第四十八幕 早蕨
朝起きると、ロディが戻っていなかった。
下で寝ているのかと思えば、酒瓶が床に転がっているのを見て状況を大まかに把握した。
「ルル、井戸で水を汲んできてくれ」
「分かった」
村にいた頃は隣の宿屋でよく見た光景だった。
そのまま酔いつぶれて二日酔いで目を覚ます。
対処方法は冷たい水を飲んで休むくらいだ。
「おい、ロディ起きろ。ヴィリシアも」
「むっ」
「うっ頭が割れそうだ」
「どうしたらそこまで飲むことになるんだ」
床に転がっている酒瓶を集めて踏まないようにする。
周りを見ると肴の類はないから本当に酒だけを飲んでいたのだろう。
「途中で飲み比べになってな」
「三本目までの記憶はあるが、あとは知らん。ヴィリシアはどうだ?」
「同じくだ。四本目の封を開けたところまでは覚えているが」
「どちらにせよ。そのあと、二人で五本は空けてるな」
どれも度数の高い酒だった。
いくら人でない二人でも酔いつぶれてしまう。
「ロディは魔獣だから飲めるだろうが、ヴィリシアも強いんだな」
「ふふん、惚れたか?」
「まったく」
「キィ、水持ってきたよ」
「ありがとう、二人に飲ませてやってくれ」
冷たい水で幾分か気分が楽になったのだろう。
眉間のしわが少しだけマシになった。
ハンターが酔いつぶれていたらギルドの前に掘り出しておく。
だが今回はマスターだ。
そんなことはできない。
「うう、気持ち悪い」
「今日は店じまいだな」
「そうするしかないな、ルルーシェ頼みがある」
「なぁに?」
「森にスジロナグサという薬草が生えている。本当は今日からハンターに依頼するつもりだったが、とてもじゃないがギルドを開けられない」
要約すると、スジロナグサという季節ものの薬草が森に自生し出すから採取して欲しいという依頼だ。
毎年、薬師たちからの依頼だが、今、ギルドを開けても対応できない。
でも薬は絶対に必要だからということでルルーシェに白羽の矢が立った。
依頼が完了しても元ギルドマスターのキルシェがいるから書類作成には困らない。
「頼めるか?」
「いいよ、行ってくるね」
「気を付けてな、ルル」
「行ってきます」
元気よく飛び出したルルーシェは楽しそうに森へと向かった。
臨時休業である札を表に出すと、キルシェはそのまま市へと向かった。
二日酔いに効く薬と食材の調達のためだ。
「町が大きい分、食材も豊富だな」
「おじさん、何を探しているの?」
「おじっ、そうか。おじさんだよな」
「何をブツブツ言っているの?良いものが揃っているのよ。見て行って」
年齢のことを気にしたことは無いが人から見れば十分におじさんであることを理解した。
落ち込んでいる暇もなく押し売りをかけられる。
「二日酔いの薬を探しているんだがあるかい?」
「二日酔いなら二軒隣のリンナ婆ぁの店にあるわ。ほら、今朝採れた果物よ。今ならおまけしておくわ」
何も買わないというのはできないから果物の籠をひとつ購入した。
おまけということで小さなりんごが入れられていた。
「いらっしゃい」
「二日酔いの薬が欲しいんだが」
「水に溶かして飲めばたちどころに復活するよ」
「二つくれ」
「あいよ、どうだい?今夜のために?精がつくよ」
押し売りはどこにでもあるが、ここまであからさまなのは珍しい。
丁重に精力剤は断って二日酔いの薬だけを買う。
薬を飲めるほどに回復はしていないだろうから食材探しのために路地に入る。
「・・・朝食のパンが欲しいのならロッテンガーの店がおすすめよ」
「アイリーン」
「思っていたより早く戻って来たのね」
エルフの里に行っていることを知っているアイリーンはこのまま戻って来ない方に賭けていた。
元人であるカイルは戻ってくる方に賭けていた。
「おかげで賭けに負けちゃったじゃない」
「俺のせいか?」
「時間、あるでしょう?おすすめの場所があるのよ。ついて来て」




