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一球入魂 ~二刀流のタイムリーパー、最高の1試合を求めて~  作者: とまCo
第6話 ラクラン・リード

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34/40

第20話 淡々なる支配

 1回裏。

 アウェイ球場の熱気はまだ高く、歓声は鋭かった。


 だが、きおは静かにマウンドへ立った。


 初球、外角低め。

 ストライクゾーンの端に“置く”ような球。


 打者は見送る。

 審判は迷いなくストライク。


 ラクランは受けながら思う。


 (……置きにいってる……?)


 二球目、インロー。

 また“置く”球。


 打者は手が出ない。

 ストライク。


 三球目、外角高め。

 これも“置いた”。


 空振り三振。


 (……三球三振……なのに……負担がない……)


 2人目も三球三振。

 3人目も三球三振。


 球場がざわつく。


 (……異常だ……)


 ラクランだけが理解していた。


 *


 1回表の満塁HRで4点。

 1回裏も三球三振で終わり、

 静かな異常が積み上がっていく。


 *


 2回表。


 1番は初球を叩き、ライト前ヒット。

 2番は送りバントではなく、

 バスターで三遊間を抜いた。


 ノーアウト一・二塁。


 3番は初球を強振し、

 センターフライ。

 ランナーは動けない。


 ワンアウト。


 4番は粘って四球。

 満塁。


 ラクランの打席。


 (……ここで1回と同じ“内野ゴロ調整”は使えない……

  きおの前に“ツーアウト満塁”を作るには……)


 ラクランはバットを握り直した。


 初球、外角ギリギリ。

 見逃し。

 ストライク。


 二球目、インロー。

 見逃し。

 ストライク。


 (……これで追い込まれた……

  あとは……見送るだけだ)


 三球目、外角低め。

 ラクランは微動だにしない。


 ストライク三振。


 ツーアウト満塁。


 (……これでいい……

  きおに回すための……最適なアウトだ)


 六番・きお。


 相手監督は迷った。

 申告敬遠の手が一瞬上がりかける。


 その瞬間、

 ラクランは“一瞬の揺れ”を感じた。


 (……今……世界線が……揺れた……?)


 きおが、

 ほんのわずかに視線を落とした。


 (……5年くらい……戻したな……)


 申告敬遠のサインは消え、

 相手は勝負を選んだ。


 きおは静かに打席へ入り、

 静かに振り、

 静かに打球を飛ばした。


 右中間スタンドへ吸い込まれる。


 満塁ホームラン。

 8対0。


 *


 2回裏。


 きおは淡々と三球三振を積み重ねる。

 だが、この回は二度、

 外角ギリギリの球がボール判定された。


 ラクランはすぐにチャレンジを要求した。

 映像ではストライクに見える。


 判定は覆る。


 (……よし、今日は全部成功してる……)


 ラクランには、

 きおが“戻した後の世界線”しか見えていない。


 だから、

 審判が揺れているなどとは思いもしなかった。


 ただ──


 (……きお……少し、苛立ってる……?)


 ほんのわずかに、

 きおの呼吸が荒くなった気がした。


 理由は分からない。

 投球は完璧。

 チャレンジも成功している。


 なのに、

 きおの内側で何かが“軋んでいる”ように見えた。


 ラクランは首を振った。


 (……気のせいだ……)


 そう思うしかなかった。


 *


 3回表。


 1番はセカンドゴロ。

 だが送球が逸れ、内野安打。


 2番は送りバントを決め、

 一死二塁。


 3番はライト前ヒット。

 ランナーは三塁へ。


 一・三塁。


 4番は浅いフライで二死。


 (……ここで満塁にする……)


 ラクランは打席に入る。


 相手監督は迷っていた。

 申告敬遠のサインを出しかけて、

 引っ込める。


 (……まだ3回……まだ早い……)


 ラクランは粘り、

 フルカウントから四球を選ぶ。


 満塁。


 六番・きお。


 相手監督はついに決断した。


 「申告敬──」


 その瞬間、

 空気が“跳ねた”。


 ラクランは息を呑む。


 (……今のは……さっきより……大きい……)


 きおは静かにバットを握り、

 静かに振り、

 静かに打球を飛ばした。


 また左中間スタンドへ。


 満塁ホームラン。

 12対0。


 ラクランは震えた。


 (……今の戻し……

  どれだけ……使ったんだ……)


 きおは表情を変えない。


 ただ淡々と、

 ベースを踏んでいく。


 *


 4回裏〜8回裏。

 すべて三球三振。


 ただし、

 ギリギリのコースは何度もボール判定された。


 ラクランはそのたびにチャレンジを要求し、

 そのたびに成功しているように見えた。


 (……全部成功してる……

  なのに……)


 なのに、

 きおの“寿命の砂”が、

 少しずつ減っているように見えた。


 (……どうして……)


 ラクランは答えを持たない。


 *


 4回表〜8回表。

 毎回満塁HR。


 相手監督は諦めに近く、

 申告敬遠の確率は下がり続けた。


 きおは淡々と、

 静かに、

 狂気の精度だけを研ぎ澄ませていく。


 8回表が終わった時点で、

 スコアは **32対0**。


 球場は静まり返っていた。


 きおはダグアウトで、

 静かにグラブをはめた。


 (……あと二回……)


 その背中は、

 静かに、確実に、

 終端へ向かっていた。

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