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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第九章「閉じた環礁 ―The Closed Atoll」

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星空

 

 全員が眠っていた。


 ランプがひとつ灯っているだけだった。波の音が一定で、卓の上にグラスと瓶が残っていた。


 アルノが目を覚ました。


 頭痛だった。ビールと煙草と寝不足が、こめかみの奥で重なっていた。目を開けても視界が滲んで、眼鏡がなかった。


 しばらく動けず、手の甲で目を押さえた。


 体を起こして、視界がぼやけたまま室内を見渡した。


 長椅子に、リヴァがいた。


 ブランケットが半分床に落ちて、首が変な角度に曲がっていた。胸の上に、アルノの眼鏡を抱えたままだった。


 アルノが、しばらく見ていた。


 息を吐いた。


 立ち上がってリヴァのところまで歩き、ブランケットを拾って肩までかけ直した。


 戻ろうとして、止まった。


 長椅子は狭く、首の角度も悪かった。このままなら朝には体を痛めるし、冷える。


 リヴァの肩を軽く叩いた。


 起きなかった。


「リヴァ」


「……」


「起きてください」


「……やだ」


 寝言のような返事だった。


 アルノが、止まった。


「いや、そういう問題では」


 リヴァは答えず、眼鏡を抱えたまま深く眠っていた。


 アルノが屈んで、リヴァの腕を取り、肩を支えた。


「歩けますか」


「……」


「リヴァ」


「……むり」


 全体重が、アルノの腕にかかった。


 アルノが、黙った。


 しばらくそのままでいた。


 それから片腕をリヴァの背に、もう片腕を膝の裏に入れて持ち上げた。


 リヴァが眠ったまま、アルノの胸元に頭を寄せた。


 壁際でカラムが起きていた。


 膝を立てて座ったまま、火のついていないRothmansを指に挟んで、アルノがリヴァを抱えて立つのを目で追っていた。


 声はかけず、ただ見ていた。


 ソファの方で煙の匂いがした。


 奥ではヴィクトルだけが起きていて、暗がりでSobranieを吸っていた。


「部屋へ運びます」アルノが言った。


「そうか」


 ヴィクトルはそれだけだった。止めず、手伝わず、煙を吐いた。


 アルノがリヴァを抱えて、砂浜を歩いた。


 カラムの視線がついてきた。


 リヴァが、腕の中で動いた。


「……アルノ」


「起きているんですか」


「……めがね」


「ええ」


 リヴァが、胸に抱えていた眼鏡を持ち上げて、アルノの方へ押しつけた。


「返す」


「……今ですか」


 アルノが片腕でリヴァを支え直して、眼鏡を受け取ってかけた。視界が戻った。


 リヴァは、もう眠っていた。


 水上コテージのリヴァの部屋まで運んだ。


 ベッドに下ろすと、リヴァがシーツの中で寝返りを打って、すぐに寝息が戻った。


 アルノが、しばらく見ていた。それから、ブランケットを引き上げてかけた。


 頭痛は引かず、むしろ運んだぶん、こめかみが脈打っていた。


 部屋の空気が、こもっていた。


 アルノがデッキに出た。


 水上コテージのデッキは広く、小さなプールがあって、その向こうにラグーンが黒く広がっていた。空に星が出ていて、雲がなかった。


 大きなソファベッドがあった。


 アルノが、そこに仰向けに寝転んで、シャツの胸元を緩めた。JPSを上にくわえて、ライターで火をつけ、煙を星に向かって吐いた。


 頭痛は、まだあった。


 星を見ていた。


 しばらく何も考えず、煙だけが上に昇っていった。


 背後で、ガラス戸が開く音がした。


 足音がした。素足だった。


 リヴァが出てきた。半分眠った顔だった。


「アルノー」


 間延びした声だった。


 アルノが顔だけ動かした。


「……寝たでしょう」


「ねむれない」


「さっき運んだばかりですよ」


 リヴァは答えず、デッキを歩いてきた。


 そして、仰向けのアルノの腰の上に座った。


 お尻がアルノの腰に乗って、足は片側に流れて伸びて、海の方を向いていた。重さが、アルノの腰にかかった。


「……なんでそこに座るんですか」


 リヴァは無視した。


 アルノの手が、リヴァの腰に添えられていた。


 落ちないように支えているだけで、指一本動かさなかった。


 リヴァが少しだけ後ろへ体重をかけた。


 アルノの喉が動いた。


「頭、いたい?」リヴァが前を向いたまま言った。


「……ええ」


 アルノは煙を吐いた。


 それから、くわえていたJPSを指で抜いて、リヴァの口元に運んだ。


 無言でくわえさせた。


 リヴァが一口吸って、煙を吐いた。


 アルノがリヴァから取り返して、また吸った。


 星が出ていて、波の音がして、プールの水面がわずかに揺れていた。


「アルノ」


「はい」


「星、すごい」


「そうですね」


 リヴァが空を見上げていた。アルノはリヴァの後ろ姿を見て、それからまた星に視線を戻した。


 しばらく、二人とも黙っていた。


 リヴァが手を出した。アルノが、また吸いかけを渡した。


「……あんなところに、置いておきたくなかった」


 リヴァが、振り返りかけた。


「男だらけのところに、寝かせておけますか」


「……」


 リヴァがアルノに傾いて、目を覗き込んだ。近かった。


 アルノが目を逸らした。


 アルノの手が、リヴァの太ももの上でわずかに動いた。撫でるというより、置き直しただけだった。


 星が、出ていた。


 アルノはリヴァの首筋を見た。


 ラグーンの黒い水面に、星が落ちて、揺れていた。




 

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