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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第七章 協会は信用できない
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第六十七話 魔法少女協会襲撃計画

「ライフセーバーズはすっかり怪我も治って、町に帰ったみたいだよ」

「……そう」

「ロータスさんも足が悪化したわけじゃなかったみたいで、今後の活動に支障は無いみたいだ。よかったよかった」

「……そう」


 協会の運営する、魔法少女用の病院の一室。黒奴殲滅委員会のために設けられた病室のベッドには、美音たちが横たわっていた。


 怪我はもうほとんど治り、少しすれば魔法少女としての活動にも復帰できるだろう。幸い、あの日の怪我の後遺症が残ってしまった仲間は誰もいなかった。

 しかし病室には、一行が入院してからずっと、重苦しい空気が流れていた。千風が何とか明るくしようと努めるが、美音の元気のない相槌の他には、空調や機械の音しかしない。


「……結芽さんからは、連絡が無いね」

「……ライフセーバーズからなら、連絡があったわよ」


 美音がそう言って、送られてきた写真を千風たちに見せる。そこには更地になった山林や、結芽の放った雷で跡形もなく破壊された港などが映っていた。


 ライフセーバーズのメンバーはすっかり元気をなくし、無期限の活動休止ということで、あの港町の周辺は海防魔法少女が守っていくとのことだ。


 元々ライフセーバーズは町を守るために活動していた。目的そのものが無くなってしまった以上、今後活動を再開することすら、あるかどうか。

 そしてその原因を作った結芽からは何の音沙汰もない。協会に問い合わせれば返答を差し控えると言われ、見舞いに来た鉄子や翡翠に尋ねても分からないとしか答えてもらえなかった。


 何なら、あの日見たものについては一切口外無用だと命令されたほどだ。一体何がどうなっているのか。


「協会は……百合園は何を隠しているんでしょうか」

「よしなよ、夢唯。知ったらきっと、ただじゃ済まないよ」

「じゃあ姉さんは、このまま泣き寝入りでいいの? 結芽さんだって、あれは暴走みたいなもので、望んでしたわけじゃないのかもしれないんだよ?」

「……結芽なら、自分から冠を被ってたわよ。自分が何をしているのかも分かってないような顔してたけどね」

「……それは初耳だよ、ミィ」

「協会の事情聴取でも言わなかったことだもの」


 さらりと言ってのける美音だが、バレたら活動停止処分もあり得ることをしている。千風は咎めるような視線を向けるが、美音は逆に睨み返した。


「協会は既に何かを知ってる」

「何かって、何だい?」

「それを確かめに行くのよ。大体、対応に不審な点しかないのに何の説明もなく納得しろだなんて、無茶な話じゃない」


 結芽を攫った理由も、救援要請に答えなかった理由も、協会は何も説明しなかった。何も説明せずに、処分をチラちかせて追及を逃れようとした。


 普通の魔法少女ならそこで、納得はできずとも引き下がっていただろう。協会のバックアップがあるからこそ、魔法少女は安心して戦えるのだ。

 怪我をしてもタダで治療してもらえるし、戦いに貢献すれば報酬が貰えて、いざという時には増援もくれる。


 美音からすれば、その全てがどうでも良かったのだが。


 戦って死ぬなら本望だし、報酬なんてどうでもよくて、増援は今回のように当てにできないケースもある。協会はもう信じられないし、所属する理由も無くなっていたのだ。


「ミィ、それは……」


 確かめに行くという言葉が意味することを、千風は理解していた。協会の新都心支部にはチーム百合園の本拠地があり、そこには「電算機」の魔法少女コンピュータが常駐している。

 他の百合園のメンバーは基本的に日本全国を転々としているが、彼女だけは本拠地のサーバールームで日本のあらゆる情報を集め、制御している。


 予約すれば面会することも可能だが、なぜか今は面会謝絶となっていた。まるで、どこかの誰かを会わせないようにするためのように。


 美音は包帯を魔法で引きちぎり、ゴミ箱に捨てながら言った。


「――協会を襲撃するわ」





「……んで、オレに力を貸せってのか?」


 病院を抜け出した黒奴殲滅委員会は、まず鉄子の家を訪れた。それはもちろん、歴戦の彼女に力を貸してもらうため……ではなく、チームを抜けてもらうためだ。


「アタシたちは協会を襲撃するから、そのときにチームのメンバーだからって責任を問われないようにしたいのよ」

「あのなァ……その計画を聞いておいて止めなかったって時点で、今後オレが責任を問われ続けるのは確定してるんだが?」

「外れクジを引いたわね」

「……ここでテメェら全員叩きのめして、協会の矯正チームに引き渡してもいいんだぜ?」


 モチーフであり専用武器の鉄塊を槍の形に変形させて、鉄子はその切っ先を美音の額に向ける。しかし、美音は一歩も退かないどころか、瞬き一つしなかった。


 同じ話を美音に持ち掛けられてもチームを抜ける決断をしなかった千風、夢唯、結唯も、ただ黙ってそれを見ていた。


 それぞれの目にあるのは、どうなってもいいという投げやりな覚悟ではないし、いざとなれば降参すればいいという生半可なものでもない。

 死ぬ気でやるが、死ぬ気はない。一見すると矛盾しているその覚悟を両立させた固い意志が、そこにはあった。


「……とはいえオレも、協会に不満が無いと言えば嘘になる」


 鉄子は美音が渡してきたたチーム脱退届を槍で引き裂いて、ニヤリと笑った。


「いいぜ、最後まで付き合ってやる」

「……いいの?」

「オイオイ、テメェが持ちかけた話だろうがよ。今の時期、百合園はこの近くにいない。やるなら今だ」


 どう転んでも、待つのは破滅だけ。そう分かっていても、鉄子は協力することを選んだ。鉄塊を薄くのばして新都心支部周辺の立体的な地図を机に広げながら、作戦を練り始めた。


「……翡翠が墓参りでいない今も、ある意味都合がいいな」

「やっぱり翡翠さんは反対するかな?」

「するだろうなァ……まあ、アイツにも色々あるんだ。後のことを押し付けても問題はねェだろうし、存分に頼らせてもらおうぜ」


 対人戦であれば、ジェードほど頼りになる魔法少女はいない。特筆すべきはその経験の多さと、一見すると汎用性が低そうに思える専用魔法だ。

 あらゆる状況に即座に対応できる処理能力は、初見殺しが多い対人戦において有利に働く。専用魔法の翡翠輝石(ジェダイト)は、低コストで黒奴(クロヌ)でもなかなか傷すらつけられない圧倒的強度の壁を生成できる。


 黒奴(クロヌ)と違い、魔法少女には魔力の制限が大きい。そのため短期決戦型の戦闘スタイルに落ち着くことがほとんどなのだが、ジェードは対価の軽さもあって、持久戦で耐え忍ぶことを得意としている。


 味方にできれば、協会のランキング上位の魔法少女でも苦戦は免れなかったはずだ。鉄子には、彼女がまずこの作戦に賛同するとは思えなかったが。


「病院から抜け出した時点で襲撃くらいは予期されてる。新都心支部には抜け道みてェなものもねェ」

「つまり?」


 鉄子は地図上の必要のない建物や道を消すと、残るのは支部のビルと、その正面から伸びる一本の道だけになった。



「正面突破だ。邪魔する奴らは片っ端から吹っ飛ばしてサーバールームに飛び込む」

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