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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第六章 夏はまだ終わらない
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第六十一話 追跡する者たち

 翡翠は、翡翠のフリをして部屋に入ろとしていた子供を捕まえて帰ってきた。変な格好をしているので魔法少女だ。こんな暑い中でケープのついたコートにベレー帽なんて、意味が分からない。


 身長はとおはと同じくらいだろうか。認識阻害のせいで顔立ちなどの印象はぼやけてしまうが、子供であることだけは分かる。


 ふとそこで結芽は、自分に認識阻害が効くようになっていることに気づく。海のときは効かなかったのに、何の違いだというのだろうか。


「この部屋にはもう認識阻害と魔力防壁を張ったから、中で君に何をしても、君が何をしても、外の人たちは気づけなくなっちゃったけど、どうする? まだ抵抗する?」

「と、透葉(とおは)を返せ! 誘拐犯め!」

「どうしよう翡翠、否定できない」

「奇遇ね、私もよ。どうしてかしら」


 親猫が子猫を咥えるように捕まえられている魔法少女は、翡翠に脅されてもなお精一杯の威嚇をしてきた。


 とおははその姿を見て、すぐに結芽の後ろに身を隠した。認識阻害の効果で誰なのか分かっていないのだろう。完全に怯え切った様子で、これでは心当たりがあるかどうかも聞けそうにない。


 仕方がないので、とおはには部屋の隅に移動してもらい、結芽が魔法少女に近づく。


「ねえ、君、とおはの知り合い?」

「……も、黙秘する!」

「私たちはあの子が怪しい大人たちに追われてたから保護したの。話してくれないなら……痛い目に遭ってもらうしかないよ」

「しれっと私まで誘拐犯にしないでくれない?」

「共犯だから」

「否定できないや」


 魔法少女は部屋の隅で自分に怯えるとおはの様子と、結芽の目を見て、しばらく考え込んでから言った。


「……透葉が攫われたって、嘘なの?」

「私はとおはがどこかから逃げて来たことと、逃げ出した所の連中が探し回ってることしか知らない」

「私はなんにも知らない」

「それはごめんて」

「……」


 それから魔法少女は、もう一度とおはを見て、変身を解除した。うっかりその一部始終を見てしまったので、結芽も翡翠もこの子の正体を知ってしまったことになる。


 変身が解けると、コスチュームと認識阻害は機能しなくなる。少女がコスチュームの下に着ていたのは、とおはと同じような患者衣だった。

 結芽はその姿を見て、とおはに似ていると思う前に、あの写真の子だと気づいた。


 そしてこの姿なら見覚えがあるのか、とおはがその少女に駆け寄る。


「ひとはおねえちゃん!」

「透葉……!」


 並ぶと、気味が悪いほどそっくりな二人だ。夢唯と結唯のときは全くそんな風には思わなかったのに、二人は何かが違う。


 鏡に映った自分を引きずり出してきたような、型に素材を流し込んで量産したような、そんな歪な共通性を結芽は感じた。

 翡翠も似たようなものを感じたのか、顎に手を当てて何かを考えている様子だ。魔法少女だからこそ分かることもあるのかもしれない。


「あ、あの、ご迷惑をおかけしました。透葉が攫われたって聞いて、私すぐに飛び出したんですけど、あんまり細かい話までは聞いてなくて……」

「ひとはちゃんでいいの?」

「はい。波並(はなみ) 一葉(ひとは)って言います。妹がお世話になりました」

「……連れて帰るの?」

「えっ? 何かいけませんか?」


 透葉は一葉に駆け寄って抱き着いてから、離れようとしない。よほど仲良しなのだろうということでそれはいい。だが、透葉の事情を知っている様子が無いのはよく分からない。


 出会ったばかりの透葉は、明らかにおかしな様子だった。あんな格好であんな山奥を一人でいたのだ。熊が怖くてもそうしなければならないだけの理由があったはず。

 仲が良いなら、そのくらいは知っているはずではなかろうか。結芽はそう思って一葉を呼び止めたのだが、当の一葉はポカンとするだけ。


 なぜか翡翠に止められたので、結芽はそこで追及をやめて、大人しく二人を見送ることにした。


 支部から二人の姿が完全に見えなくなると、翡翠は変身した。


「よし、追いかけるよ!」

「あのときクラゲに負けてた魔法少女……!」

「見てたの!? というかどうしてそういう所を覚えちゃうの! アレは相性が悪かっただけだから!」


 緑と白を基調とした、シンプルな魔法少女らしいコスチューム。高校生にもなってこんな格好をするのは若干恥ずかしい気もするが、そこは考えたらダメだ。


 もっとヤバい格好の魔法少女だって大勢いることを、結芽も知っている。ゆえに出てきた感想は、入学式の日にクラゲ・黒奴(クロヌ)に敗北していた魔法少女だということだけだった。


「っ……そのことは今は置いておく。まずは二人を追う! 魔力の反応を辿れば、簡単に見つかるはずだよ」

「……あっ、そのポーズは『背負うから乗れ』の合図か」

「むしろ何だと思ったの!?」

「足跡でも辿るのかなって」

「それは無理だよ!」


 結芽はジェードにおぶられて、一緒に空を飛ぶ。ジェードが頑張って魔法を使い、空気抵抗を無くしているので、空の旅は快適そのものだった。

 認識阻害も使っているのか、農作業中の人に影がかかっても、特に気にする様子がない。


「……そういえば、どうして私も連れて来たの? 魔力を追うなら翡翠一人でもよくない?」

「あ、言い忘れてたけど、変身中は『翡翠』の魔法少女かジェードって呼んで。身バレしたくないからさ」

「じゃあジェード、私を連れて来た理由って何?」

「……うっかりしてた!」

「えぇ……」


 背中の上でただくつろぐだけというのは退屈なので、結芽は自慢の視力を活かして地上を観察する。高いのはそこまで怖くない。このくらいならまだ、上手くいけば骨折だけで済む程度だ。


 しかしジェードの飛行速度が高いので、情報は取捨選択しないと知恵熱を出してしまいそうだ。

 とりあえず白っぽいものを優先的に観察するようにすると、木々に紛れた数人が空を見上げていることに気づく。


 結芽はジェードの背中から大きく身を乗り出し、それに気づいたジェードが急停止するのを狙う。


「ちょ、ちょっと何してっ――!?」

「背中のアレ、やっぱり銃だったんだ」


 急停止した瞬間、さっきまで進路上だった場所を銃弾が通り抜けて行った。


 状況を理解したジェードは何も言わずに結芽を背負い直し、見事なバレルロールで銃弾を回避しながら高度を落とし、木の上のギリギリという狙いにくい位置をジグザグに飛び回る。


 結芽は、強靭な三半規管のおかげでこの急制動をものともせずに、まだ敵が追ってきているのを視認するだけの余裕があった。


「パワードスーツ……SFかな?」

「多分、魔力の軍事転用だよ! まさか成功してるとは思わなかったけど……ねっ!」


 一瞬だけ後ろを振り向いた翡翠は、魔法が使えない人間でも見えるように発光する魔力の球を飛ばす。


 枝から枝にジャンプして追って来た白いパワードスーツの大人たちは、当然のようにそれを弾き返す……が、結芽が追撃に放っていたボールペンが直撃して、数人が脱落する。


 ジェードも大人たちも想定外の事態に、動揺で制御を誤った全員が森の中に落下した。


「よし」

「良くないよ!?」

「殺しはしないように調整したから大丈夫」

「どうやって!?」

「それより、次が来るよ」

「っ……!」


 咄嗟に魔力防壁を発動させ、銃撃をやり過ごす。しかし敵は何人かでタイミングをズラしながら撃ってきているようで、弾幕が途切れることはない。

 しかもその間に、連中は徐々に包囲網を完成させつつある。流石のジェードも、この猛攻には防壁を破られる――ことは無い。どれだけ銃弾を浴びせられても、防壁にはヒビ一つなかった。


「……舐められたものだね。これでも私、ロータスの後釜として花園に勧誘されてたくらいなんだけど……情弱さんしかいないのかな?」


 子供相手でも容赦のない攻撃に、ジェードは加減する必要が無いと理解した。


 その後は一瞬だ。魔力弾をデコイにして、防壁でぶん殴る。丁寧に等間隔で並んで囲んでくれたので、対処は簡単だった。


「おっと、危ない」

「うげぇっ!? さ、最新型の魔導スーツだぞ……!? 魔法少女でもない、こんなガキに……!?」


 一人だけ別行動していた奴が結芽に不意打ちを仕掛けたが、結芽は軽々とそれを回避して組み伏せる。捩じ切るつもりで腕を固めてやれば、相手はすぐにギブアップした。


 ジェードの方に視線を移すと、魔法で強化した身体能力で大きめの岩を力づくでどかしていた。その下からは、潜水艦のハッチのようなものが現れた。


「二人はそこに入ったの?」

「うん。魔力の反応はこの先に続いてる」

「えっ、俺のことは無視かー?」

「ねえ、おじさん。アレって勝手に入ったら警報とか鳴るかな?」

「し、知るかよ……」

「ジェード」

「カッターとチェーンソー、どっちがいい?」

「分かった話す! 金で雇われただけだからそう大した情報はねぇけど、話せるだけ話す!」


 結芽が腕を強めに捩じると、男のスーツの黒いラインが紫色に発光する。面白がってチカチカさせていると、スーツが鉛のように重くなって動かなくなった。充電切れだろうか。


 腕が変な位置で固定されてしまうのは流石に可哀そうだったので、結芽は親切に力技で腕を普通の位置に戻す。

 スーツから嫌な音がしたが、滑らかに動くようになったのだからプラマイならプラスのはずだ。



「……そこの魔法少女、魔力の防御を力技で突破できる人間に心当たりは?」

「それは多分人間じゃなく、ヒト・黒奴(クロヌ)かな……」

「失礼な!」

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