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赤目が影を潜めたまま、エサになった人が出た。赤目の吸血化がかなり進行しているのか、吸われた奴の吸血化が早く、もう発症していた。見つけ次第すぐに治療に入るが、下手すると第二、第三の被害者が出かねない。
男が見つからないまま時間が過ぎ、学外のゲストは追い出されていった。一緒に出て行った可能性もある。連と玲二が帰る人を探ると言って校外に出て行った。
俺は片付けだ。準備はろくにしていない分、サボるわけにはいかない。
ゴミ袋を持ってゴミ置き場まで行くと、先にゴミを捨てに行っていた三上が立ちすくんでいた。
視線の先に…、あいつだ。
獲物にしたうちの女生徒の首にかじりつき、力なく崩れていくのをまだ吸い続けている。女もとろんとした目で吸われるがままだ。
何を思ったか、三上はあの二人のそばに行こうとした。
「行くな、同じ目に遭いたいのか」
思いっきり腕を引き、倒れようと気にせず、飛び上がって二人の元に着地した。
こっちを睨む赤い目。朝会ったあいつで間違いない。
ゆっくりと首から牙を抜くと、振り返りざま片手で突き飛ばされた。一振りで体がぶっ飛び、木に当たって止まった。背中が痛む。吸血鬼の力はほぼフルパワーだ。
女の方は吸われた時のまま、脱力し、まだ薄ら笑いを浮かべている。
もう牙が出そうだ。あの赤目は特別濃いのか?
三上が女の元に駆け寄っている。あのばか、
とっさに治療薬を投げた。
「三上、これを! 額に打て。早く!」
あいつは見ていたはずだ。俺が小田先生を治療していたところを。
受け取った治療薬をしっかりと握り直すと、正しく額に薬面を当て、薬剤を押し込んだ。
薬が額から染み込み、効いているのが判る。
あっちは大丈夫だ。だがこっちは、よけるのが精一杯だ。
片手で胸ぐらを掴まれ、足が宙に浮く。手が緩められないまま、蹴りを入れても大して効かない。駄目だ。どうにも血が足りない。朝少し拝借した分もとうの昔になくなり、力に変えられない。
向こうは血を補給したてでパワーがあり余っている。振り回す腕が当たっただけで、中庭の木が折れた。両手で軽々と俺を持ち上げると、そのまま投げられ、軽く5メートルは飛び、背中から地面に落ちた。
くそ。全身痛い。我ながら骨が折れてないのが不思議だ。
「だ、大丈夫?」
飛ばされたすぐそばに、三上と喰われた女がいた。喰われた女は眠っている。
隙を見て、あいつにも治療薬を打つ。他に方法はない。
手を伸ばすと、すぐに判ったらしく、三上はさっき預けた治療薬を差し出してきた。
それだけじゃ足りない。
悪いが、伸ばしてきた手首を掴んで引き寄せた。
「この前、助けたお礼、もらってもいいよな」
返事も聞かず、油断している三上の首筋に口を当てた。
唇が触れたところから、まるでスポンジに含まれた水を吸うかのようににじみ出る血液を口に含んでいった。
喉を通った瞬間、そのうまさに心が震えた。
朝、味わったあの味だ。この味を、俺は知ってる。
自分の中の飢え以上に、この味が欲しくて仕方がなかった。あまりのうまさに、夢中になってむさぼった。…体に染み渡る。充足感があふれてくる。
逃げようとする体を押さえつけ、しっかりと抱きしめて、逃がさない。
これは俺のもんだ。
三上がふらついても、理性が戻らなかった。
飲み過ぎてる。そう気付きながらも、口を離すのが惜しい。
完全に脱力している。…やり過ぎた!
唇を離し、もう一度抱きしめてから、ゆっくりと地面に横たわらせた。
「ごちそうさま」
反省よりも歓喜が強かった。こみ上げる思いと、沸き立つ力に思わず笑みが漏れる。
所詮、俺は人間じゃないってことだ。だが、もらった分の仕事はする。
ここで俺がやられたら、三上も危ない。あんな奴に取られてたまるか。
あの男の元に戻るのは一歩で充分だった。
力がみなぎる。こんなにも力が沸くのを感じたことがないほどに。
いつもどれだけ最小限しか血をもらっていなかったかが判った。必要ない、そう思っていた力だ。
頬を一発殴っただけで、男がよろけ、尻餅をついて倒れた。隙なく首に回し蹴りを喰らわせると、さっきまで蹴りを入れてもびくともしなかった奴が、ひっくり返ったっきり、動かなくなった。
ちょっとやり過ぎたか、泡を吹いて倒れている。
しかし、いつ復活するか判らない。むかつく野郎を足で胸を踏みつけて動けないように固定し、治療薬を二回…念のためもう一回打ち込んだ。
ここまでいくと、薬が効くのもちょっと時間がかかるだろう。…当面目覚めそうにないが。
三上が治療した女子が意識を取り戻した。
首の傷は残っているが、犬歯はない。完全に発症する前に薬を使ったので、経過は見といた方がいいだろう。
何も覚えていない。ここに来る前のことも、嚼まれたことも。
「みんな、校庭に集まってる。すぐに行った方がいい」
ヴァンピールの「指示」に、すっくと立ち上がると、振り返ることなくみんなのいる校庭へと走って行った。




