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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十章「非対称の支配 ― Asymmetric Force」

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カイ帰還




 東京拠点 惣一の自室 午前五時二十七分。




 空が、まだ白む前だった。


 カイは惣一の部屋のドアをノックした。


「入れ」


 ドアを開けた。


 惣一は奥の椅子にいた。和服を着て頬杖をついていた。


 カイが入った。


 黒のタクティカルウェアのままだった。左肩の布が裂けていた。血が乾いて、黒くなっていた。


 息が整っていなかった。


「完了した」カイが言った。


 惣一が顔を上げた。カイの肩を見た。それから目を戻した。


 惣一が書類を閉じた。


「結構」


 カイは立ったまま惣一を見ていた。


「管理人がいた」カイが言った。


 惣一は書類を卓の端に寄せた。


「逃がした」カイは言った。


「わかった」


「知ってたのか」


 返答は無かった。


 カイの指がわずかにすぐ横の壁に動いた。指先が、壁の表面に一瞬触れた。


「俺を連れて行け」カイが言った。


「最初からそのつもりだ」惣一が言った。


 カイの視線が止まった。


 カイは惣一を見ていた。



 カイは踵を返した。


 ドアが閉まった。


 窓の外が白み始めていた。




 クーラーの冷たさが、汗の引いた背に染みた。


 カイは自室の方へ歩いた。


 途中で足が止まった。


 リヴァの部屋に灯りがついていた。ドアの下から、細く光が漏れていた。


 カイは灯りを見ていた。


 ノックした。


 中で動く気配がした。ドアが開いた。


 リヴァが出てきた。水色のキャミソールに、白のカーディガン。髪が、湿っていた。肩のあたりが、濡れて色を変えていた。


 シャワーを浴びて、間もないようだった。


 まだ六時にもなっていない。


「なにがあった」


 そこまで言って、カイは強く目を瞑った。疲労で視界が一瞬、揺らいだ。


 リヴァは目を伏せていた。


 部屋へ促した。カイが部屋に入った。


 カイは自分の汚れが部屋に残らないよう、壁から離れた。


 リヴァがカイを見上げた。


 見上げて止まった。


 カイの左肩を見た。裂けた布を見た。乾いて黒くなった血を見た。


「カイ」


「任務から戻った」カイが言った。


「血」


「俺のじゃない」


「肩は」


「……掠っただけだ」


 リヴァがカイの腕に手を伸ばした。


 触れる前で、止めた。血の量がすごかった。


「オラヴルのとこ、行って」リヴァが言った。「目も赤いよ」


「……ああ」


 カイは答えてから、動かなかった。


 じっとリヴァの濡れた髪を見ていた。


「…眠れなくて」リヴァが言った。


 カイの口が、開きかけた。


 言葉を飲み込んだ。


「そうか」カイが言った。


 リヴァがカイの腕を引いた。引いて、ベッドの縁に座らせた。


 血がシーツにつくのを見ないようにした。


「おつかれさま」


「……汗をかいている」


 リヴァがカイの肩を引きよせた。それだけでカイが力なく傾いた。


 リヴァの肩に、頭が落ちた。


「……」


 そのままずるずると下がっていった。


 カイはもう寝ていた。座ったままリヴァにもたれて、落ちていた。


 リヴァは動かなかった。


 肩でカイの頭を受けたまま、少し待った。


 リヴァは、カイの頭を抱えるようにして、一緒にベッドに横になった。カイはされるままだった。


 リヴァはカイの頭に顔を寄せた。髪が汗で湿っていた。火薬と潮とその下に、カイの匂いがした。リヴァは顔を埋めた。


 目を閉じた。


 窓の外が、白み始めていた。明け方の光が、カーテンの端から薄く入ってきた。


 血のついたシーツの上で、二人が眠った。





 次に目を開けた時、部屋が明るかった。


 隣でカイが眠っていた。リヴァはずっとカイの頭を抱いていた。


 腕が痺れていた。


 カイの胸が、まだゆっくり上下していた。


 脇腹の赤黒い痣が、明るい光の中ではっきり見えた。左肩の傷から出た血が乾いていた。


 血がシーツに数カ所、黒く残っていた。


 リヴァは体を起こした。


 それから、ドアの方を見た。


「カイ」


 リヴァが呼びかけた。

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