第22話 最高到達点の裏 ~秒針の裂け目~ [3/5]
23時59分06秒。
日付まで54秒。
きおの寿命は295秒。
ロペスが打席に入り、バットを構えた瞬間——
球場全体の空気が、わずかに震えた。
きおは、ゆっくりと帽子のつばに触れる。
その動作だけで、観客席のざわめきが一段階静まる。
ラクランがサインを出す。
◆ 1球目:外角低め
きおはわずかにうなずき、深く息を吸い込んだ。
実況席が息を呑む。
『さあ、まずは初球……!』
腕が振り下ろされる。
ボールは外角いっぱいへ吸い込まれるように伸び、
ストライクゾーンの端をかすめた。
審判の右手が鋭く上がる。
「ストライク!」
ロペスは動かない。
完全な見逃し。
球場がどよめく。
「うおおおおおおお!!」
「今の取るのかよ!」
「いや、完璧だ……!」
実況席も興奮を隠せない。
『外角いっぱい!
これは……完璧なコントロールです!』
23時59分19秒。
日付まで41秒。
ラクランはスコアボードを見て息を呑んだ。
——きおの寿命:201秒
(……この1球に……84秒……)
視線を外した瞬間、
世界が揺れたような感覚があった。
だが、今はそれを考えている余裕はない。
(……あと2球……
間に合う……はずだ……)
ラクランはボールを返しながら、
ミットに視線を落とし、
グーパンチを入れる。
視線を上げる。
——23:59:19
——寿命:201秒
——日付まで:41秒
(……まだ……いける……)
◆ 2球目:外角(再び)
ラクランは高めの速球を要求した。
だが、きおは首を振る。
もう一度、外角。
実況席が反応する。
『おっと、首を振りましたね……!
これは……?』
きおはセットポジションに入り、
わずかに体をひねる。
投げた瞬間、
ロペスのバットが空を切った。
ブォンッ——!
空振り。
スコアボードに
0-2
の文字が灯る。
観客の声がさらに大きくなる。
「キーオー! キーオー! キーオー!」
実況席は声を張り上げる。
『さあ、ツーストライク!
あと一球で……
きお選手は、前人未到の“全打者三球三振”を達成します!』
『こんな試合、二度と見られませんよ!
いや、今日が野球の歴史の終点かもしれない!』
23時59分39秒。
日付まで21秒。
ラクランはボールを返しながら、
ミットに視線を落とし、
グーパンチを入れる。
視線を上げる。
——きおの寿命:34秒
ラクランの心臓が止まった。
(……34秒……?
さっき201秒あったのに……
167秒……消えた……)
理解が追いつかない。
だが、まだ“死”という言葉は浮かばない。
(……でも……あと1球だ……
間に合う……はずだ……
きおなら……)
胸の奥に、説明できないざわつきが広がる。
だが、それが何なのか、まだ形にならない。
ラクランは自分に言い聞かせた。
(……大丈夫……いける……)
きおは静かに帽子のつばに触れた。
汗が一筋、頬を伝い落ちる。
観客席のざわめきが、
まるで海の波のようにうねり続けている。
実況席が息を呑む。
『時刻は——23時59分。
今日が終わる、その瞬間です……!』
『さあ……運命の三球目です……!』
ラクランがサインを出す。
そして、
3球目が始まる。




