第22話 最高到達点の裏 ~白の終端~ [5/5]
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きおの寿命は、静かに、しかし確実に減っていく。
ラクランはミットを構えたまま、
その数字を見て震えていた。
だが、きおの横顔を見た瞬間、
ラクランは悟った。
——きおは、もう戻らない。
——この一球で終わらせる。
きおは、静かに息を吸い込んだ。
世界が揺れた。
照明が滲む。
観客席のざわめきが遠ざかる。
そして——
◆ 最後の投球動作
——3
きおの足が上がる。
——2
腕がしなる。
——1
指先から、最後の一球が離れた。
その瞬間、
球場の音がすべて遠ざかった。
歓声も、風も、審判の気配すらも消えた。
世界は白く、
円の中にはきおとラクランとボールだけ。
その外側には何もなかった。
観客席も、スタンドも、スコアボードも、
時間すら存在しない。
ただ、この一球のためだけに残された世界が、
静かに呼吸している。
ボールは完璧な回転を保ちながら、
光の尾を引いて飛び出していく。
きおはその軌跡を確かめるように目で追い、
ゆっくりと膝が折れた。
倒れこむ。
視界が傾き、マウンドの土が近づく。
その刹那——
ふっと、きおの意識が浮き上がった。
◆ 浮遊する意識
上空から見下ろす視界。
自分の身体がマウンドに沈んでいくのが見える。
重力も痛みもなく、
ただ静かに漂っていた。
視線を前へ向けると、
ボールは三分の二地点で宙に浮かんでいた。
光の軌跡だけが、
迷うことなくラクランの構えたミットへ向かって伸びている。
ラクランは微動だにせず、
ただその線を受け止めるためにミットを構えている。
彼の周囲の空気だけが、
時間から切り離されたように静かだった。
◆ 世界の収束
円が、ゆっくりと縮み始める。
世界は閉じていくのに、
ボールの軌道線だけは逆らうように力強く伸び続けていた。
円が小さくなるほど、
その線はむしろ太く、鮮明になっていく。
まるで世界が消えていくことなど関係ないと言わんばかりに、
ただ一つの場所——ラクランのミットへ向かって、
揺らぎなく伸びていた。
円はさらに縮む。
きおの意識は深く潜り、
世界は白い静寂に溶けていく。
——ボールは、まだ宙にある。
——ラクランは、まだ動かない。
——世界は、まだ閉じていく。
そして——
円が限界まで縮んだ瞬間、
視界が一気に切り替わる。
◆ 背番号29
倒れた自分の背中。
背番号「29」が、
画面いっぱいに映っていた。
光を帯びて、
世界の中心にあるように、
ただ静かに、揺らぎなく存在していた。
音は完全に消えた。
白い世界の中で、
背番号29だけが確かにそこにあった。
きおの意識は、
その数字に吸い込まれるように薄れていく。
——暗転。




