第八十四話 少女たちの選択
「ねえ、あの話聞いた?」
「ああ、アレ?」
「どうする? 正直、このまま続けたってさあ……」
「でもだからって、加担するのも……」
魔法少女協会、新都心支部の一室。そこに、この近くで活動しているチームのリーダー格の魔法少女たちが集まり、今後の方針を話し合っていた。
彼らのチームはどこも、黒奴殲滅委員会のようにナワバリを持たず、ライフセーバーズのように地域に根差しているわけでもない。
実力もさほどではないし、活動に精力的かと聞かれるとそれも首を傾げるくらいの魔法少女たちだ。
そんな彼らにも、ブラックリリィは粉をかけて回っていた。
「リリィと敵対することになるんでしょ? 私は勘弁だよそんなの」
「じゃあ終わらない戦いの末に野垂れ死んだ方がマシっての?」
「よしなよ! ……気持ちは分かるけど」
五年前、ブラックリリィが現状に不満を持つ魔法少女たちを率いて反旗を翻したときも、同じやり方だった。
水面下で少しずつ影響力を広め、時機を見て事を起こす。計画は着実に進行しているのだ。
当時はリリィに比肩する魔法少女として有名だったので、賛同者はすぐに集まった。今も、リリィが妹を誘拐された挙句取り逃がしたという話は広まってしまっていたので、ブラックリリィの実力を疑う者はいない。ゆえに、いけるかもしれないと思わせることができてしまうのだ。
「……委員会の連中、リコリスとやりあったんだってよ」
「マジ? 逃げなかったの?」
「どうやったのか知らないけど、撃退できたんだとさ」
「ヤバ」
部屋には、以前黒奴殲滅委員会と新都心で争った二チームのリーダーたちもいた。しかし二人はブラックリリィに与するか否かを話し合う少女たちの横で、呑気に携帯を弄っていた。
それは真面目に活動するつもりがないからではない。話し合うまでもなく、彼らは決めた後だったのだ。
「ねえ『鞄』、『冷蔵庫』。そっちはどうするの?」
「戦う」
「同上」
「……はあ?」
話し合っていた少女の一人が二人に尋ねるが、返答は早かった。しかし、それは少女の望んでいた答えではない。
近所のチームのリーダーに招集をかけた彼女は、二人に一緒にブラックリリィに付くと言ってほしかった。戦い続けるのは嫌だが、二、三個のチームで寝返っても不安は晴れないので、一人でも多く仲間が欲しかったのだ。例え有象無象の集まりでも。
ゆえに、集めたチームは、話し合いの最初からブラックリリィに付くという結論に持っていけば簡単に説得できるような連中ばかりだった。
「そ、そういえば貴女たち、あの委員会と仲良しだったっけ。そりゃ変な影響も受けちゃうか」
目論見が外れ、せっかく説得できた連中もやっぱりリリィの方がと呟くのが聞こえ、どうにか流れを取り戻そうと、少女は黒奴殲滅委員会の話を引き合いに出す。
黒奴殲滅委員会は新興のチームだが、その名前は広く知られている。ジェードとアイアンのネームバリューもいくらか影響しているが、それ以上にドールたちの噂が原因だった。
新人だけでもすでに銀冠クラスを倒せるとか、アメシストを退けたとか、ライフセーバーズを活動停止に追い込んだとか、猟犬から逃げ切ったとか、根も葉もあったりなかったりする噂が。
悪評の多いチームと付き合いのある連中だと思われれば、説得した連中をもう一度説得する手間はかからずに済む。それに加えて、変な影響だと言えば考え直してくれるかもしれないという淡い希望もあった。
その希望は、鼻で笑われてしまったが。
「フン、自分のことも自分で決められないなら、魔法少女辞めたらどうだ?」
「なッ……」
「こっちに残られても迷惑だけど、そんな調子じゃブラックリリィにも追い返されておしまいだって言ってるの」
「このっ、あのイカれ集団のおこぼれで活動してる分際で偉そうに!」
二人の言葉に激高し、殴りかかる少女。
少女は集まった魔法少女の中では一番実力があると自負していたし、事実「鞄」のバッグと「冷蔵庫」のリフリジレイターの二人では敵わないだろう。……まともな方法であれば。
バッグは少女の拳を避けも防ぎもせずに顔面で受け止める。そして、まさか直撃するとは思っていなかったのか、怯んだ少女の腕を掴んで引き寄せ、体勢を崩させる。
さらに、床に倒れこんだところに、リフリジレイターが専用武器である冷蔵庫を背中に乗せ、身動きできなくさせた。
「イカれ集団ねぇ……ま、否定はしないけど」
二人はこのまま暴力でも振るわれるのかと怯えた様子の少女の顔を覗き込む。もちろん、追撃のためではない。
「アンタらがまだまともだから忠告してあげてるのよ」
「覚悟ができないならやめとけ。私らみたいにはなりたくないんだろ?」
二人は言いたいことを言えて満足したので、そのまま部屋を出て行った。二人が出ていくまでの間、少女以外の魔法少女たちも、怯えて部屋の隅で震えることしかできなかった。
「ふぅん? ブラックリリィね……」
「『電探』、お前も私のチームに入らないか? 来るもの拒まずって話らしいし、非戦闘員でも元野良の集まりでも助けてくれるかもしれない!」
同じころ、協会の地下訓練場にも何人かの魔法少女が集まっていた。集められたのは、チームに所属せずに活動している野良の魔法少女だ。
基本的に魔法少女がチームに所属しないメリットはあってないようなものだが、なかなか方針の合う仲間がいないとかコミュ力や性格に難があるとかでソロ活動を強いられる者もいる。
「電探」の魔法少女レーダーの場合、チームに所属しても黒奴とやりあえるほどの実力がないうえに、何か特別にできることもなく、民間人の避難誘導に徹するしかなかったのでソロになるしかなかった。
とはいえ彼女は結芽と話してからは活動を精力的に行うようになったし、週に何回かは訓練場を利用して鍛錬にも励んでいた。結果、才能とは残酷なものだとわかってしまったのだが。
しかし努力を見ていた周囲の魔法少女とは仲良くなれたし、何度か黒奴の討伐に協力したようなこともあった。
そんなこんなで最近は魔法少女活動が楽しくなってきて、これからも頑張ろうと思えた矢先に、これである。
「このまま戦い続けても、裂け目は閉じるどころかもっと強力な黒奴を出現させ続けるかもしれないんだ! なぜ、私たちがそのために死ななきゃならない! そうは思わないか!?」
「え、別に……私、基本的に裏方だから、そっちの苦労はよく分かんないわ」
正直に答えるべきかと思ったレーダーは、正直に答えた。その結果、訓練場の空気は凍った。
もう少し言葉を選ぶべきだったかと後悔しても遅いことは明らかだったので、レーダーは開き直ることにした。
「……それに私、裏方だからこそ賛同できないわ。ブラックリリィがやろうとしてることってつまり、民間人を見殺しにするってことでしょ?」
その言葉は、この場にいた多くの魔法少女があえて目をそらしていたことを的確に抉っていた。レーダーの言う通り、戦い続けても絶望しかないとはいえ、戦わなければ犠牲になるのは民間人なのだ。
「だがっ!」
「だがも何も、選んだのは私たちでしょ。この先を選ぶのも自由だけど、魔法少女になった責任くらい取らなきゃいけないんじゃないの?」
これ以上ここにいても空気が悪くなるだけだと判断したレーダーは、すぐに訓練場を後にした。そして、協会のビルを見上げながらぼやいた。
「……どうして魔法少女同士ですら、手を取り合えないのかしらね」




