第六十八話 各個撃破
「リーダー。あのバカども、本当に正面から来ましたよ」
「総員配置につけ。ジェードはこの時期、毎年墓参りに行く。私は詳しいんだ。アイアンを私でどうにかすれば、後は有象無象だ」
「有象無象って……全員灰冠くらいなら軽くひねれる実力者じゃないですか……ヤだなあ」
「文句言わないの。これが仕事なんだから」
「終わったら焼肉に行こう!」
人の気配がしない新都心の、協会の支部に繋がる道の真ん中に、五人の魔法少女が立っていた。
彼女たちはチーム猟犬。自ら協会の犬を名乗り、罪を犯した魔法少女の捕縛や魔法少女間のトラブルの仲裁を行う、魔法少女の警察のようなチームだ。
活動頻度は高くないが日頃から鍛錬に明け暮れており、対人戦に特化していることもあって、多くの魔法少女に恐れられている。
実はドールは一度、専用魔法が魔法少女の捕縛に便利そうだからという理由で、勧誘を受けたことがあった。
まだ黒奴殲滅委員会の結成前の、復讐心に突き動かされていた時期のことだったので、当然ながら断っていたが。
「専用魔法の初見殺しが通じるのはその辺のチームと喧嘩になったときくらいだ。連中は協会から、ほとんどの魔法少女の魔法の詳細なデータを得ているはず」
「そういえば協会に魔法の名前や能力の詳細を送ったことがあったっけか」
「つまり対策はバッチリってことね……アタシの糸でまとめて気絶させられたら楽だったのに」
「糸を伸ばしたら真っ先に落とされますから、使いどころは考えてくださいね」
「予知系も優先的に狙われそうかな。姉さん、あまり離れないように……くっつけって意味じゃない」
チーム猟犬と対峙するのは、ジェード抜きの黒奴殲滅委員会。普段と比べて火力にそこまで違いはないが、補助要員がいないので安定性に欠ける。
それに、黒奴殲滅委員会はジェードの防御を軸にしている部分が少なからずあるので、このメンバーで挑むことには若干の不安があった。
それはそれとして襲撃は実行するが。
百合園だけでなく、他のチームが駆け付けられない都合のいいタイミングは今日くらいのものなのだ。多少不利な状況だからといって、今更退くわけにいかない。
新都心から住民を完全に避難させていたのは想定外だったが、民間人に被害が出る可能性が無くなったと考えれば悪いことばかりではない。
ドールたちが猟犬に近づくと、道路の中央で仁王立ちしていた「金梃」の魔法少女バールがメガホンを構えて警告してきた。
「『人形』の魔法少女ドールとその仲間の諸君! 最後の警告だ! 今すぐに病院に帰るなら、我々は手出ししないと約束しよう!」
「……アタシが唆したっていうのは分かってるのね……どこで知ったのか、聞かなきゃいけないわね」
「リーダー、無理ですよ。対価の払い過ぎで理性が壊れてます」
「話し合いで済ませたかったが、仕方ない……実力行使とさせてもらおうか!」
黒奴殲滅委員会に対し、猟犬が取ったのは各個撃破という方針だった。乱戦になればドールの糸やボウとガンによる狙撃を常に警戒しなければならないので、これは正解だっただろう。
先手を取ったのは猟犬のリーダー、「金梃」のバール。アスファルトをひっくり返し、新都心のど真ん中でそんなことをしてくるとは思っていなかったドールたちが動揺した隙に分断した。
「このっ!」
「動きが雑になってきましたね。やっぱ対価の払い過ぎですか? 燃費悪いんですねその魔法」
「そういうアンタは随分と慎重に魔力を使うのね!」
「無駄に使うのは無駄ですから」
ドールを近くのビルに投げ込んだのは「鎖」の魔法少女チェイン。デスクやパソコンを吹き飛ばしながら、二人の戦いが始まった。
頭部か脊髄に糸が触れたらアウトだと知っているチェインは、あえて近接戦闘を選んだ。
過去の黒奴との戦闘記録から、糸の飛距離は数百メートルくらいなら余裕だと判明しているのだ。
気づいたら後ろからプスリ、という事態を避けるには、常にドールの近くでくるくると動き回るのがベスト。チェインはそう結論づけたがゆえの立ち回りだった。
実際、常に三百六十度に動き回られては、糸を背後からぶつけるのは難しい。また、飛行魔法や浮遊魔法を使うには天井が低すぎる。
搦め手に特化している分正面からの戦闘能力はそこまででもないドールは、苦戦を強いられていた。
「チャラチャラと逃げ回って!」
「『鎖』の魔法少女ですから」
手足に糸をつけても、すぐに抵抗されて糸が千切れる。千切られるたびにそこそこ魔力を消費するので、割と余裕ありげなチェインに対してドールは疲弊していた。
糸よりは消費魔力の少ない魔力武器で切りかかるが、それも軽く避けられる。ドールはこれまで、剣道も空手も習ったことがない。
魔法少女になるにあたって、ジェードから多少格闘術の手ほどきは受けたし、今も対人戦の訓練を多少はしているが、その程度だ。対人戦を本職にしている魔法少女が相手では分が悪い。
以前ブックマークと戦ったときは専用武器である自分そっくりの人形を利用したが、今回はだだっ広い道の中央で待ち構えられていたので、それはできない。できていたとしてもすぐに見破られていた。
「やっぱりセンスいいですね。猟犬に来ませんか?」
「冗談キツイわね!」
「ま、でしょうね。私も檻の中のメンバーなんて……嫌ですし!」
ここまで回避に徹していたチェインが少し距離を取ると、専用武器の鎖を振り回しながら攻撃に転じてくる。
長く、重く、硬い鎖。遠心力で加速したそれを横薙ぎに振るわれると、ドールにはジャンプするか屈んで回避するしか選択肢が無い。
しかし飛び跳ねれば、それを見越していたチェインの魔力弾がぶつけられる。ドールは浮遊魔法で強引に姿勢を制御するが、それはかえって滞空時間を長くして不利な時間を長引かせるだけ。
ドールが気づいたときには既に周囲を魔力防壁に囲われ、内部には魔力霧が充満して――
「――せっかく距離を取らないように立ち回ってたのに、不用心じゃないかしら?」
「チッ!」
チェインは背後から床を突き抜けて飛び出した糸の回避に意識を割かれてしまったので、追撃はできなかった。
両者とも魔法を解除し、睨み合いの形になる。
「やはり貴女……理性が擦り切れるほど動きのキレが良くなりますね」
「あら。アタシってば、本能的に敵を狩ろうとしてるのかしら?」
「冗談キツイですよ。狩られるべき獣は……貴女の方です!」
糸を警戒しながら、チェインは再び距離を詰める。戦いはまだ、始まったばかりだ。




