第19話 収束点
「さあ、いよいよこの瞬間がやってきました!
ワールドシリーズ第七戦、運命の最終決戦です!」
アナウンサーの声が、球場の空気を震わせた。
「19時ちょうど、プレイボール!
歴史に残る一戦となるでしょう!」
きおのチームは、アウェイ先攻。
きおは六番。
ラクランは五番。
本来なら四番を任される男が、
きおの一言で五番に移動した。
「……お願いします」
その一言だけで、監督は打順を動かした。
理由は誰にも分からない。
ただ、ラクランだけが理解していた。
きおの“調整”は、攻撃にも及んでいた。
*
プレイボールの声が響く。
1番が初球を軽く叩き、内野安打。
2番は粘って四球。
3番は送りバントを決め、ワンアウト二・三塁。
球場がざわつく。
(……これ、まさか……)
4番は浅い外野フライ。
ランナーは動けない。
ツーアウト。
ここでラクラン。
相手バッテリーは警戒している。
だが、ラクランは迷わなかった。
(きおのために……)
初球、外角ボール。
二球目、インローにストライク。
三球目、ファウルで一・二。
四球目、外へ逃げるボールで二・二。
五球目、わずかに外れて三・二。
フルカウント。
ラクランは深く息を吸った。
六球目。
外角低めのスライダー。
ラクランは、わざと泳ぎ気味にバットを出し、
ボテボテの内野ゴロを転がした。
三塁手が焦り、
握り直して一瞬遅れた。
セーフ。
満塁。
球場がどよめく。
(……これでいい)
ラクランは静かに息を吐いた。
そして、六番・きお。
きおは静かに打席へ入った。
バットを軽く握り、
呼吸を整える。
ラクランは一塁からその背中を見つめた。
初球、外角ボール。
二球目、インハイのストレート。
きおは動かない。
三球目、外角スライダー。
その瞬間、きおの目がわずかに細くなった。
ラクランは気づいた。
(……来る……)
きおは、静かにバットを振った。
音が消えた。
次の瞬間、
打球は一直線に左中間スタンドへ吸い込まれていった。
満塁ホームラン。
アウェイ球場が一瞬、沈黙した。
きおは走りながら、
表情を変えなかった。
ただ淡々と、
ベースを踏んでいく。
(……これが……)
ラクランは震えた。
*
七番がヒット。
八番も続いた。
きおはダグアウトに戻り、
投手用グラブを手にしていた。
ラクランが戻ってくると、
きおは静かに言葉を紡いだ。
「ラクランさん。
攻撃の流れはこうします」
投球準備をしながら、
きおは淡々と続けた。
「1番から4番で満塁になったら……
ラクランさんはアウトでいいです。
ツーアウトで、ぼくに回してください」
ラクランは息を呑んだ。
「2人出塁してツーアウトの時は……
ラクランさんが満塁にして、ぼくに回してください」
「……できなかったら?」
きおはミットをはめながら、
淡々と答えた。
「戻します。
また同じ形を作ります」
その言い方は、
まるで天気の話でもしているかのように静かだった。
ラクランは言葉を失った。
(……こいつ……
本当に……)
九番が凡退し、
チェンジのコールが響く。
きおは立ち上がり、
マウンドへ向かって歩き出した。
その背中は、
静かに、確実に、
“収束点”へ向かっていた。




