業灯の白だけが残っていた。
右手が銃を持ち上げた。
震えが止まった。
銃口だけが、揺れなかった。
遮蔽から部下が出た。カズマへ銃口を向ける。
カラムが喉を撃った。血が壁へ飛ぶ。
撃った直後、着弾先を見ずに銃口が滑る。別の男が、カラムへ銃口を向けた。
眉間を撃った。
二人が落ちた。薬莢が二つ、床で跳ねて止まった。
撃ち終えても、右手は上がったままだった。そこだけ時が止まったように、動かなかった。目の焦点も戻らない身体の中で、その手だけが別のものだった。
カズマは普通に歩いていた。
グレイの目が、カズマを追った。
撃たれてから避けているのではない。撃たれる場所に、最初から居ない。
「……あの時の少年ですか」
グレイが片手を上げた。
銃声が止まった。硝煙だけが、光の中をゆっくり広がった。
カズマが眉を寄せた。
「は?誰?オッサン」
グレイは答えなかった。
グレイはカズマを見た。次に、カラムを見た。
片手を振った。部下たちが銃口を下げた。
「帰んの?」カズマが首を傾げた。「もっとやろうよ」
「今は、あなたと遊ぶ準備をしていませんので」
グレイの視線がカラムへ移った。
カラムは拳銃を握ったまま見た。
グレイはしばらくカラムを見ていた。なにも言わず、部下を連れて倉庫から退いた。足音が搬入口の方へ遠ざかり、鉄扉が閉まった。
倉庫が静かになった。硝煙が天井へ抜けていく。
カズマは銃を下げ、カラムへ近づいた。しゃがみ込み、血の出ている顔と服を見る。指先で頬の血を拭い、自分の指についた血を見た。
「どこが一番痛かった?」
カラムは答えなかった。
「頭?腹?手?ねえ」
カラムが動こうとして、肩だけが動いた。
「吐きそう?」
「黙って」
「聞こえてるなら大丈夫そう」
カズマは立ち上がった。
「おっせーんだもん。お前マジ何なん」
カラムは息を整えた。
「……回収班は」
「は?なにそれ」
カラムはコンクリートに視線を落とした。
「……あんたは、いつからいた」
「最初から」
カズマは少し考えてから笑って言った。
「待て、してた」
カラムは黙った。血が一滴、床の薬莢の横へ落ちた。
「殴られても、殺されても、帰りたいって言うまで待ってろって」
カラムが顔を上げた。
「……殺されても?」
「うん」
カズマは即答した。
「言わなかったらね」
「……」
カズマは机の上の黒いケースを指した。
「それ、持って帰るんでしょ」
カラムがケースを見た。
床へ手をついた。立とうとして、一度崩れた。手のひらが薬莢を弾いた。乾いた音が散った。
カズマはカラムがもう一度動こうとしたところで、腕を掴んだ。
「立てる?」
「……たぶん」
「たぶんじゃ困るんだけど。お前デカいから持ってけない」
「黙って」
「じゃあ立てよな」
カズマはポケットから端末を出した。カラムを片手で支えたまま、耳へ当てる。相手が出た。
「終わったよ、ボス」
少し聞いて、カズマは顔をしかめた。
「えー。分かった」
端末を耳から離し、カラムへ差し出した。
「ボス」
カラムは端末を見た。
躊躇ってから受け取り、カラムは端末を耳へ当てた。
一拍あった。
「……何」
『決めたか』
カラムは目を伏せた。喉に、血の味が残っていた。
手元の銃に視線を落とした。
親指で、グリップの背を一度撫でた。
息を吸った。
半分吐いて、止めた。
目を閉じた。
「アルカに、入れて」




