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第四十六幕 椎本

「ギルドの造りって似てるんだね」

 

「中央に近づけばもっと豪華なところもあるが辺境のギルドは似たようなものだろうな」

 

一階がギルドで二階以上が居住区になっている。

 

宿を兼ねているギルドもあるが、管理が大変だから少ない。

 

「来客も普段はないから持て成せなくて悪いが食べてくれ」

 

「急に悪いな」

 

「気にするな。外で話すようなことでもないからな」

 

干しただけにしては味の濃い干し肉をルルーシェとロディは競うように食べる。

 

「あれからルルーシェの伯父と名乗るハーフエルフに会った。そこで理のことを聞いて行ってみることにした」

 

「よく無事に近づけたな」

 

「そこはロディが道案内をしてくれた。どうせ分かっていると思うがロディは話せる」

 

ロディが魔獣だと見抜いていたから話せるということにもさほど驚きはない。

 

仕草で話の続きを促す。

 

「幼い頃に調停者であるエルフの里に迷い込んだことがあるというし、理を守っているとハーフエルフも言っていたからな。行くことにした」

 

「エルフは人に関わらないと聞いていたからな。いかにハーフといえども珍しいことだ」

 

「ルルーシェがエルフの一族と少し関わりがあったからな。長だというエルフから話を聞いた」

 

「ここは全ての憂いを取り払うことのできる理想郷だとでも諭されたか?」

 

ヴィリシアは冗談めいて返した。

 

エルフの里に行った者は帰ってこない。

 

それはきっと悩みもない素晴らしい場所なのだと噂されるようになった。

 

「悩みも持つ必要がないほどに何もない場所だった」

 

「それなら穏やかに過ごせそうだな」

 

「過ごせるだろうな。眠ることも食べることも死ぬこともしなくていいからな」

 

「どういうことだ?それでは生きていると言えるのか?」

 

「それは知らないが、俺たちはあの場所にいたくないと思い出てきた。中では話を少し聞いただけだ。そして一年もの時が過ぎていた」

 

ヴィリシアの中ではもっと繁栄した町があるのだと思っていた。

 

毎日が楽しく過ごせるのだろうと。

 

だからいなくなった人は帰って来ない。

 

「何もないということは時間すらないということなのか?実際、そんな場所があるのかは疑問だが、そこに行き帰って来た者が言うのだから信じるしかないな」

 

「エルフの里を出て一年の時が過ぎていたのには驚いた。きっと戻った人もいただろうが知り合いはいなくなっていたんだろうな」

 

「理に近づいてはならない。私の生まれた村は理に近い村だった。今はもう無いが幼い頃に、理は黒の魔女が作ったものだから近づいてはいけない。近づけば魔女に食べられてしまう。そう聞かされて育った」

 

「黒の魔女?」

 

「夜になると理のある方角だけが月夜にも照らされていない暗闇があった。そこから黒の魔女と呼ばれるようになったのだろうと思う」

 

子どもを理から守るための知恵だったのだろう。

 

興味本位でも近づいたりしないようにするための。

 

「エルフが言うには五百年前の地殻変動で住処を追われ、理の管理者となることで一族を存続させたと言っていたな」

 

「黒の魔女というのは本当にいたのかもしれないな。異国では魔女は不可思議な術で死者をも蘇らせるらしいからな」

 

「理とは俺たち人が触れてはならない神の領域なのかもしれないな」

 

「生きる者にはそれ相応の分というものがあるのだろうな。それを越えればまっとうな死を迎えることができなくなるのかもしれないな。あれから何度か腐らない綺麗な死体が見つかっている」

 

理に触れたことで生き物としての死を迎えられないまま終った。

 

「なんにせよ、戻って来てくれて良かった。優秀なハンターがいなくなるのは痛手だからな」

 

「本音はそこか」

 

「何を言う。心配はしていたぞ。だからギルドで待っていたじゃないか」

 

「出られないだけだろうが」

 

ギルドマスターは私用で出ることはできない。

 

抜け道はあるが基本的に出られない。


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