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(対の話にないエピソード、入ってます)
文化祭が始まり、警戒と冷やかしに連と玲二も来ると言っていた。
俺は2時間だけクラスに奉仕すればいいことになっていて、それが朝の九時から十一時、模擬店の「売り子」になることだった。
クラスの実行委員、大磯の太っ腹な提案を飲んだのはこっちだから、仕方がない。ありとあらゆる準備をしなくていい代わりに売り子をしろ…とは聞いていたが。
まさか女子に混ざって女装させられるとは思わなかった。
「うーん、虎倉君、君は私が思ったとおりの美女よ!」
にっこりと、メイドさんの格好をさせられた男が笑うと、周りのメイド女子達が
「やーん、虎倉君、『お帰りなさいませ、お嬢様』って言って!」
「『お帰りなさいませ、お嬢様』」
けっ。
「超美人!! 一緒に写真撮ろ!」
「大磯、えらい!よくぞこの提案を思いついた!」
そのうち、裏方担当の奴らまで出てきて、写真撮影会が始まった。
朝一番なこともあり、客は少ない。なのに教室が内輪だけで異様に盛り上がっている。
こっちは昨日からどんなに飯を食っても空腹感が収まらない。この屈辱の2時間を耐えたら、今度は学内の見回りだ。少し血を補充しておきたいところだが、宛てもない。
三十分ほど経って、客の入りが悪いことにしびれを切らした大磯と三上が、看板を持ってきた。
「虎倉君、これ持ってビラ配ってきてよ」
「はん?」
「虎倉君ほどの大柄美女が宣伝したら、絶対みんな来るって」
「十一時から木崎君と、一時から渡辺君も出るから、2-7メイドさんとメイド君喫茶、時間限定イベント、しっかり広報してきて」
…ちゃんと聞いてなかったけど、すごいイベントになっていた。そうか、俺は元々2時間限定イベントのレアキャラだったらしい。…まだ始めの2時間で良かった。
そうだ。この機会を逃すことはないな。
「腕相撲してそっちが勝ったら、行ってやってもいいよ」
鼻で笑ったら、
「よし!」
と三上が目の前に座った。
こいつは裏方担当で、いつもの制服だ。見回り中に何度か見かけたが、準備にいろいろ働いていた。結構世話焼きらしい。
「両手はハンデね」
がっつり手を掴まれたんで、丁度いい。悪いが少しだけ血をもらう。久々に手から、バレないように、少しだけ…
…?
知ってる、この味。…? どこで?
「あ、校長先生が女装してる!」
突然叫ばれてふと窓の外を見たら、すごい力で腕を倒された。
見ると、三上の手の上に大磯と坂下まで手を置いて、無理矢理俺の手を押し倒していた。
当然、先生はいない。くそ、やられた。
「きったねえ…」
喜ぶ三人に看板とチラシを手渡され、渋々ながら校内を2周した。
いつもとは違うキャーキャーと、うおおおと、訳の判らんシャッター音に笑顔で答えて、声は地声で「2-7でやってます。よかったら来て」と言ってはチラシを配りまくった。あっという間にチラシは捌けた。
教室に戻る途中、人気の少ない場所で変な男に声をかけられた。
「君、この学校の人?」
俺がにっこり笑った一瞬、目が変わった。
「そうですけど?」
地声のまま言うと、男と判ったらしく、露骨にげっという顔をして、そのまま去って行った。
だが、…多分、間違いない。あいつは赤目だ。
他校の制服だ。なるほど、自分の正体がばれないよう、あえて他の学校でエサを漁っていた訳か。
人の振りがかなりうまい。
治療薬は制服のポケットで、手元にない。とりあえずはやり過ごすしかない。
途中でいとこの連を見つけ、男の特徴を伝えた。俺もすぐに追いかけようと思ったら、
「まだ時間じゃないよ、ほら、働く働く」
と、着替えを捕虜に取られ、もう一時間、みっちり店で愛想を振らされた。
呼び込みの甲斐もあってか、店は盛況だった。男女を問わずご指名まである。すっかりナンバー1メイドだ。
残業は断り、終わると同時に着替えてあの男を追ったが、連も見失ったようだった。




