第四十七幕 総角
「長く話してしまったな」
「いや、こっちこそ悪かったな。ロディ、ルルを起こしてくれ」
「このまま泊まっても構わない。ソファになってしまうが」
「そうか?なら有り難く泊まらせてもらうか」
「その代わり夜は長いぞ?」
「生憎、相手には困っていない」
簡単にあしらわれたヴィリシアは棚から毛布を出すとキルシェに投げた。
キルシェは気づかなかったが、ヴィリシアの誘うときの瞳の瞳孔が細くなっていたのにロディは気づいた。
「我は夜の散歩を楽しんでくる」
「私も下で大人しく仕事をするとしようか」
「あぁ、お休み」
ルルーシェをソファで寝かせると、そのまま向かいに座りなおす。
まだ酒は残っていたから一人で楽しむのだろう。
「・・・・・・相手でもしてくれるのか?」
「人は対象外だ」
「残念だな」
「聞きたいことがある」
「淫魔がなぜギルドマスターをしている?」
瞳孔が細くなるのは淫魔の特徴で魅了して行為に持っていこうとしたときに表れる。
だが心から決めた相手がいれば魅了されない。
「ハンターには良い男が多いからな。それに魔物が働いても受け入れてくれる数少ない職業だ。そうだろう?ルルーシェも似たような種族だしな」
「キルシェを誘惑するのは止めておけ」
「言われなくてもそうさせてもらうよ。心に決めた者がいる者は誘惑できない。だが大変だぞ?必ずキルシェの方が先に死ぬ」
「それでも共にいると決めたのなら見守るだけだ」
同じような長命な種族同士なら何も問題はない。
だが人は短命な種族だ。
人と共にあることの難しさを知っている。
「男前だな」
「褒めても何も出んぞ」
「やはり一晩くらい共にしないか?」
「人は対象外だ」
ヴィリシアは人ではない。
ロディの断りの文句は通用しない。
「私は人ではないぞ。どうだ?」
「なら言い直そう。キルシェもルルーシェも気づいていないから人と称しておったが、我は、人型は対象外だ」
「性別は変えられるが獣型になるのは無理だな。仕方ない諦めるか」
「主が獣の姿になれたとしても相手としては断る」
「えらく堅物だな。硬派では女に受けんぞ」
「受けなくて結構だ。我は雌だ」
眠気覚ましに珈琲を飲んでいたヴィリシアは噴出した。
目の前にいたロディは被害を多大に受けることになった。
「雌だと!?ならその口調は何だ!?」
「それは主も同じであろう。口調だけで判断すると痛い目を見るぞ」
確かにヴィリシアは女性の見た目で口調が完全に男のものになっている。
それでも見た目が女性だから口調が男性でも勘違いをすることは少ない。
「もう痛い目をみた後だ」
「主は性別も変えられるのに何をそこまで落ち込んでいる?」
「性別を変えられるからこそ相手の性別を見誤ったことに落ち込んでいるのだろうが」
ロディはわざわざ性別を明らかにしたことはないが、ほとんどが雄だと思っているのには気づいていた。
一緒に風呂に入ったからキルシェもルルーシェも気づいているが、何も言わないことからペットのような感覚なのだろう。
お互いに貞操の危機というものは感じていない。
そこを気にするのはヴィリシアくらいのものだ。
「ちょっと女らしく話してみろ」
「断る」
そんな押し問答が繰り返されるが、お互いに不快ではなく昔からの親友のように話していた。
人であるキルシェがいなくなったあとにルルーシェを見守るという目的で繋がっていた。
「主はどうしてその口調を選んだ?」
「そうだな。男に媚びたくなかったからかもしれないな」
「言いたいことは分かるな」
「甘えたようにすれば権力者の寵くらい簡単に手に入る。だがそれでは面白くないからな」
同族たちがヴィリシアを嘲笑っているのを知っている。
それでも人の世界に溶け込んで生きる方が性に合っていた。
「そろそろ仕事も一段落つきそうだな。どうだ?ロディ、飲み直さないか?」
「いいな」




