↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十章「非対称の支配 ― Asymmetric Force」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/247

序列




 誰も、部屋に長くは残らなかった。


 ユキナガが端末を持って出ていった。ヴィクトルがオラヴルを支えて立たせ、診療室の方へ連れていった。アルノは灰皿の前から動かなかった。フィンが、何も言わずに壁から背を離した。


 カイが、リヴァを部屋まで送ると言ったが、リヴァはまだ床を見ていた。


 拠点の灯りが、いくつも点いたままだった。




 東京拠点、午前二時二十分。



 サーバールームは、モニターの光だけが灯っていた。


 ユキナガの指が止まらなかった。


 明智惣一、ヒットなし。声紋認識、なし。顔認識、一致なし。


「ありえねえだろ」


 もう一度叩いた。


「どうやったらこんな綺麗に消えんだよ」


 画面が何も返さなかった。生まれた記録も、消えた記録も、消した痕跡さえなかった。


「リヴァといい、戸籍消すの流行ってんのかよ」


 ユキナガが椅子の背に体を預けた。


 モンスターエナジーの缶を開けた。


 開けながらもう一度、検索窓を見た。


 何もなかった。






 屋上は、夜風が涼しかった。


 ヴィクトルがウイスキーのロックグラスを手すりに置いた。氷が小さく鳴った。火をつけずに煙草を持っていた。


 スマホを耳に当てた。コール音が、長く続いた。


「俺だ」ヴィクトルが言った。「聞きたい名前がある」


 相手が、何か言った。


「明智惣一」


 相手が、黙った。


 風がグラスの縁を撫でた。ヴィクトルは待った。相手は何も言わなかった。


 ヴィクトルの目が、細くなった。


「……そうか」


 相手が何か言った。


「……わかってる」


 切った。


 グラスを取って、一口飲んだ。


 煙草を見た。


「…吸いすぎはよくねえな」


 煙草には、最後まで火をつけなかった。






 会議室に人はいなかった。


 アルノが、灰皿から燃え残りを拾っていた。一枚ずつ焦げた縁を避けて、テーブルに広げた。


 灰皿の位置を、無意識に机と並行に直した。


 配置図の、残った部分を見ていた。


「…なぜ」


 指が、テーブルを二度叩いた。


「なぜカラムを外した」


 声に出さず、口だけが動いた。


「なぜ、リヴァを入れる」


 灰の匂いがした。


「……なぜ、コアが降りてきた」


 アルノは残骸を並べ続けた。






 廊下は、暗かった。


 カイがリヴァを部屋まで送った。


 ドアの前で、リヴァが止まった。


「……アンカーって、なに」


 カイが止まった。


 間があった。


 カイはリヴァの頭に手を置いた。


「わからない」カイが言った。「でも、お前はお前だ」


 リヴァが目を上げた。


 カイのシャツを掴んで、開いたドアの内側へ引いた。






 カラムの部屋は、暗かった。


 スピーカーから、低く音楽が流れていた。歌詞のない、ギターの曲だった。カラムは床に座って、壁に背をつけていた。


 火のついていないRothmansが、指の間で回っていた。


 ベッドの真ん中に、ミントが丸くなっていた。


 いつもはオラヴルかリヴァの部屋で寝ていたのに、今夜はここにいた。


 目を閉じた。


 リヴァが浮かんだ。戸口で固まって、肩からバッグが滑って、指先から色が消えていた。床を見て、呼吸が浅かった。


 煙草を回す指が、止まった。


 音楽だけが流れていた。


 ミントが寝返りを打った。猫一匹にとっては大きすぎるベッドだった。


 指の煙草が、また回り始めた。






 フィンは廊下を歩いていた。


 診療室の灯りを見た。サーバールームの光を見た。会議室の、開いたドアの隙間を見た。


 全部点いていた。全員起きているようだった。


 誰も集まっていなかった。


 フィンはリヴァの部屋の前で、足を止めた。


 しばらくドアを見ていた。


 それから、そのまま立ち去った。





 リヴァはベッドの中にいた。


 窓の外で、街の音が遠く沈んでいた。コアの声。オラヴルの、何も言えなかった顔。アルノの背中。カイの背中。全部が、順番に浮かんで、消えた。


 リヴァが目を開けた。


 煙草の箱を探した。一本とって、火をつけた。


 カイの寝息が聞こえた。


 深夜四時を回っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。