第14話 2人の実験編 〜揺らぎの正体〜 [1/2]
翌日の午後。
冬の光が差し込むラクランの部屋は、昨夜とは違う空気をまとっていた。
緊張ではなく、静かな集中。
きおとラクランは、机を挟んで向かい合っていた。
「……本当にやるんですね」
きおが不安そうに言う。
ラクランは頷いた。
「きおの能力は、もう“隠す”段階じゃない。
構造を知らないまま使い続ける方が危険だ。
だから……一緒に確かめよう」
きおは小さく息を吸った。
「……はい」
ラクランはノートを開き、ページの端に日付を書き込む。
「まずは、きおが“意図して戻す”瞬間を、俺がどう感じるか。
揺らぎが起きる前後で、俺の視界や感覚に何が起きるのか。
そこから始めよう」
きおは頷いたが、手が少し震えていた。
ラクランは気づいて、声を柔らかくした。
「大丈夫だ。
昨日も言ったけど……俺はきおを責めない。
ただ、知りたいだけだ。
きおの能力がどういう仕組みで動いているのか。
そして……どうすれば安全に使えるのか」
きおは深く息を吐いた。
「……分かりました」
――――
最初の実験は、きおの“秒数の正確さ”を測るものだった。
ラクランは立ち上がり、部屋の中を歩き始めた。
歩数、呼吸、視線──すべてを自然に保ちながら。
「きお。
声でカウントしてくれ。
十秒になった瞬間に、五秒戻すんだ」
きおは頷き、一定のリズムで声を出し始めた。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十──」
その瞬間、きおは意志を向けた。
世界がふっと揺れ、
ラクランの視界が五秒分巻き戻る。
そして──
きおの声が自然に続いた。
「十一、十二……」
ラクランは歩みを止め、静かに言った。
「……五秒だな」
きおは驚いたように目を瞬いた。
「分かるんですか?」
ラクランは頷いた。
「声じゃない。
きおの寿命カウントが五秒分、飛んだ。
だから分かる」
きおは息を呑んだ。
「……ぼくにとっては、時間はそのまま続いてるんです。
だから、十の次は十一って言うのが普通で……」
ラクランは優しく言った。
「それでいい。
きおの主観は連続してる。
俺は“世界の側”を見てるだけだ」
――――
ラクランはノートを閉じ、きおの方を向いた。
「きお。
おれだけがきおの能力を確かめるのは……不公平だな」
きおは目を瞬いた。
「え?」
ラクランは静かに続けた。
「きおにも……おれの能力が本物だって、ちゃんと認識してほしい。
だから次は、おれが指示を出さない。
きおが好きなタイミングで、好きな秒数だけ戻してくれ」
きおは少し驚いたが、すぐに頷いた。
「……分かりました」
ラクランは立ち上がり、部屋の中を歩き始めた。
きおは声を出し始める。
「一、二、三、四、五、六、七……」
その途中で、きおは意志を向けた。
世界がふっと揺れ、
ラクランの視界が巻き戻る。
きおの声が続く。
「八、九……」
ラクランは即座に言った。
「……三秒だな」
きおは驚き、そして少し笑った。
「やっぱり……分かるんですね」
ラクランは頷いた。
「声じゃない。
きおの寿命カウントが三秒分、飛んだ。
だから分かる」
きおは息を呑んだ。
「……本当に、見えてるんですね」
ラクランは微笑んだ。
「見えてる。
だから、きおの能力を正確に扱える」
きおは少し照れたように笑った。
「じゃあ……もう一回いきます」
ラクランは頷く。
きおは声を出す。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十……」
きおが意志を向ける。
世界が揺れ、
きおの声が続く。
「二十一、二十二……」
ラクランは即座に言った。
「五秒だ」
きおは目を丸くした。
「……えっ。
声、二十一って言いましたよ?」
ラクランは笑った。
「だまそうとしたな」
きおは頬を赤くして笑った。
「……はい。
ラクランさんが本当に見えてるのか、確かめたかったんです」
ラクランは肩をすくめた。
「声は関係ない。
きおの寿命カウントが五秒分、飛んだ。
それだけで分かる」
きおは静かに頷いた。
「……本物なんですね。
ラクランさんの能力も」
ラクランは微笑んだ。
「お互い様だろ」
――――
ラクランはノートを閉じ、きおの方を向いた。
「きお。
今日分かったことは大きい」
きおは静かに聞いていた。
「お前の能力は……
“世界の再演”だ。
時間そのものを巻き戻している。
そして、限界は三十秒。
日付を越えることはできない」
きおは頷いた。
「はい。
僕も……そう思います」
ラクランは続けた。
「そして……俺の能力も、きおの能力と相性がいい。
寿命カウントが見えるから、
きおが何秒戻したか、正確に分かる」
きおは少しだけ安心したように息を吐いた。
「……よかった」
ラクランはきおの肩に手を置いた。
「きお。
これからも一緒に調べよう。
お前の能力のことも、俺の能力のことも。
どちらも……一人で抱えるには重すぎる」
きおは目を伏せ、そしてゆっくり顔を上げた。
「……はい。
お願いします」
冬の光が、二人の間に落ちていた。
静かで、確かな光だった。




