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 小田先生と沢村はまだ続いているようだ。

 沢村は感染しているが、どうもまだエサになっているだけで、自分はまだ獲物を入手していないようだ。赤目の男が少しばかり血を融通したところで、奪う方が圧倒的に多いだろう。

 声をかけると、すぐに反応した。

 感染してそこそこ経つだろうに、まだ人としての体裁は取れていた。

 男がいても悪びれることなく恋人に志願し、その日の放課後、人気のない教室に呼び出されると、早々に襲ってきた。

 ずいぶん飢えていたらしい。

 愛のかけらもない激しい襲撃をすぐに押さえ込み、早々に治療を終えて、それまでのやりとりはなかったことにするよう、命じた。拒否権はない。

 本気の付き合いかどうかは判らないが、当面小田先生にも近寄らないよう、「指示」をした。少なくとも赤目の治療が終わるまでは。

 その後は俺の知ったことじゃない。


 愛する「食料」、沢村を失い、小田先生の空腹が増したようだ。また一人感染してしまった。こうなってくると、彼氏の振りをして監視するのも面倒になってくる。

 しかし、よりよい食糧確保のため、いや、人類平和のために、そうも言ってられない。

 学祭も近い中、準備期間に二人「治療」した。いとこの連も一人治療したらしいが、隣町はこのところ収まってきたらしい。

 こっちは次々に感染者が出現し、それもこの学校に集中していることを考えると、隣の市に住むはずのもう一人の赤目もまた、学内関係者かも知れない。なかなか尻尾を見せない。飢えてないわけがないんだが、飢えを表に出さず、確実に感染者を増やしている。


 今の「彼女」は一つ上の三年、井坂先輩。まだ発症していない。年下でも関係ないらしく、はっきりと顔が好み、と宣言された。ああそうですか。としか言い様がない。変わらず二週間のお試しは了承してもらったけれど、「二週間後には本採用ね」と自信たっぷりに言った。二週間もかからず俺がメロメロになると思っているらしい。やれるもんならやってみろ。多分1週間もかからず治療完了、はいおしまいだ。

 しつこくつきまとう女の変化に警戒しつつ、一人の時間を作り、校内を軽く見回る。

 文化祭の準備も大詰めで、皆忙しそうにしている。こっちはそれ以上の大仕事を抱えているので、役が回らないよう、言い訳をしては逃げていた。まあ、当日の役は仕方なく引き受けたが、できるだけ校内を回って、追加の感染者が出ないようにしなければ。学外者もたくさん来るこんなイベントは危険だ。

 階段で変な気配がして駆けつけると、腹を空かした小田先生が新たなターゲットに手を出すところだった。いい具合に赤い目を顕わにしている。

 ターゲットは自身の後頭部を小田先生の顔面にぶつけ、逃げかけたところで先生の人離れしたジャンプで退路を塞がれる。階段を上って逃げるも掴まり、首をひねられてむき出しになった首を…

 吸わせるか!

 顔面に拳を叩きつけ、一緒に落ちかけたエサ、クラスの三上の腕を掴んだ。小田先生は階段の踊り場まで吹っ飛んだが、何の衝撃もなかったかのようだ。

 足がすくんで動けない三上を二階に座らせた。

 突っ込んできた相手をよけると、迷わず三上の方に行こうとする。かなり空腹らしい。

 腹に本気の一発食らわせ、もう一度踊り場に戻ってもらう。

 胸ぐらを掴み、上半身を引き起こすと、額に治療薬を打つ。赤目になった奴には二発は打たないと、完全にウイルスを消すことはできない。

 薬は効いたみたいだ。短い深い眠りで人へと戻り、やがて目を覚ますと、事件が起こる前の小田先生に戻っていた。

 どうせ三上を襲ったことも、俺が殴ったことも覚えてないだろう。

 そのまま階段で転倒していたことにして、解散だ。

 気丈にも、三上が踊り場まで来た。怖がってはいるが、大丈夫そうだ。喰われなかったのはよかったけれど、このシチュエーションではこっちもエサにはしづらい。

 忘れさせたいところだが…こっちもガス欠寸前だ。悪いが、力は温存させてもらう。

「今のは…きゅう」

 何か言いかけた三上の言葉を遮るように、声がした。

「ああ、ここにいた!」

 立ち去った先生と入れ替わるように、井坂先輩が現れた。

 吸血鬼並みの嗅覚だ。まだ発症していないくせに…。とっとと発症してくれれば、さっさと治療しておしまいなのに。めんどくさい。

 …と言う本音は一切顔に出さず、三上とは何もなかったことをアピールすべく、まっすぐ先輩の元に向かった。

 腕に巻き付けられた手が、独占欲を示す。

 先輩に判らないように振り返り、このことは内緒にするよう、口元に人差し指を当てて合図した。それだけで三上は判ったようだった。


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