第九十二話 いざ尋常に
時は遡り、ブラックリリィによって全員が分断された直後。ドールとファンは瓦礫の散らばった開けた場所で、囲んで弾幕を張れば何とかなると思っていたらしい魔法少女たちをボコボコにしていた。
「舐めないでほしいわね!」
「侮らないでいただこう!」
「こ、こいつら……魔法少女歴は半年未満って話じゃないの!?」
「それは事実よ!」
「残念ながらね!」
ドールとファンは、まだ魔法少女としては未熟な部分も多いだろう。しかしやる気は人一倍だった二人は、半年にも満たない期間で協会のランカー勢にも匹敵するほどの実力をつけていた。
囲んでいた魔法少女たちは、ブラックリリィのおかげで多少は力を得られたとはいえ、元が元なら今の二人の敵ではない。
そうして、二人と同じ場所に飛ばされてきた数人の魔法少女にすら傷一つつけられないまま、全員がドールの糸で気絶させられてしまうのだった。
幸いにもこの魔法少女たちは、以前のリコリスのように糸で気絶させられないほどの力を持っているわけではないようだった。
たった二人で、人間をやめてまで力を得たはずの敵を制圧してしまった。その雄姿を見ていた数名の魔法少女たちは、自分たちも頑張らねばと恐怖を押し殺し、敵を探しに行った。
「アタシたちはどうしようかしら」
「案外あっさりと片付けられてしまったから、この調子でサーチアンドデストロイっていう方向も悪くはないかもしれないね」
「慢心はできないわよ。リコリスとかブックとか……あと誰だったかしら? とにかく、敵の主力はこんなものじゃないでしょうから」
「じゃあ、まずは仲間を集めるとするかい? とりあえずボウやガンを探そう」
ファンは、あえてジェードやアイアンの名前は出さなかった。二人はこちらの準主力と呼んでいい実力者。ブラックリリィが何のために、どういう判断基準で分断したのかは分からないが、まず間違いなく二人は孤立させられているとファンは考えたのだ。
実際には、ジェードがなぜか自由に動ける状態なうえに、一緒に飛ばされていた百合園のギアもフリーなのが現状なのだが。
しかしあえて言及されなかったことで、若干理性が消費されて思考が鈍っていたドールも、二人が今一番危ないのだと気づいた。もちろん、特訓を経てもまだ実力に不安の残るボウたちのことも気がかりだったが。
「――そう心配なさらずとも、アイアンなら今頃ブックが相手をしていますよ」
後ろから声。聞き馴染みのある、邪悪な声だ。しかし、来るならここだとは思っていたので、二人の反応は早かった。
ドールの人形操糸、そしてファンの千風。一週間前よりも威力も発動速度も飛躍的に向上している二人の魔法だが、それが背後の魔法少女を貫くことはなかった。
「おやおや、手荒い歓迎ですね」
「死になさい」
「うーむ、視線だけで人を殺せそうなほどの濃密な殺意。いい顔をするではありませんか」
「死になさい」
「前回はまともに戦えませんでしたからね。今回は心ゆくまでお相手させていただきますよ……どちらかが死ぬまでね」
「死になさい」
「……まさか以前の戦いで脳を……?」
「黙ってくたばれって言ってんのよ!!」
二人に気づかれずに背後に立てるならそのまま奇襲もできたはずなのに、あえてそうせずにニヤニヤと笑いながら佇んでいたのは、やはり「彼岸花」の魔法少女リコリスだった。
敵にとっては主力の一人のはずなのに、こんな木っ端もいいところの魔法少女に差し向けてきた理由は分からないが、油断しているところを始末できるならそれに越したことはない。敵の警戒や細かいことを考えるのはファンに丸投げしたドールはそう考えた。
そしてドールは両腕を交差させ、バツ印を描くように腕を振るいながら両手の指から人形操糸を放つ。
網目状に伸びる糸は、触れれば一発アウトになりかねない代物。前は一発アウトとはならなかったが、今回もそうとは限らないと判断したのか、リコリスは大きく距離を取って回避する。
二人の狙い通りに。
「やるわよファン!」
「えぇ……本当にやるのかい?」
「やる気は全てに優先するわ!!」
ドールとファンはモチーフを握りしめ、魔力を高める。その意図に気づいたリコリスだが、距離を離しすぎた。
「遠からん者は音にこそ聞け!」
「近くば寄って目にも見よ!」
まだ魔力を高めるのに少し時間がかかる二人だが、これだけの距離があればリコリスが移動してくるよりも早く準備が整う。
「「第二名解放、転身!!」」
リコリスが思わず足を止めてしまうほどの膨大な量の魔力が、二人からあふれ出る。多すぎて制御できないのだ。
一週間の特訓の成果――転身の習得。コーラルよりもさらに短期決戦にしか使えないピーキーなものとなってしまったが、習得できただけでもとんでもないことだし、二人はどのみちそうするしかないと割り切っていた。
ドールのフランス人形風のコスチュームは、白が基調だったものから緑と黒が混ざり、フリフリのドレスっぽいのはそのままにスカート丈や袖などが短くなり、動きやすいように変化した。
ファンの和服っぽいコスチュームは色はそのまま、ドールとは逆に袖や帯が妙に伸びて若干動きにくくなった代わりに、披帛や風袋などのいざとなれば何かに使えそうな装飾が増えた。
そして、起きたのは魔力の増加やコスチュームの変化だけではない。第二専用魔法も増えている。リコリスは二人の動きに警戒するが、魔力の放出が収まっても、始まるのは戦闘ではなく名乗りの続きだった。
「やあやあ我らこそ!」
「新都心一の魔法少女コンビ!」
ドールは専用武器である自分そっくりの人形を横に立たせ、ファンは両手に専用武器のブレードを握り、決めポーズをとった。
「『支配』の魔法少女ドール・ドミネイト!」
「『廻転』の魔法少女ファン・リボルブ!」
「「いざ、尋常に!!」」
リコリスには二人の考えは分からなかったが、分からなくてもいいことだと思った。五年前もそうだったが、こういう状況こそ遊び心を忘れてはいけないだなんて宣うアホは、一人はいるものなのだ。
「……気の利いた感想の一つでもくれたっていいんじゃないのかしら?」
「時間制限があるのになぜそんな真似を……?」
「かっこいいでしょ!」
「まあ、そういうことだから、とりあえず殺されてくれるかい?」
「どういうことですか……それに、殺されるかどうかは、貴女たち次第ですよ!」




