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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第八章 少女たちは帰らない
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第八十二話 一対五

 一応協会に救援は求めたものの、黒奴殲滅委員会の誰も、増援が来ることは最初から期待していなかった。リコリスはブラックリリィ側の陣営としてもトップクラスの戦力にあたる。それがここにいるのだから、相応の対応は取られているはずなのだ。


 ゆえに、ギリギリの戦いを強いられることは最初から想定内だった。


「まだでしょう! まだ足掻けるでしょう!? さあ、もっと私に見せてください! 限界の先まで! 命の輝きというものを!!」


 黒奴殲滅委員会は、既に満身創痍であった。実力差がありすぎる。リコリスは誰もが認めるクズだが、実力も認められている。こんなのでもかつては花園所属の魔法少女だったのだ。

 五年前の戦いでブラックリリィを追い詰められたのも、リリィ一人の功績ではなかった。当時のチーム花園のメンバーが総出でようやく五分の戦いになったのだ。


 魔力に肉体の制御を明け渡したジェードと半ば捨て身のアイアンの二人がかりで、辛うじてファンたちに攻撃が飛ばないようにできているのが現状である。


「弱ったね……完全に足手まといだ」

「向こうの纏ってる魔力の方が多いからって攻撃が無条件で弾かれるって、理不尽じゃありません?」

「嘆いたって仕方ないでしょ、姉さん。……どうせ効かないからって私たちを軽く見てるあいつに、どうやって一矢報いるかを考える方が、よっぽどいい」


 経験の差がなぜここまで戦力差に繋がってしまうのか、今のファンたちには少し理解できていた。モチーフが原因だ。

 モチーフの原型は死者の魂。相性の良かった魂が自分たちに力を貸してくれているとはいえ、まだ魔法少女になって数か月の彼女たちでは、その力を十全に扱えていないということだ。


 モチーフの機能の一つには、魔力の貯蔵というものもある。戦いの際には結局対価を払って魔力を得るので大して役に立たない機能だが、これの役割は魔力を貯めておくことではなく、モチーフに使い手の魔力を馴染ませることだった。


 モチーフが使い手の魔力を覚え、戦闘スタイルや戦いに対する心持ちなどを学び、ようやく百パーセント以上の力を発揮できるようになる。兎にも角にも時間が必要だったのだ。


 今更そんなことが分かっても、モチーフの力を引き出せる時間はなかったが。


「ッ……!」

「クソがァ!」

「そんなものではないはずですよ、ジェード! 九年もしぶとく死に損なってきた貴女の実力は!!」

「オレはガン無視かコラァ!!」

「誰が好き好んで死に損なうか!!」


 翡翠輝石(ジェダイト)が伸びる力を利用し、大盾を射出するジェード。これを躱したジェードに、家屋から伸びた魔力を帯びた鉄骨が絡みつく。

 力任せに振りほどいたリコリスだが、その隙を逃さずにアイアンが高所から槍を投擲する。変形時の勢い、位置エネルギー、肉体強化魔法。全てが合わさった攻撃は、進路を誘導するように張られた魔力防壁に逸らされてしまった。


 だが、どちらの攻撃もリコリスは直撃を避けた。ファンたちの攻撃は無視して突き進んだというのに。つまり、全力を振り絞ればどうにか有効打を与えられるということ。


 問題はその有効打を叩き込むために、リコリスに隙を晒してもらわなければならないことだった。


「無理ゲーじゃねェかクソッ!」


 ジェードは頭から地面に突っ込み、悪態をついたアイアンは吹き飛ばされた。三軒ほど家を突き破り、アイアンはどこかの家庭の子供部屋に転がった。壁には、リリィのポスターが張られている。


 風切り音が聞こえて、天井を魔法で消し飛ばしながらリコリスが降ってくる。ここがどんな部屋であってもお構いなしとばかりに。


「ッ……だらァあああああッ!!」


 専用武器を床に叩きつけながら、アイアンは叫ぶ。この家は木造住宅。つまりそこかしこに釘があるということ。一つ一つを魔法の対象にすると消費魔力量はかさむが、今のアイアンには関係ないことだった。


「テメェらの身勝手な理想に! 人様を付き合わせんじゃねェ!!」


 アイアンの魔力の対価は怒り。黒奴(クロヌ)相手では次第に怒りが薄れて長続きしない対価だが、対人戦となれば無尽蔵に魔力が湧いてくる。特に、こういった手合いの場合には。


 全方位から猛スピードで飛来する釘。流石のリコリスもこれは防ぎきれず、コスチュームの一部が破れ、僅かながらにとはいえ血を流した。


 それでも獰猛な笑みを浮かべて、リコリスは杖をアイアンに向け――咄嗟にその場を飛びのいた。しかし高速で落下してきた何かを完全に避けることはできなかったのか、コスチュームの袖が切り落とされ、血しぶきが舞った。


「おや? 殊の外思い通りにいくものだね」


 床を突き破って地中深くまで埋まっていたのは、ファンが空高くから風に乗せて投擲した専用武器のブレードだった。


「なかなか面白いことをッ――!?」


 取るに足らないと思っていたファンから想定外の痛手を食らい、何かしら喋るだろうとガンたちは想定していた。


 確かに自分たちの火力ではまだ届かないかもしれない。だが、肉体強化が効きにくい場所であれば話は変わってくる。ボウが提案したのだ。――喋ったタイミングで口の中に矢をねじ込んでやると。


「ダメだったら尻にぶち込むしかないところだった」


 一本や山なりの軌道を描いて舌の裏を、一本はアッパーを浴びせるように下から上顎を、最後の一本で喉の奥まで。

 軌道を変えることで、三本がほぼ同じタイミングでリコリスに直撃する。弓矢である以上、一本一本を放つタイミングがズレてしまうことは、ボウも諦めた。肝心なのはそれをどう利用するかだと、切り替えることにしたのだ。


 間抜けな絵面だが、防御が遅れたらしくリコリスは血を吐いた。


「終わりだと思わないでよね!!」

「ガッ!?」


 そして、危険は承知の上で魔力を切って隠れていたガンが、追い打ちとばかりに機銃に変形させた専用武器を口にぶち込み、ありったけの弾丸を浴びせた。


 魔力については、直前にチャージと称してボウを全力で抱きしめていたので問題ない。代わりに憎しみの薄れたボウの火力は下がってしまったが、ガンの攻撃が決まれば相当なダメージが入るはずなので問題ない。


 実際、ガンが嫌な未来が見えて武器を捨てて飛びのくころには、リコリスはかなり消耗した様子だった。


「くはっ、くはははははっ! 良いですよ! 実に良いッ! 必ず死なせると書いて必死! 実に良い覚悟です!!」

「――死なせないよ。生かしもしないけどね」


 復帰したジェードが、四方から翡翠輝石(ジェダイト)を伸ばしてリコリスを拘束する。ダイヤモンドでも破壊を諦める絶対の防御だが、上を塞ぐ直前で身をよじり、リコリスが脱出してしまう。


「まだッ! まだ終わりませんよ! 宴もたけなわと呼ぶにはまだ――」

「――ダメよ、今日の宴はここまで。さんざっぱら迷惑かけたんだから、そろそろ満足なさい」



 しかし、飛び上がったリコリスの動きは、糸を切られた操り人形のように停止した。比喩とは反対に、その首には糸が刺さっていたが。

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