第五十四幕 夢浮橋
「まだあるぞ。村人の転住届の数が異様に多くてな。その理由を調査した結果、ギルドマスターの横暴さという返答が返って来た。廃村にする所業も罪だ」
「俺が村を出るときには半分の村人は外に出ると言っていたからな。おかしいことではないな」
「弟子と名乗っていた少年も手を貸していたことでギルドマスターとして生涯を終えることを命じられたそうだ」
ルルーシェと戦ったハンターの少年はこれから長いときを同じところで過ごすのは苦痛だろう。
さらに廃村となり人との繋がりはほとんどない。
村や町がない街道沿いにギルドだけあるというのは普通だった。
「まだ若いのにと、思うことはあるが、少なくとも成人している以上は自己責任でもあるな。まぁ暗い話はここまでにしておこう。ふたつ目だ」
「あぁ」
「マキシムが中央に返り咲いたそうだ」
話に興味がなく半分微睡みの中にいたロディは覚醒した。
ルルーシェとキルシェについて来る前までは一緒にいた相手だ。
気にならないわけはなかった。
「二十年前のことで中央が情報を隠蔽したことが明るみに出た。そのときにマキシムは上に直訴して左遷された。そのことで中央に魔獣軍という新設された軍隊の総責任者になった」
「ずいぶんと話が動いたようだが、魔獣を人が受け入れたのか?ヴィリシア」
「表面上と言っておこう。マキシムたちを中央に戻すのは、魔獣という戦力を物にするためと過去の因縁を水に流せという口封じだな」
「あの男ならもっと上に行くだろうな」
「ほう。キルシェがそういうなら良い男なのだろうな。一度、お相手願いたいものだ」
いい男となれば挨拶のように言っているのだろうから呆れることはして何も言わないことにした。
「話はこれくらいだな。ルルーシェの依頼の報酬だが、銀貨八枚というところだな」
「こんなにたくさん採って来たのに!?」
「スジロナグサは、この町の特産品なんだ。町人の大事な収入源だ。あまり高い報酬だと利益が出せない」
薬草が高いのは知っている。
小さいときから薬草採取の依頼をずっと受けて来たからだ。
「その代わりに、ギルドマスター代行で銀貨二枚を出そう」
「・・・ならいいよ」
「いいよという顔をしていないが、これにサインをしてくれ」
ルルーシェには銀貨二枚、キルシェには銀貨八枚が支払われた。
アイリーンたちと同盟を組んでいたときの報酬で金貨二十枚、手に入っているから懐が寂しいということもない。
「あと、このままギルドマスター補佐をしないか?書類整理をしてくれると助かる」
「断る」
「嫌だ」
箱に適当に入れられていた書類がきれいに並べられて、日付も揃っている。
忘れられていた依頼も日の目を見た。
処罰されないのかと言われれば、十分に処罰対象になるが、ハンターたちが仕方ないと諦めている以上はお咎めがない。
「なら古い依頼をいくつか受けてくれ」
「古いって、何年前の依頼だと思っているんだ?」
「うん?二年前?いや三年前くらいか?」
「五年前だ」
「・・・・・・いや、うん」
それも季節ものの依頼でスジロナグサの採取だった。
「・・・依頼完了としておくか」
「これからは書類整理を怠るなよ」
「誰か書類整理できる奴を雇うことにする」
今までこれで成り立っていたということに驚きだった。
「それでこれからどうするんだ?」
「一度、中央に行くことにする。マキシムに会いたいからな」
「うむ、昇進を祝ってやりたいからな」
「なら、中央まで運んでくれ。この書類を」
「中身は?」
「ルルーシェとキルシェの昇級申請書だ。A級ランクへのな」
依頼を受けていなくても実力があるとギルドマスターが判断すれば飛び級も可能なのが、この職業だ。
「分かった。運んでおく」
「キィと一緒?」
「あぁ」
「やったね」
次の目標ができたところで旅の準備をする。
まだ、何も見ていない。
「では気を付けてな」
「いってきます!」
「あぁ」
ギルドを出ると、まだ日は高かった。
「よし、ロディ競争だよ」
「うむ」
「転ぶなよ」




