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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第六章 夏はまだ終わらない
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第六十話 情報収集

 とおはからの事情聴取は翡翠に任せて、結芽は再び川を訪れていた。今度は釣り竿を持って、何かあっても釣りに来たと誤魔化せるようにしている。


 川辺にはまだ何人か残っていたが、あの時聞き取ったような重装備の者はいない。代わりに、この近所で畑仕事でもしていそうな人たちが何かを探し回っている。


 その中の一人が、結芽を見つけるとすぐに駆け寄ってきて、やはりとおはについて尋ねてきた。


「き、君! 突然ですまないが、この辺りで小さな女の子を見なかったかい!?」

「どういう子ですか?」

「九歳の子で……えっと、この写真の子にそっくりのはずだ!」


 写真に写っているのは、とおはにそっくりの子供だった。しかし結芽の目は、わずかに骨格や顔つきが違うことを見逃さない。

 姉妹か、親戚か、人質か。いずれにしても、似たように逃げたがっている子がまだいる可能性があることだけは理解できた。


「この子にそっくりということは、この写真の子が迷子になったわけじゃないんですか?」

「迷子になったのは、その子の妹さ。少し目を離した隙に……」

「見ての通り釣りに来ただけですけど、魚がかかるまでは周りに気をつけるようにしますよ」

「見つけたらここに連絡してほしい。それじゃ!」


 何も嘘は吐いていない。既にとおはを見つけていることを隠しているだけで、見つけたら連絡するとは言っていないだけで、結芽は嘘を吐いていない。目の前の大人は嘘発見器などを持っているわけではなさそうだが、念のためだ。


 最初は何かを探るような目をしていた大人も、最後にはすっかり騙された様子で去って行った。念を入れて正解だったようだ。しかし結局、今の話だけではとおはがなぜ追われているのかまでは分からなかった。


「そっくりの子ねぇ……」


 結芽の頭に浮かぶのは、夢唯と結唯のことだ。あの双子の場合、劣等感やら何やらで夢唯が結唯を避けていただけだったが、今回は話が違う。


 写真の中のとおはにそっくりの子は、色々なオモチャが置かれ、絨毯まで敷かれた豪華な子供部屋の中で、ぬいぐるみを抱きしめて座っている。

 患者衣を着て裸足のまま山の中を逃げ回っていたとおはと違い、随分と恵まれた境遇のように見えた。


 実際の所がどうなのかは分からないが、とおはは冷遇されていたのかもしれない。あるいはあの様子だと、かなりファンタジーな考えになってしまうが、実験台か何かにされていたか。


「私がそれを知って何ができるのかって聞かれると、答えに困っちゃうんだけどね」


 かつての首都があった旧都心は、今ではスラムになっている。いざとなればそこに置いてくれば、まだ幼い子供なのでそこまで酷い扱いを受けることはない……はずだ。


 とはいえ、あくまでそれは最終手段。ここまでの推測は全て間違いで、とおはは親や姉妹とのちょとした喧嘩の末に逃げ出してきただけという可能性も否定できない以上、下手なことはできない。


 結芽は先ほどの大人たちが見えないくらい川の上流まで歩き――山の中へ踏み込んで行った。


「離れてても分かるくらい相当な重装備だったし、足跡でも残ってないかな」


 そう呟きながら、結芽は草木をかき分けて山の奥へ進んでいく。


 今日の昼ごはんはインスタントで済ませるつもりでいたので、釣竿やクーラーボックスは本当にただのフェイクだったのだ。いざとなれば攻撃にも利用できるので、持ってきて損はないのだが。


 しばらく進むと、昨日足音のした場所までたどり着く。しかしどうやら、後から足音や痕跡を可能な限り消したような跡がある。

 せめてもう少し自然な感じに取り繕えないものかと、つい結芽は思ってしまう。これでは、探られると困ることがあることを自分から教えているようなものだ。


 もしかしたら動体検知カメラか何かでも置かれていて、わざと痕跡を残し、探りに来た連中を特定しようとしているのかもしれないので、結芽は自慢の視力を活かして遠くから観察するだけにしておく。


 茂みに隠れて足跡を観察し、僅かに残った土の凹み具合や草の倒れ方などからせめて重量くらいは推測できないものかと眺めていると、誰かの話し声が聞こえてくる。獣道すら無いこんな場所で、話し声が。


「あのガキ一人の捜索に力入れ過ぎじゃねぇの?」

「……無駄口を叩くな」

「いいだろ別にぃ、誰も聞いちゃいないさ。それに、どうせガキはもうその辺の住民にでも保護されてんだろ。で、通報されて研究所のことが明らかに……」

「黙れと言った」

「へいへい、お堅いこった」


 痕跡を挟んだ反対側の方から現れたそいつらは、白と紺のパワードスーツのようなものを着て、同じ色のフルフェイスヘルメットを被っていた。

 足音は重く、スーツの金属が擦れる音は、昨日聞いたものと同じであることに結芽は気づく。また、背中の箱のようなものからは火薬の臭いがする。


 都心のハロウィンでも異質な、山の中では一層おかしな格好の二人は、片方がべらべらと情報を喋ってくれたおかげで、あまり考えなくても素性が分かった。


「つーか、何で昨日も通った場所まで来なきゃいけねぇのさ」

「報告は聞いただろう」

「観光か親の帰省で一緒に来たやつが上流に釣りに行った、だろ? なら川にいんだろ」

「……はあ」

「わーってるよ。金は貰ってる、その分の仕事はするさ」


 結芽は音を立てないようにしながら自然な感じに足跡を消し、踏んだ草を元のように戻して、ゆっくりと川の方へ後退していく。

 二人はヘルメットで視界が遮られているのか、それとも気づいていないフリをしているだけかは分からないが、結芽の方へ視線を向けることはなかった。


 パワードスーツ、研究所、あのガキ。思っていたよりも面倒な事態になってきたことを、結芽は理解した。





 川で何匹か魚を釣ってから支部の部屋に戻ると、ドアに鍵がかかっていた。ノックをしてみても、反応がない。


「……翡翠、あと三十秒以内に返事が無ければ、緊急事態とみなしてドアを破壊するよ」

「あ、ゆめおねえちゃんだった」


 しかし声をかけてみると、すぐにとおはが鍵を開けた。中に翡翠はおらず、どうやら留守番中に攫われないようにするために静かにさせていたようだ。


「ただいま。翡翠は……『帰ったら連絡しなさい』?」

「でんわにでないから、なにかあったんじゃないかって、さっきでていった」

「ああ、そういえば、電源切りっぱなしだったっけ」


 隠密行動中に携帯が鳴ってしまっては困るので、森に入る前に電源を落としていたことをようやく結芽は思い出した。


 着信履歴には、美音たちを経由して知ったのか、翡翠からのものらしき電話が何十も残されていた。


「……あ、もしもし?」

『結芽!? 今どこ!?』

「支部の部屋まで戻ったよ。ごめん、ちょっと電源切ってたの忘れてた」

『どれだけ心配したと思って……! ……まあいいや。すぐ帰るから、私が帰るまでドアには鍵をかけたままにしておいて』

「窓のカーテンも閉めっぱなし?」

『うん。何かあったら危ないから』

「分かった、それじゃ」


 電話を切ってすぐに、結芽はドアの鍵を閉め直す。ついでに救急箱にあった医療用のテープで覗き穴を塞いでおいた。向こうの様子は、結芽なら音で分かる。覗き返される方が厄介だ。


 とおはと一緒にテレビを見たり、翡翠が買ってきたらしい折り紙で一畳ほどの大きさのドラゴンを折って見せたりしていると、外の廊下から足音が聞こえてきた。


『私よ、翡翠よ。開けて』

「……!」


 すぐに鍵を開けに行こうとしたとおはを抱き上げて、結芽は静かに耳を澄ませる。


 尋ねてきた人物は、翡翠にしては足音が軽すぎた。ノックの音がする位置も、翡翠がノックするならもっと上になるはずの場所から聞こえてくる。



『ね、ねえ? 鍵、忘れちゃったの。私、翡翠だってば。早く開けてくれないと熱中症に……』

『――へえ、奇遇ね。私も翡翠って名前なんだけど』

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