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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第二章「交点のノイズ ― Noisy Intersection」

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モルドバから来た偽造師




 アルカ横浜拠点 十三時十二分。


 空気が変わった。


 ちょうど廊下に出ていた彼女が、顔を上げた。



 ボルドーのシャツ、黒のスラックスの男が立っていた。


 身長はカイよりも少しだけ低い。腰が細かった。


 187センチというのはあとから聞いた話で、圧迫感はないのに、距離感だけが狂っていた。


 白寄りのグレーの短髪が、自然光の中で金属的な光を持っていた。ペールグリーンの瞳がリヴァを見ていた。


 ヴィクトルは一秒止まり、それから笑った。


「悪いな、待たせた」


「…待ってない」彼女は言った。


「そうか」ヴィクトルは歩いてきた。「じゃあ初めましてだ」


「うん」


「名前は」


「コードネームはリヴァ」


「名前は」


「ない」


 ヴィクトルは少しだけ眉を上げた。


「コードネームだけじゃ不便だろ」


「そう?」


 アルノがいつの間にか廊下に出ていた。


「不都合は」


「ないな」ヴィクトルはアルノを見た。「You've gotten thinner.(痩せたか)」


「あなたには関係ありません」


 アルノがため息をついた。


 ヴィクトルは笑ってから、軽く頷いた。


「入っていいか」


 アルノは一瞬だけ黙った。


「……どうぞ」


 ヴィクトルは小さく笑った。


「ヴィクトル」リヴァは言った。


「?」


「だよね」


「ああ、そうだ。ヴィクトル・ミハイ」彼は手を差し出した。「よろしく、お嬢さん」


「なにそれ」


 ヴィクトルはその答えを聞いて、また笑った。


 握手した手を、ヴィクトルは一瞬見た。


 放した。


 ヴィクトルは何かを考えるように彼女を見た。


「可愛いな」


 間があった。


 アルノのため息が聞こえた。


「…ありがとう」リヴァが言った。


「素直だ」


「口説きにきたのなら帰ってください」アルノが言った。


「仕事だ。仕事」


 ヴィクトルが歩き出した。


 アルノは半歩だけ身体を開けた。


 通してから、その後ろについた。





 会議室でブリーフィングが始まった。


 出席者はアルノ、ヴィクトル、カイ、ユキナガ、リヴァの五人。


 カイは会議室の隅に立っていた。座らない。壁に背を預けて、腕を組んで、部屋全体を視野に入れる位置にいる。


 ヴィクトルがカイの前を通った時、カイの視線が一瞬だけ鋭くなった。


 ヴィクトルはカイを見て、小さく顎を上げた。挨拶の代わりだろう。カイは何もしなかった。



「俺の隣座るか」ヴィクトルがリヴァに声をかけた。


「……」


 リヴァが動こうとした。


「座るな」カイが壁から言った。


「反対側へ」アルノがユキナガの隣を指した。


「リヴァおいで」ユキナガが椅子を叩いた。


 一連の流れを見ながらヴィクトルが眉を上げた。


「信用ねぇな」


「あるわけがない」カイが言った。


「そいつだって大概だろ」ヴィクトルがユキナガを指した。


「あんたほど見境なくない」


「どうだか」


 カイは一度ユキナガを見てから、自分の目の前の椅子を引き、無言で座らせた。


 ユキナガとも、ヴィクトルとも若干距離がある位置だった。


 カイはずっとその後もヴィクトルを睨んでいた。


 リヴァはカイの顔を見ていた。


「仲悪いの?」


 席に座ってから、リヴァはユキナガの方に椅子を寄せて、聞いた。


「まあ、良くはないと思う」


 ユキナガは欠伸を嚙み締めながら、同じ音量で返した。


「ふうん」


 その時、テーブルの端でアルノが万年筆のキャップで小刻みに音を立てた。


 コン、と硬い音が響く。


 ユキナガがすぐに口を閉じ、端末に視線を戻す。


 ヴィクトルが席に深く腰掛け、長い足を組んだ。


 その目が、楽しげにリヴァを捉えている。


「では」アルノがファイルを開いた。


「本題に入ります」


”El Tango De Roxanne” / Moulin Rouge

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