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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第六章 夏はまだ終わらない
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第六十二話 あっさり侵入

 研究所の廊下で、所々に黒いラインが走った真っ白なパワードスーツを着た男が、手錠をつけた少女に銃を突きつけながら歩いていた。


 廊下の向かいから歩いてきた同じスーツの女は、見慣れない少女とボロボロの男の姿を見て足を止める。


「……何があった?」

「襲撃だ。魔法少女が一人。何とか撃退したが、俺以外は全滅。通信機もやられちまって連絡できなかった」

「そのガキは?」

「魔法少女の仲間だ。話に聞いたレーダーみたいな専用魔法の使い手だったんだろうな。スーツがこのザマだ」

「……とりあえず、そいつは牢屋に入れておけ。スーツは研究班にでも渡せば喜ぶんじゃないか? 新品はそこで受け取れ。ああ、報告と後始末はこっちで済ませるから安心しろ」

「悪いな、任せた。……ほら、歩け」


 女が立ち去り、スーツの性能的に小声であれば話しても問題ない距離まで離れると、銃を突き付けられた少女――結芽はニヤリと笑う。


「名演技だったね。足を洗ったら役者にでもなれば?」

「……手を染めるって言うだろ。辞めたところで他の仕事ができるかよ」

「それもそっか」


 そう。何を隠そう、傭兵を名乗る男に銃で脅させて、結芽は研究所の中に侵入していたのだ。


 ちなみに銃は内部の構造を結芽が破壊し尽くしているので、ただの重い金属のガラクタになっている。スーツは結芽に防御システムを強制稼働させられた結果魔力切れになっているので、男は一歩歩くのも一苦労だ。


 しかし下手に逆らえば、認識阻害をかけて後ろを歩くジェードに何をされるか分からないので、男は従うしかない。

 一応、スーツとセットのヘルメットには認識阻害を破る効果があるはずなのに、ジェードの存在に先ほどの女は全く気付かなかった。男は雇い主選びを間違えたことを理解した。


「……脅して案内させようだなんて、なかなかえげつないことを思いつくよね」

「失礼な。この人は自分の悪行を恥じて、反省して、喜んであの子たちの救出に協力してくれてるんだよ。そうだよね?」

「アッハイ」

「これはひどい。まあ、欠片も同情心は芽生えないけど」


 手錠は研究所が開発した、理論上は魔法少女の攻撃も何発か耐えられる特別な代物だ。……しかし男には、結芽なら簡単に破壊できるんじゃないかという気がしてならなかった。


 鍵は無いと言ったのに、連行されるフリをするから付けろと言って聞かなかった結芽に付けさせられた後、何度か鎖を引っ張って強度を確かめていたのだ。

 そのとき、結芽がいけるなと小さく呟いたのを、男は聞き逃さなかった。ついでに鎖からメキリと音がしたのも。


 結芽に無理でも、ここにはあのジェードもいる。男も、相手取っているのがあのジェードだと知っていれば銃口を向けることはおろか敵対しようとも思わなかった。


「……今日は厄日か」

「今日だけで終わるかな?」

「結芽、その人雇うの?」

「場合によるかな」

「俺にだって雇い主を選ぶ自由ってもんが――何でもございません」


 足音が聞こえてきたのにべらべらと喋る男の膝のプロテクターを握りつぶすと、男はすぐに静かになる。

 少し進むと、今度はスーツを着ていない白衣の男が現れた。その男は、一葉の髪を掴んで歩いていた。


 半ば反射的に白衣野郎をぶちのめそうとした結芽は、手錠を引っ張った感触で正気に戻る。ここで騒ぎを起こすのは悪手だ。今は耐え忍ぶ時間。ボコすのは後。


 一葉は結芽の姿を見て絶望し、唇に人差し指を当てるジェスチャーをするジェードを見て混乱し、もう一度白衣野郎を睨む結芽を見て事情を察した。


「っ……お、お疲れ様です! 所長!」

「……それ、侵入者か?」

「は、はい!」

「……まあいいや、適当に処分しといてよ。俺は……聞き分けのない娘を教育しなければならないからね」


 結芽のぶつける殺意に一向に気づく様子のない白衣野郎は、そのまま立ち去って行く。去り際、一葉は結芽にアイコンタクトでやり過ぎるなと伝えようとした。

 しかし、それを結芽はぶちのめせというメッセージだと受け取った。娘と呼んでいたのなら、アレは一葉の父親なのだろう。後でもう二度と一葉の父などと名乗れないようにしてやるつもりだが。


 深呼吸を何度か繰り返し、脳内で数十通りの処刑方法を検討して、ようやく結芽は冷静になった。


「……そういうことね」

「え、何が?」


 ジェードはいつの間にか翡翠の盾を構えていた。理由を聞いても、黙ってそっぽを向くだけ。よく分からなかったが、悪いことをするような人じゃないし、と結芽は判断し、男に案内を続けさせた。





 牢屋は研究所の奥の方にあった。おかげで、案内の過程だけで結芽は研究所のおおまかな構造を把握できた。


 地上は両親の実家の近所なので庭のようなもの。高低差から水源の場所まで把握しいる。見れていない場所も、どの辺りまでなら広がるか予想がつく。


 牢屋の中には都合よく透葉がいてくれたので、あとは逃げ出すだけだ。


「……マジで千切るのかよ」

「まあ、この程度ならね。透葉、大丈夫? 怪我はない? 嫌なことされてない? 復讐する?」

「最後のは余計かな」


 牢屋の鉄格子を力任せに捻じ曲げて侵入し、透葉を抱き上げて、結芽は気づく。これは透葉ではないと。


 体格は同じ。触って分かるが、骨格まで同じ。体重は、透葉が朝から何も食べていなければこのくらいだろうというくらい。体温は異様に低い。冷たい、と言うべきなほどに。


 透葉と一番違うのは――この子が既に死んでいることだ。


 牢屋の中に置かれていたのは、異常なほどに透葉とそっくりの死体だったのだ。


「――まさか堂々と正面から入ってくるとは思わなかったよ、魔法少女」


 牢屋の外から声。引きちぎった手錠の破片を投げつければ、生身の人間なら殺すこともできる。流石の結芽も殺人までは犯せないが。


 それにそもそも、振り向いた先にいたのはパワードスーツを着た連中だった。銃は見てから回避もできる。しかしそれをするには、この死体が邪魔になる。捨てるという選択肢は無い。


 結芽は大人しく両手を挙げて降伏の意思を示した。


「わざわざ変身まで解除して……そりゃあ気づけないわけだ」

「節穴」

「よく喋るな。まあ、その方が面白い。連行しろ」


 透葉そっくりの死体を雑に扱おうとしたやつの腕を反対側に曲げつつ、結芽は死体をそっと牢屋の床に置いた。


 そして、まるで気づかれる様子のないジェードに視線を向ける。相手がお手本のような悪だと分かり、確実に潰すことを決めたような顔をしていた。



 傭兵の男は結芽を招き入れたとして捕まり、結芽と入れ替わりで牢屋に入れられる。縋るような目を結芽に向けていたが、結芽は白衣野郎への殺意でそれに気づくことは無かった。

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