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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十章「非対称の支配 ― Asymmetric Force」

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3つのパン



 東京拠点。午前八時四十分。


 共用スペースには、ユキナガしかいなかった。


 ソファに座り、膝の上に端末を置いていた。首にはヘッドホン。テーブルには、開けたままのエナジードリンクがあった。


 画面に、ローマの通信系統図が出ていた。


 共用キッチンで、コーヒーメーカーが低い音を立てていた。


 硝子戸が開いた。


 アオイが入ってきた。


 紺の薄手のシャツ。白いTシャツ。黒のパンツ。目の下に影があった。


「また寝れなかったの?」


「途中までは寝ました……」


 ユキナガはテーブルのパンを投げた。


「パンあるよ」


 アオイが受け取った。


「ありがとうございます」


「コーヒー、そこにあるやつ飲んでいい」


「はい」


 アオイはカウンターへ行った。


 マグカップにコーヒーを注いだ。


「……昨日」


「何」


「隣の部屋、何かありました?」


「知らない」


「そうですか」


 アオイはコーヒーとパンを持って、テーブルの端に座った。


 ユキナガは画面を見たまま聞いた。


「またカラムの音楽?」


「音楽は止まってました」


「じゃあ何」


 アオイはパンの袋を開けた。


「壁に、何か当たる音が…何度か……」


「へえ」


「フィンの声も」


「何て?」


「聞こえませんでした」


 アオイの手が止まった。


「ちょっと怖かったです」


「そういうこともあるでしょ」


「あるんですか……」


「知らないけど」


 ユキナガはエナジードリンクを飲んだ。


「フィンが面倒見てるなら、好きにすればいいんじゃない」


「……あの」


「何」


「今、自分も、もしかしてフィンに面倒見られてないですか?」


「そうかもね」


「もしかして……自分も、やらかしたら叱られます……?」


「知らねえよ」


「壁に当てられますか」


「フィンに聞けば」


「絶対嫌です」


 アオイはパンを一口食べた。


「部屋、変えたいです…」


「自分でアルノに言えば」


「射撃場にいますよね」


 ユキナガが顔を上げた。


「珍しく撃ってるんだよね。アルノ」


 ユキナガは端末へ視線を戻した。


「お前も行けばいいじゃん。リヴァもいるだろ」


「はい」


「カイも?」ユキナガがアオイを見た。


「多分」


「なんでそこだけ曖昧なの」


「姿は見てないので」


 ユキナガの指が止まった。


「……よく見てんな」


「皆、何するか分からないので…」


 アオイはコーヒーを飲んだ。


「俺のことも見てる?」


「はい」


「何を」


「朝から起きてるなと」


「それだけ?」


 アオイはパンを食べた。


 ユキナガは端末の角度を少し変えて、椅子を揺らした。


「俺、現地行く必要あんのかなぁ」


「ローマですか」


「死にたくないなぁ」


 アオイは、少し長く息を吐いた。


 視線をテーブルに移した。


 間があった。


「何」


「いえ」


 アオイはコーヒーを飲んだ。


 コーヒーをすする音がした。


「…死なない方がいいですよ」


「そりゃそうでしょ」


 ユキナガは画面へ目を戻した。


「食べたら射撃場行けば」


「そうします」


「フィンに会わないうちに行きな」


 アオイの手が止まった。


「今、部屋にいますよね」


「知らない」


「さっき戻ってました」


 ユキナガが顔を上げた。


「やっぱ見てんじゃん」


「警戒してるだけです」


「歩く監視カメラかよ」


「人間ですけど……」


 アオイはパンを食べきった。


 袋を小さく畳んだ。


「もう一個、持っていっていいですか」


「いいよ」


「ありがとうございます」


 アオイはパンを一つ取った。


 立ち上がった。


 アオイは硝子戸を開けた。


「あの……」


「何」


「自分、まだ何もやらかしてないですよね」


「知らね」


 アオイはしばらく立っていた。


「……ユキナガも射撃訓練、今日入れてましたよね」


「…もう少ししたら」


「先行ってます」


 硝子戸が閉まった。


 ユキナガは端末へ視線を戻した。


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