第九十七話 総力戦
包囲していた魔法少女たちから一斉に放たれた魔力弾を、結芽は地面を掘って地下に潜ることで回避した。上に避ければ待機している他の魔法少女に狙われると判断したためだ。
しかし避け方の工夫程度でどうにかなるなら苦労はない。アイアンによる瓦礫の鉄分操作、ジェードの翡翠輝石、ブックマークの一次三次元など、様々な魔法が結芽を追い立てる。
これに対し、結芽の出した答えはシンプルだ。
真上の瓦礫に魔力を纏わせてぶん殴り、向こうに回避を強制させればいい。
「人間やめてるならもっと活躍してちょうだいよ!」
「ほぼ無限の魔力とちょっとした再生能力がある程度でどうにかなる相手に見えますか?」
「できるかどうかじゃなく、やるのよ! 結芽を黙らせたら次はアンタなんだから!!」
目についた適当な魔法少女に殴りかかろうとした結芽の腕は、一本の糸によって止められる。ドールの人形操糸だ。止められた腕に引っ張られて移動も止められた隙に突撃してくるのは、千風を纏ったファン。
これは風を纏うことにより、常に敵に対してダメージを強いると同時に移動速度の向上も可能とした技術だ。ちなみに制御に失敗すると全身を自分の風でズタズタにされるリスクがある。
だがこの技は結芽からしても厄介なのは事実であり、腕の制御を奪い返してすぐに回避しようと試みる。
リコリスが回避先を制限するように放った魔力光線のせいで、クロスボウが武器を構えていた方に避けざるをえなかったが。
「これは避けられませんよ。大人しく投降してください!」
真っすぐに喉めがけて飛来する矢を掴んで止めようとする結芽だが、その手は空を切った。空ぶったのではない。矢が手をすり抜けたのだ。
これは「弩」の魔法少女クロスボウの専用魔法、「完全予測」のせいだ。その効果は、ごく近い自分に関わる未来を確定させるという代物。
予知系の魔法を使える二人が合体転身した結果生まれたものなので、妥当と言えば妥当な進化と言えるだろう。笑いごとではない効果を持っていが。
防御どころかコスチュームすらすり抜けて結芽の喉を直接えぐり取ろうとする矢を、結芽はあえて一瞬だけ喉に掠らせた。
これでようやく必中効果も防御無視効果も消えて、矢を破壊することができる。しかしそんな動きをさせられたものなので、結芽は当然隙を晒すことになる。
「君には恨みなんてないし、むしろ感謝が大きいくらいだケド……この場ではあたしの果たすべき責任が勝るわ!」
三次元戦闘に慣れていない結芽に対し、コーラルは上からの奇襲を選んだ。だが結芽にその程度の奇襲は通用しない。結芽自身、コーラルともあろう者がそんなことにも気づかないとは思えなかった。
そして、稲妻が弾けて気づく。認識を狂わされていたことに。
「ごめんなさい……でも、これが私のなすべき正義だと判断しました! やっちゃってください、カメラさん!」
「きひひひっ……止まれぇッ!!」
コーラルは確かに槍を構えていた。しかしそれは地上でのこと。空中から奇襲を仕掛けてくるコーラルなどいなかった。
ウィップが非現実で結芽に幻覚を見せている間に、カメラがピントを合わせ、仲間がフレームの外に出るまでの時間を稼いだのだ。
まんまと罠にかかった結芽は防御を全力で固めた直後、カメラの停止によって身動きが取れなくなる。
動きが止まれば、始まるのは当然総攻撃だ。結芽は動きを止められた状態でも感じ取れたのは、百合園のメンバーを中心とした魔法少女が一斉に専用魔法や魔力弾を放ってきているということだった。
ブラックリリィが反転を使って能力を底上げした魔法少女たちによる一斉攻撃もなかなか厄介だ。これまた反転によって魔力を半ば無限に使えるので、魔力量のゴリ押しが可能なのだから。
しかし、停止の効果が切れた直後、魔力による爆風で巻き上げられた砂埃の向こうから放たれた雑な魔力弾により、ブラックリリィの用意した兵士たちは軒並み地平線の彼方まで吹き飛ばされてしまった。
「……魔法の使い方、覚えちゃったよ? 次はどうするの?」
多少手傷を負った様子はあるものの、あれだけの攻撃を食らってもなお、結芽は平然としていた。遠距離攻撃ではダメならばと、今度はダイヤモンドやコーラルやアイアンといった近接戦のスペシャリストが動く。
しかも、アメシストの結界が常に体を保護しながらフレンドリーファイアも予防し、危ない所はジェードが防ぎ、いざとなればアンブレラの転移で躱すという手厚いサポート体制だ。
それでも結芽は強敵だったが。
アイアンの変幻自在な鉄の槍が、突き刺すと見せかけて結芽の腕を拘束する。すぐに引きちぎる結芽だが、その間にコーラルが迫っている。
コーラルの槍を躱せば今度はダイヤモンドの刀が足を狙ってくるが、覚えたての魔力弾でそれを防いだ。
三人が距離を取った一瞬、結芽が視線を少し上に上げれば、そこには苦悶の表情で静かに待機しているリリィが。
「お姉ちゃん……」
「よそ見とはえらい余裕そうやな!」
魔力付与の効果で魔力を纏った瓦礫が一掃に弾かれて次々に飛んでくる。しかしそれらは結芽を狙っているような様子はなく、闇雲に飛ばされているようだった。
瓦礫の雨に囲まれて、結芽は進路も退路も潰されたことを悟った。そこに、変速で加速を繰り返したことにより、降り注ぐ瓦礫も止まって見えるギアが殴りかかる。
結芽相手に格闘戦とはなかなか無謀なことを考えたものだが、速度ではギアが上回っているうえに、瓦礫の雨を活用してくるので結芽は攻めあぐねていた。
そのとき、結芽の自分も知らない感覚が危険を察知した。
「砲弾……まさか!」
瓦礫の雨を吹き飛ばし、直撃こそしなかったものの風圧だけで結芽を吹き飛ばしたのは、一発の砲弾だった。その攻撃をしてくる魔法少女に、結芽は覚えがある。
「Shit! と、というかこれだけお膳立てされておきながら外すとかありえますか私!?」
「言ってる場合じゃないわよ、次弾装填準備! 貴女たちも魔力を高めて!」
「船」の魔法少女シップだ。「平土機」のブルドーザーに肩車をされながら、数人の魔法少女に魔力を供給してもらうことで火力をさらに高め、結芽に狙いをつけている。
直撃すればただでは済まないので、結芽は瓦礫の雨が無くなってギアが接近してこれないうちに対処しようとする。
しかし、足に釣り針がかかって先に進めない。なるほど確かに、彼女がいるなら他のメンバーがいてもおかしくなかった。結芽は完全に失念していた。
「フィーッシュ! あっ、でもこれ引っ張られちゃう! 誰かぁ!」
「ウチ、パワーは自信ないんやけど!?」
「はーっはっはっは! これはまずいね!」
ライフセーバーズ所属、「釣竿」のロッドと「方位磁針」のコンパスだ。しかし、あと二人いない。
半ば反射的に背後に向けて魔力弾を放てば、予想通りそこにはニードルとバッテリーがいた。
「奇襲を防げた程度で油断してんじゃねェぞ……! 針千本ッ!」
「眠いからって、サボってはいられないからね……放電!」
ニードルの投擲した針が魔法で無数に増殖し、そこにバッテリーの放った電撃が絡みつく。針の弾幕と、その隙間を覆いつくす電撃の網。やむなく受け止めた結芽が、痺れで動きが止まる。
動きの止まった結芽は、上から降ってきた何かによって地面に叩きつけられた。地面とその何かに挟まれながらも、何とか身をよじって確認すると、結芽を押しつぶしていたのは巨大な蓮の花のような盾だった。
「蓮」のロータス。引退したはずの彼女をわざわざ呼びつけたのだろう。そして、この状況で結芽が上を確認すると読んでいた一人の魔法少女が魔法を放っていた。
「私を……見なさい!」
「千寿菊」のマリーゴールドだ。結芽は何か強烈に惹きつけられるものを彼女から感じ、目を逸らせなくなる。魅了の効果だ。
次第に意識も解れてマリーゴールドに支配されそうになっていく――が、この状況でそれは最悪の事態だった。
結芽の意識が薄れるということは、気合でどうにか抑え込んでいた稲妻の魔法と世界の意思が顔を覗かせるということなのだから。




