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第四十五幕 橋姫

キルシェのことを年寄りだと言っていた男は短気な性格をしていた。

 

何も反応を返さないルルーシェに痺れを切らして掴み掛ろうと手を伸ばした。

 

その気配に気づかないほどルルーシェは弱くない。

 

「えっ?ぐっ」

 

手首を掴んでそのまま体を床に叩き付ける。

 

息が止まる程度に加減しているから死ぬことはない。

 

「謝ってもらわなくていい」

 

「ぐっ、お前」

 

「ギルドでもめ事は止めてくれ。これ以上の騒ぎは処罰させてもらうよ。アルティオ」

 

「どうして僕だけが」

 

「ギルドマスターである私の判断だよ。先に手を出した者が悪い」

 

手というのは何も暴力だけではない。

 

アルティオが先にキルシェを貶したことが問題視された。

 

「だいたいB+級のランクにいるハンターをC級になりたての者が貶すなんて恐れ多いだろうよ」

 

「僕はこれからすぐにA級になる男だ。処罰なんてあり得ない」

 

「そうか。ならこの依頼を受けてくれ」

 

「ポイズドキングの討伐か。すぐに達成してやろう」

 

依頼書が正式な様式で書かれていないのにも気づかず、ヴィリシアの走り書きということに疑問も持たずにギルドを出た。

 

勘違いをするハンターは一定数いる。

 

だが、自信過剰はランクを上げる前に命を落とす。

 

「私が手を下さずとも近いうちに死んでいただろうが、それなら最後くらい役に立ってもらおうと思ってな」

 

「そうか」

 

「あまり褒められた方法でないことは承知の上だ。さて、いろいろと聞きたいこともあるが先にこちらから話そう」

 

「助かる」

 

「あれからポイズドクイーンの報告書を中央に送った。いつもは音沙汰のない奴らがすぐに返信を寄越したよ」

 

ポイズドクイーンは伝承などではなく現実に存在する魔物である。

 

今後は長期の眠りにつく可能性が高いことから安全性は確保できるがギルドにて最重要事項として伝えよ。

 

おおむね、そんな内容の手紙とポイズドクイーンの活動履歴をまとめた書類が送られてきた。

 

「伝承だと思い信じなくて済まなかったな」

 

「いや、俺も自分の目で見なければ信じなかっただろうから構わない」

 

「そう言ってもらえると有り難い。お詫びにだが、これがポイズドラゴの血を売ったときの報酬の一部だ」

 

「いいのか?」

 

「本来ならもう少し取り分があるが、流れになったからな。いや流れにしてしまったというのが正しいか」

 

中央からの連絡にキルシェたちが本当のことを言っているのだと分かり、謝罪をしたいと思っていた。

 

だが急に足取りが分からなくなり、一年もの期間が空いた。

 

マスターである以上は私用で外に出ることが叶わないから待つしかなかった。

 

「ひとつ良いか?」

 

「どうした?」

 

「さっきのポイズドキングも出没したのか?」

 

「そのことか。ポイズドラゴのことをポイズドキングというらしい。中央の報告書に載っていた。だが奴は気づかずに縄張りに入るだろうな」

 

マスターというのも綺麗ごとだけでは務まらない。

 

そのことはキルシェも分かっている。

 

自分の力量を見極められない者はハンター全員の秩序を乱す。

 

「本当にA級になったら、それは奴の持つ運というものだろう」

 

「そうだな」

 

「この一年、何があったか聞かせてもらえるか?」

 

「そうだな。まずは理について知っているか?」

 

「理?黒の魔女が作ったとされるアレのことか?」

 

「どういうこと?」

 

理に対する認識に大幅なズレがあることに気づき、簡単に話せるものではないことに溜め息を吐いた。

 

「再会の祝いに飲むか。ルルーシェ、悪いが看板を中に入れてもらえるか?」

 

「いいよ」

 

物心ついた時から片付けるのはルルーシェの役目だった。

 

手慣れたものだった。


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