表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一球入魂 ~二刀流のタイムリーパー、最高の1試合を求めて~  作者: とまCo
第6話 ラクラン・リード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

第22話 最高到達点の裏 ~白の終端~ [5/5]

 ——14

 ——13

 ——12

 ——11

 ——10


 きおの寿命は、静かに、しかし確実に減っていく。


 ラクランはミットを構えたまま、

 その数字を見て震えていた。


 だが、きおの横顔を見た瞬間、

 ラクランは悟った。


 ——きおは、もう戻らない。


 ——この一球で終わらせる。


 きおは、静かに息を吸い込んだ。


 世界が揺れた。

 照明が滲む。

 観客席のざわめきが遠ざかる。


 そして——


 ◆ 最後の投球動作


 ——3


 きおの足が上がる。


 ——2


 腕がしなる。


 ——1


 指先から、最後の一球が離れた。


 その瞬間、

 球場の音がすべて遠ざかった。


 歓声も、風も、審判の気配すらも消えた。


 世界は白く、

 円の中にはきおとラクランとボールだけ。


 その外側には何もなかった。


 観客席も、スタンドも、スコアボードも、

 時間すら存在しない。


 ただ、この一球のためだけに残された世界が、

 静かに呼吸している。


 ボールは完璧な回転を保ちながら、

 光の尾を引いて飛び出していく。


 きおはその軌跡を確かめるように目で追い、

 ゆっくりと膝が折れた。


 倒れこむ。

 視界が傾き、マウンドの土が近づく。


 その刹那——

 ふっと、きおの意識が浮き上がった。


 ◆ 浮遊する意識


 上空から見下ろす視界。

 自分の身体がマウンドに沈んでいくのが見える。


 重力も痛みもなく、

 ただ静かに漂っていた。


 視線を前へ向けると、

 ボールは三分の二地点で宙に浮かんでいた。


 光の軌跡だけが、

 迷うことなくラクランの構えたミットへ向かって伸びている。


 ラクランは微動だにせず、

 ただその線を受け止めるためにミットを構えている。


 彼の周囲の空気だけが、

 時間から切り離されたように静かだった。


 ◆ 世界の収束


 円が、ゆっくりと縮み始める。


 世界は閉じていくのに、

 ボールの軌道線だけは逆らうように力強く伸び続けていた。


 円が小さくなるほど、

 その線はむしろ太く、鮮明になっていく。


 まるで世界が消えていくことなど関係ないと言わんばかりに、

 ただ一つの場所——ラクランのミットへ向かって、

 揺らぎなく伸びていた。


 円はさらに縮む。


 きおの意識は深く潜り、

 世界は白い静寂に溶けていく。


 ——ボールは、まだ宙にある。


 ——ラクランは、まだ動かない。


 ——世界は、まだ閉じていく。


 そして——

 円が限界まで縮んだ瞬間、

 視界が一気に切り替わる。


 ◆ 背番号29


 倒れた自分の背中。

 背番号「29」が、

 画面いっぱいに映っていた。


 光を帯びて、

 世界の中心にあるように、

 ただ静かに、揺らぎなく存在していた。


 音は完全に消えた。


 白い世界の中で、

 背番号29だけが確かにそこにあった。


 きおの意識は、

 その数字に吸い込まれるように薄れていく。


 ——暗転。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ