第22話 最高到達点の裏 ~命の選択~ [4/5]
23時59分39秒。
日付まで21秒。
きおの寿命は34秒。
球場は、何万人もの観客がいるとは思えないほど静まり返っていた。
ロペスはバットを握りしめ、呼吸を止めている。
ラクランはミットを構えながら、
胸の奥のざわつきを押し殺していた。
(……34秒……でも……あと1球……
間に合う……はずだ……)
きおは、ゆっくりと三球目に指をかけた。
照明が滲む。
空気が震える。
そして——
◆ 3球目
腕が振り下ろされる。
ボールは外角ギリギリへと伸びていく。
ロペスは見送った。
審判の手が——
止まった。
ほんの一瞬の沈黙。
そして。
「ボール!!」
球場が爆発した。
「はぁ!?」「嘘だろ!!」「今のはストライクだ!!」
実況席も叫ぶ。
『ボール!? いや、これは……!
外角いっぱいに見えましたが……!』
23時59分54秒。
日付まで6秒。
きおの寿命は、34秒 → 19秒。
ラクランの喉がひきつった。
(……19秒……?
でも……まだ……)
三塁手が即座に叫ぶ。
「チャレンジだ!!」
監督もベンチから身を乗り出す。
「チャレンジ!! 今のは絶対ストライクだ!!」
観客席も揺れる。
「チャレンジしろ!!」
「覆るぞ!!」
ラクランはミットを握りしめたまま、
動けなかった。
(……チャレンジ……
でも……)
きおが今日の試合前に言った言葉が蘇る。
——「今日は……ABSが八割で“ボール”を出す」
ラクランの手が震えた。
(……チャレンジすれば……日付は跨げる……
きおは……生きる……)
だが。
(……ABSが“ボール”を出したら……
きおの……27者連続三球三振が……壊れる……)
命か。
努力か。
ラクランは迷った。
23時59分59秒。
日付まで1秒。
その瞬間——
◆ 世界が揺れた
——カチリ。
視界が白く滲み、空気が歪んだ。
ラクランは反射的に視線をミットに落とし、
グーパンチを入れた。
その瞬間、世界が“戻った”。
ラクランは顔を上げた。
そこに映った数字は——
——23:59:39(残り21秒)
——寿命:14秒
ラクランの心臓が止まった。
(……え……?
34秒あったはずが……
なんで……14秒……?)
理解が追いつかない。
だが、ひとつだけ分かった。
きおが——
**戻した。**
ラクランの喉が震えた。
(……お前……
自分の……命を……)
きおは静かにうなずいた。
(……僕は……
運じゃなくて……
自分の球で……終わりたい……)
ラクランの目から涙がこぼれた。
(……覚悟……か……
お前……そこまで……)
きおの寿命は、
静かにカウントダウンを始めた。




