第13話 冬の静かな部屋で ~恐怖の正体~ [2/2]
きおは、自分の秘密を静かに明かした。
――自分は“戻せる”。
その一言で、ラクランはすべてを理解した。
きおが恐怖のあまり戻した理由も、
そして、きおがラクランを信じて話しているという事実も。
告白の余韻がまだ空気に残る中で、
二人は互いの能力について、
初めて真正面から向き合おうとしていた。
――――
ラクランは、まず確認した。
「きお……さっきの揺れ。
あれは、俺が“何かしてるだろ”って言葉を口にする前だった」
きおは小さく震えた。
「……はい。
ラクランさんに……気づかれそうになって……
怖くて……戻してしまいました」
ラクランは胸が痛くなった。
(……きおは、ずっと一人で抱えていたんだ)
そして、もうひとつ確認する。
「きお。
俺が……自分の能力をどこまで話したか、覚えてるか?」
きおは迷いなく答えた。
「寿命が見えるって……言ってくれました」
ラクランは息を呑んだ。
(……やっぱりだ。
俺はまだ“寿命が見える”とは言っていない。
きおは……戻し前の世界の記憶で話している)
その瞬間、ラクランは確信した。
**きおの能力は本物だ。
そして、巻き戻しは“世界そのもの”に作用している。**
――――
きおは震える声で言った。
「戻せるって気づいた時……
最初は嬉しかったんです。
子供だったし……
“もっと良くできる”って思って……」
ラクランは静かに聞いていた。
きおは言葉を探しながら続けた。
「でも、歳を経る度に……
こんな能力に代償が無いわけがないって……
怖くなっていきました。
だから、必要な時だけにしようって……
そう決めてたんです」
きおは唇を噛んだ。
「でも……アメリカに来てから……
大事な場面が多くて……
使いすぎてしまって……
自分でも……怖かったんです」
ラクランはきおの肩に手を置いた。
「きお……ありがとう。
言ってくれて」
――――
ラクランはノートを開き、きおの前に置いた。
「きお。
代償は……寿命だ」
きおは息を呑んだ。
ラクランは続けた。
「でも、安心してほしい。
寿命は……単純に減る一方じゃない」
きおは顔を上げた。
ラクランはページをめくりながら説明した。
「日付を跨げば、清算される。
その日の“揺らぎ”はリセットされて……
ベース値は元に戻る」
きおの表情に、少しだけ安堵が浮かんだ。
ラクランは続けた。
「ただ……使いすぎると、ベース値自体が減る。
これは……一年間、毎日のように使い続けた場合……
ベース値が一日分減る、って計算になる」
きおは静かに頷いた。
「……僕も、限界は感じてました。
戻せるのは……その日だけです。
前日には戻れない。
だから……無限に戻せるわけじゃないんです」
ラクランはきおを見つめた。
「そうか……
じゃあ、お互いの能力は……
“その日”の中でしか作用しないんだな」
きおは頷いた。
――――
ラクランは少し迷ってから言った。
「きお……残り寿命の詳細は……
言わない方がいいと思う。
知れば……お前は自分を縛る」
きおは静かに頷いた。
「……はい。
僕も……聞かない方がいいと思います」
ラクランは微笑んだ。
「ただ……ひとつだけ言う。
お前は日本人だ。
慎重で、節度がある。
好き放題使ってきたわけじゃない。
だから……」
ラクランは優しく言った。
「アメリカ人の平均寿命くらいは……残ってる」
きおの目に涙が浮かんだ。
「……よかった……
まだ……間に合うんですね」
ラクランは頷いた。
「間に合う。
だから……これからは二人で考えよう。」
きおは涙を拭い、かすかに笑った。
「……ありがとうございます。
ラクランさん」
冬の静かな部屋で、
二人は初めて“同じ地図”を手にした。




